名付けは「呪」イシスの名前が変なワケ【46[破]教室名総覧】

2021/04/28(水)09:39
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もし、黄色を意味するさまざまな名前を知らなければ。道端のタンポポも果物屋のレモンもむくどりの小さなくちばしも、その色味の違いは消え失せ、すべてが真っ黄のペンキで塗りつぶされる。画一的な言葉では、乱暴で貧弱なラベリングしかできない。
イシス編集学校はそれに抵抗する。編集は可能性を増やす方向へむかい、編集は新しい価値や意味をつくるのだ。そのひとつのあらわれが、過剰なまでのネーミングである。

 

初音ミク太郎にエディット・ピラフ。バニー蔵之助や丹田シャネル。これらはすべてイシスで生まれた教室名だ。4ヶ月間だけ生まれる学習スペースには、校長松岡正剛が固有の名を与える。2021年3月の時点で、その数は780にのぼる。開校以来20年、イシスの学び舎にはこの教室名が煉瓦となって組み積まれてきた。


Googleさえもまだ知らぬ名前をもつのは、教室だけではない。
教室の仲間とのオフ会には「汁講」、回答の評価をおこなう目利きは「同朋衆」、師範代や師範たちの研鑽の場は「伝習座と、それぞれ平安貴族や室町武士などの文化にあやかった名を借りている。

 

開講1週目を迎えた46[破]でも、10のユニークな名が並ぶ。

 ほろよい麒麟教室  ●尾島可奈子師範代
 調音ウラカタ教室  ●石輪洋平師範代
 あたりめ乱射教室  ●森本康裕師範代
 アジール位相教室  ●畑勝之師範代
 互次元カフェ教室  ●品川未貴師範代
 望眺世界塔教室   ●高橋陽一師範代
 多項セラフィータ教室●戸田由香師範代
 ジャイアン対角線教室●角山祥道師範代
 ゆかりカウンター教室●後藤陽子師範代
 王冠切れ字教室   ●大塚宏師範代

 

[破]の教室名は、「四次元カフェ」が「互次元カフェ」へと進化したように[守]時代の名に化粧がほどこされ、いっそう賦活されたものである。この暗号じみた数文字には、師範代の来歴から憧れまでが折りたたまれている。
46[破]を構成する言葉の圧縮ファイルは、これだけではない。教室のほかにも「チーム」がある。2人の師範代に1人の師範が伴走し、1期を駆け抜ける。このチームへの命名には、師範たちが腕をふるう。

名付けの方法はさまざまだ。

 

■ちゃっきり文

師範代や師範の集うチームラウンジで、まっさきに小気味よい音を響かせたのは「46破イチの狼藉モンでありたい」と誰より意気込む齋藤成憲師範。茶を鋏で切る音「ちゃっきり」をちゃっかり借りて、尾島可奈子師範代と石輪洋平師範代を「ちゃっきり文(もん)」と鼓舞する。いわく「裁つことから、立つも発つも起つも生れるのではないか」。チーム名を受けてすぐ、尾島は「鉄火で気風のいい感じ」とちゃきちゃき応答、石輪は静岡の地から「きりモン」とゆるキャラで切り返す。ひときわリズミカルなステップだ。

 

■嫋joe
音は音でも、同音異義語に着目したのは、初登板にして歌人の天野陽子師範。天野は、校長松岡がマスタープログラムと呼ぶ「故実十七段」を引用してきた。チーム師範代が「気になる」と言及した方法だ。引かれたのは『連塾ⅱ 方法日本 侘び・数寄・余白』(春秋社)のこの一節。
「緊張から均衡へ、さらに異質なもののあいだの交流も生じる。これを私は「嫋々」というふうに見立てました」

そして付けた名前は、「嫋joe(じょうじょう)」。たおやかな「嫋」と、男性を意味する「joe」。森本康裕師範代と畑勝之師範代、脂の乗ったビジネスジェントルメンが、たをやめぶりとますらをぶりの両翼ではばたけるようにとの期待を込め、教室模様も上々のすべりだし。

 

■たかく族
師範として32期登板、イシス史上第2位の記録をもつ北原ひでお師範は、ためらいがちに「たかく族」の名前を差しだした。たかく族は、ジャイアン対角線教室と多項セラフィータ教室とで結成されている。読み書きともに強者と名高い角山祥道師範代と戸田由香師範代の教室名から一字取り、たかく、高く、天空の破れ目まで飛んでゆくよう静かに応援をしている。角山はチーム名を聞いてすぐさま、他客、多核、多穫、他覚、と言い換えを連打。早くも連想と心意気は爆走、指南スピードも群を抜いている。

 

■ストロー区
夏にむかう今期、いちだんと涼しげなチーム名を付けたのは、初登板のバニー新井陽大師範だ。46[破]でダントツに早く名付けられたのが「ストロー区」だった。暑い日は、麦わら帽子をかぶり、ストローからアイスコーヒーをちゅーっと吸って。編集熱のたぎる福岡でカフェを営む品川未貴師範代の仕事ぶりと、世界の給水塔を網羅する高橋陽一師範代を一本のストローで結びつけてみせた。

 

■彡rium

いっぽう、「読めない名前」を投げ込んだのが歴戦の福田容子師範
チーム名は「彡rium」。「サンリウム」と読ませるこのチームは、太陽がキーワード。福田と組むのは、もともとは太陽の表面にある大気層を指す「コロナ」を、原義の「王冠」へと出世魚させた大塚宏師範代(王冠切れ字教室)。そして、10人目の師範代として白羽の矢が立ったのが後藤陽子師範代。45[守]での「縁カウンター教室」は、今期「ゆかりカウンター教室」へと進化した。窓辺からさんさんと降りそそぐ光が満ち、後藤の教室はひときわまぶしい。大塚の名「宏」を『字統』でひもとけば、「家屋の深広なるをいう」。奥座敷から縁側まで、師範代と師範のダブルYOKOが二倍の陽光で照らすはずだ。


名付けとは「呪」。ものやひとに、あらたな命を授けるの魂振りの編集である。10名の師範代は、校長松岡の「代」としての名を改め、先達からチーム名という護符を懐にしまう。67名の学衆を乗せた舟は大海へと漕ぎだした。

 

写真:原田淳子

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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