最新の『千夜千冊エディション 昭和の作家力』では、昭和の作家の生き方と作品が、イシス編集学校の校長、松岡正剛によって語りなおされる。現在の日本の起点であり、誘因ともなる昭和を知らずに、日本の再生はなかろうと言わんばかりだ。第2回目の伝習座を前に、51[守]の指導陣に、松岡による一冊一声『イメージ連想の文化誌』が手渡された。松岡が千夜千冊1081夜『イメージ連想の文化誌』を音読し、その内容について語ったものだ。第50期という節目を超えた今こそ、イシス編集学校の由来と本来を交わしたい。学匠の鈴木康代のたっての想いだ。伝習座当日は30名近くの指導陣が本楼に集い、林頭の吉村堅樹と鈴木の進行のもと、千夜千冊を辿りながら、一同で問答を交わしあった。
「そもそも学校ではなく『編集の国』をつくろうとしていた」。一月二十五日教室師範代の束原俊哉が、驚きをもって注意のカーソルを当てた。世界のどこにもないルル三条、まったく新しい言語のもと、新しい国に旅するように、相互編集状態をつくってほしい。このような世界観の構成要素として、イシス編集学校は生まれたのだ。
エジプトの女神イシスによる再生の物語の共読へと進む。女神イシスは、敵神のセトによって切り刻まれた夫オシリスの死体の断片を歩いて集め、縫い合わせ、冥福を祈った。かくして、オシリスは、永遠の生をもつ冥界の王として再生を果たす。ここで、吉村が問いを投げる。「女神イシスの名を冠するイシス編集学校では、何を再生するのか?」。現代は、検索によって容易く情報を得られ、わかりやすいレーティングで買うべき商品を決める。問いを投げれば生成AIが答えを出す。いまや編集力を使わずとも生きていける時代である。イシス編集学校が再生すべきは、「編集力」ではないか。無自覚なまま編集を終えようとする社会に抗い、個々人が秘めるいきいきとした編集力を取り戻す。師範代たちの背筋が伸びる。
さらに話題は、イエス・キリストの由来へと移る。キリストは、ヘブライ語で「油を注がれた者」を意味する。かつて王たちはオリーブ油を注がれる儀式を経て地位についた。イエスも油を注がれることによって聖別され、救世主となった。「教室名を授かる儀式は、油を注がれることだったのだ」と五七五クノー教室の師範代、一倉広美が声をあげた。イシス編集学校では、先に再生を果たした師範代が、救世主となって学衆に編集力の再生を促す。教室で混然一体となって触発しあい、変化を起こす。開校以来、継いできた有り様だ。
後ろで聞き耳を立てていた松岡が身をのりだした。人間の脳は、2歳半になって、ようやく情報を組み合わせて編集することが可能になる。が、実は、それ以前に受けているものがあるという。「私たちはつねにマザー・ネイチャーの中にいる」。イシスから始めたイメージの連鎖がたちまちイエス・キリストに重なる。このようなイメージの連想をもたらしてくれるのが、マザー・ネイチャーなのだ。私たちに本来備わっている編集力である。ここに立ち戻り、仲間とともに相互作用で動かしていけばいい。松岡が発破をかける。イシス編集学校の母国『編集の国』は、マザー・ネイチャーと私たちをつなぐための装置でもあったのだ。
「私たちは、いまも国造りの過程にある」。鈴木が、確かめるように指導陣に語りかけ、一同はひとたびの問答を終えた。イシス編集学校のおおもとを辿りなおし、松岡の覚悟と放埓を浴びた師範代たちは、「再生」の言葉を手に教室へと還っていった。
(文/ 阿曽祐子)
イシス編集学校 [守]チーム
編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。
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