イシス編集学校の笑顔担当、わたしたちを100%の明るさで照らしてきた師範・山根尚子さんが2023年1月3日にこの世を去りました。
あの笑い声をもう一度聞きたい。命日をまえに、2019年に制作したインタビュー記事を蔵出しします。聞き手は、山根師範代として担った39[守]千里チャクラ教室の学衆・梅澤奈央。梅澤は遊刊エディストが始動した直後、山根師範のインタビューを勝手に決行。この記事が、現在連載中の「イシスの推しメン」の原型にもなりました。
ヨガと編集稽古を全身全霊で楽しんだ山根師範のいのちの輝きに、すこしでも触れてみてください。
インタビュー日時:2019年12月2日
場所:阪急高槻市駅近辺 グッドサイフォンカフェ
山根師範に確認いただいた初稿のママ
44[守]師範・山根尚子 インタビュー(前編)
ヨガ講師の危機を救った、アタマの柔軟性
■おしゃべりできるヨガクラス!?
――山根さんのヨガクラスって、おしゃべりOKってお聞きしたんですが……
あはは! 大阪なのでねえ、話し好きのおばちゃまが多くてね。私がもっているクラスは、50代から80代の女性がメインで。ヨガのポーズしてても、一人が「なんかこんな気がする!」って喋りだしたら「私も」「私も!」って、もう止まらない(笑) そういうときは、好き放題しゃべってもらうようにしてます。
――え! ヨガってしーんとしたところで、黙々と練習するイメージだったので衝撃です。……それで学級崩壊しないんですか!?
カオスですよ(笑)でも、カオスでいいんです。同じポーズでも、みんな感じ方が違うんですよね。おしゃべりすることで、「ああ、そう感じるんだ!」って私も発見があるし、「次、この人はどんな発見するんだろう」って生徒さんの次の展開も楽しみになるんです。おしゃべりは、とっても大事です。
――なるほど。仲間とコミュニケ―ションをとることで、自分だけでなく教室全体で成長していくわけですね。
そうそう。そうやって日々発見があるから、私も生徒さんもレッスンが続けられるんだと思います。そうじゃなかったら、15年間毎週、ほぼ同じメンバーでヨガ続けることはできないですね。
――15年!?
ふふふ、すごいでしょう〜。ヨガの先生を始めて、最初に担当したクラスがいまも2つ続いています。
▲エディット・ツアーのなかで、ヨガポーズをとることも。会場は梅澤宅。
■ヨガ講師としての危機。それを救った編集学校。
――編集学校へ入ったきっかけって、何だったんです?
それはねえ、今話してたことができなくなったからなんです。
――え、どういうことです?
ヨガの先生を始めて、10年目だったかな、行き詰まっちゃったんですよね。生徒さんに気づきを促すのが私の仕事なのに、いつも同じ言葉しか出てこなくなっちゃって。
――ヨガって身体を動かすものですが、そのガイドには必ず言葉が必要ですもんね。大きな商売道具が使えなくなっちゃって、それは焦ったでしょう……
でも、どうしたらいいかわからないんですよ。手当たり次第、本を読んでみたものの、なにか違う。知識はアタマに入るけど、それが使えるようにならないというか。
――頭でっかちになった感じなんですね。
視野を広げなきゃって焦って、いろんな講習会に出かけているときにたまたま、藤田小百合さん(36[守]師範代)に出会って編集学校を紹介されました。言葉の勉強をしたいって言ったら、それにはぴったりですよって。すでに開講していた36守に、藁をもつかむ思いで飛び込みました。
――凝り固まったアタマをなんとなしなきゃと思って、編集学校に駆け込んで。[守]は、山田小萩師範代の毎日フィギュ―ル教室でしたね。そこでの体験はどうでした?
もう、忘れもしませんね! 001番の指南で完全にやられちゃいました。だって、これ見てくださいよ!(懐かしの指南をスマホに表示)
▲インタビュー時の1コマ。山根師範のスマホはいつもバキバキに割れている。
こんな回答、ありきたりかな〜と思って出したものも「ニクイ!」とかって驚いてくれて、もうこっちが逆にびっくりですよ。「そんなあなたがニクいわよ〜〜!」って(笑)
自分にとってのあたりまえも、ほかの人にとっては面白いんだと気づいて、ばーっと世界が広がる感じがしましたね。そこからはもう、小萩師範代がどんな言葉をかけてくれるのか、それが待ち遠しくてたまらなかったです。
――自分ひとりで閉じていた世界に、師範代の言葉が注がれて、一気に潤いを取り戻した感じですね。
そうなんですよね。自分で考えてるだけじゃ何も起きないけど、誰かと交わることで、自分のサークルがどんどん広がっていく。お稽古のときは黙ってられなくて、「その回答おもしろいですね!」とか、自分でもどんどん学衆仲間に話しかけてましたね。
――おお、おしゃべりできる教室の原型がここに!
■ヨガと編集稽古に通じるものは?
――編集学校入ってから、ヨガクラスの見え方も変わったのでは?
あぁ、変わりましたね。編集稽古って、回答したあと「振り返り」がありますよね。あれを見たとき「わー!ヨガと同じだ!」って思ったんです。
――というと?
ヨガって、ひとつのポ―ズとったら、すぐに別のポ―ズにいかないで、かならずくつろぎのポーズをはさむんですよ。あるポ―ズをとって、自分の身体や感情にどんな変化が起きたか、そこをトレースするのがなにより大事なんです。
――ポーズを完成させることが目的ではないんですね。「いい回答」を出すのが、編集稽古の目的ではないように。
そうなんです。たとえば……、くつろぎのポーズって、仰向けになって、手も床にだらんと投げ出すのが基本なんですが、どうしてもそれができない人もいるんです。胸とかお腹に手を置いちゃう。それは不安の表れなんですけどね。
編集学校に入るまえだったら、「胸から手を離してくださいね」って言って、ポーズを変えさせようとしてたんですが、いまは何も言わないです。見守るだけ。
長い目で見てると、いつか変わるんですよ。その人が腕を開いたとき、「開きましたね!」って一緒に喜ぶ。そのときに、「なにか感じかた変わりました?」って尋ねてみる。その変化のプロセスこそが大事なんだなって、編集稽古で教わりましたね。
――人が変わる瞬間に立ち会える喜びは、ヨガクラスでも編集学校でも同じですね。
回答・指南のやりとりをしていると、瞬間瞬間で「そうか!!」って数えきれないほど発見があるじゃないですか。あとは、長期的な発見もありますよね。「あのとき言われたのは、こういうことだったのか!」って。
師範として師範代を見ていても、いろんな変化を感じます。期が始まったころは、ネクタイをビシっと締めていた師範代が、たとえば汁講をきっかけに、ネクタイをほどいて、お腹から声を出すようになったなあとか。本人にも気づいていないようなちょっとした変化を見つけて、「ねえねえ変わったよ!」ってフィードバックするのはかけがえのない喜びですね。
▲2017年9月9日、第60回感門之盟にて。山根尚子師範代率いる39[守]千里チャクラ教室の面々。
(後編へつづく)
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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