道ばた咲く小さな花に歩み寄り、顔を近づけてじっくり観察すると、そこにはたいてい、もっと小さな命がきらめいている。この真っ赤な小粒ちゃんたちは、カベアナタカラダニ。花粉を食べて暮らす平和なヴィランです。
花伝所のキャンプに地図やガイドは用意されていない。あるのは与件のみ。 既成概念に捉われず多様な触発を引き起こし、よくよく練られた逸脱に向かうカマエが重視される。
43[花]のクライマックスは、2日間にわたるオンライン上のキャンプだ。「そわか庵」とネーミングされたキャンプ場に放たれた与件は、「ハイパー茶会」のプランニングだった。い・ろ・は・に・ほ・への6組に振り分けられた入伝生たちは、客人が「こんな茶会は見たことがないけど、見たかった」と思わせるハイパーな茶会企画を約40時間編集し続けた。
テキストのみで交わされる不自由なコミュニケーション空間では、追いつかない言葉と見失うスレッド、あわない予定にすれ違い、溢れるメールと焦るわたしが発生しつづける。
・途中から入っていく難しさは感じた(C.N)
・どのように対峙すればいいか見えてこなかった(H.H)
情報は常に動き、参照していたモデルは刻々と変化する。放り込まれた情報過多な場では、いつ、どこへボールを投げればよいかわからなくなる。その途端、様子見やためらい、周囲への遠慮、諦めが溢れ出し、自分も自分の外側も動かせなくなっていく。
キャンプとはあえて矛盾をおこしながらエディティング・セルフする実験舞台。投げ出された世界で、自分も相手も動けるようなモードやスタイルで解発を促すことが必要だ。創発に向かうには、世界と向き合う覚悟、エディティング・モデルの交換も欠かせない。
すべての組が企画を提出後に、キャンプの宵会が始まった。茶会企画をリバースし、ダントツを称えあい、相互編集の残念や無念を交し合う。
・ストレートな問いが、言語化して共有する機会になった(H.U)
・進め方の方針を打ち出すタイミングが難しい (T.M)
・私たちのロールは変わる場面があってもよかった (Y.S)
43[花]のキャンプで交し合ったことは、組織や社会の縮図でもあり、生まれ持った私たちの問題でもある。
私たちはすでに投げ出された存在なのである。歴史のなかに投げ出されているし、生まれて自意識が芽生えたときにもすでにあらゆる先行性が準備されている。編集はその只中から出発をするトランジット・ワークなのである。(松岡正剛『知の編集工学 増補版』朝日文庫)
不確実な世界で、自分をトランジット・ワークするには、自分と世界を分断して考えてはいけない。「自分」や「私」は、たくさんの他者や出来事とつながっている。自分の発言に拘ることは、他者を塞ぐことであり、自分をも塞いでしまう。だからこそ、自分をゆるませ「方法」を介して、私と世界の間を編集していくことが必要だ。
キャンプでトランジット・ワークした入伝生たちは、花伝所最後の演習に向かっていく。
アイキャッチ/角山祥道(43[花]錬成師範)
文/渋谷菜穂子(43[花]錬成師範)
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イシス編集学校 [花伝]チーム
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2025-11-25
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2025-11-18
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(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)