ジャイアンの教室名 ――46[守]新師範代登板記 ♯4

2020/11/06(金)09:08
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 46[守]では、自己紹介が始まっている。
 学衆にしてみれば、学ぶ仲間の顔も知らず、誰に指南されるのかもわからず不安だろう。どっこい師範代の手元にも「氏名」以外の情報はこれっぽっちも手渡されていない。年齢や性別、肩書きなどの「属性」がわからないまま、回答に向き合う。

 

 自己紹介は、教室運営の鍵を握る。ここでどう胸襟を開いてもらうか。教室の仲間への関心をどう持ってもらうか。関心が増せば「共読」に繋がる。
 開催のタイミングは師範代に委ねられている。機を探りつつ、マクラを練る。「みなさま」と呼びかけるか、「みなみなさま」がいいか、いやいっそ「おっす!」で始めるか。考えるとキリがない。

 

 10月31日10時14分。開講後初の週末に「◆自己紹介フェス◆ さあ歌声を響かせよう!」と銘打って、自己紹介を仕掛けた。
 ジャイア~ン! みなが両手を広げて駆け寄ってくる。「照れるなぁ、おい」
 妄想だった。この日、自己紹介は届かなかった。

 

 11月1日14時49分。最初の歌声が響く。待ってました!
 ムムム? 
 4日までに9人全員から自己紹介が届いた。ペースは上出来だ。だが、最後の質問への答えを読むと、ムムム? となるのである。
 その質問はこれだ。
Q.「角道ジャイアン教室」と聞いて、どんなイメージをもたれましたか?

 

▲実際に送った「自己紹介」の一部。「お菓子な私」は思いの外好評だった。

 

 兄弟教室の師範代たちに聞いて回った。
「どんな意味だろう? という反応が多かったけど、それがどうしたの?」と、オコト妙音教室の関根まなか師範代。
 二度目の登板となるコロナ切れ字教室の大塚宏師範代は、「俳句をイメージした学衆や、辞書で意味を調べてくれた学衆、前向きなメッセージを受け取ってくれた学衆もいましたね」という。
 同期の師範代にも尋ねてみた。阿部幸織師範代(スターシード教室)は、「未来への可能性を想像してくれた人がいて嬉しかったなあ」という。三谷和弘師範代のかりぐらジョジョ教室は「やれやれだぜ」の声で占められたというが、もちろんこれはキャラの口癖である。他の師範代からも特にマイナスの話は聞こえてこない。

 

 あら? わがジャイアンツの返答は、ものの見事にマイナスイメージだらけなのだ。ある者は怯え、ある者は腹を立てた。
 予兆はあった。感門之盟で教室名が発表された時、守時代の仲間から、こんなメールが届いていたからだ。
《もう、いじめっ子ですってな感じで最高ですわ。角を曲がると道の真ん中に仁王立ちのお前がいる姿が見えるわ》

 

 教室名は師範代が考えた5案に、松岡校長が再編集をかけて仕上げた世界に一つだけの名前だ。今まで何度も繰り返されてきた説明だ。では「ジャイアン」は、どこからやってきたのか。
 生みの親は深谷もと佳師範(現・花目付)だ(遊刊エディストでのジャイアンの唯一のライバルである)。花伝所終了間際、ZOOM越しにこちらを凝視すると言い放った。
「しなやかなジャイアンになりなさい」
 そう、この教室名は校長を父に、深谷花目付を母にして生まれたのだ。

 

 問題はここからだ。ジャイアン=剛田武、という強固なイメージにどう立ち向かうか。
 乱暴者でガキ大将。「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」に象徴される強欲さと身勝手さ。
 ここに囚われているかぎり、学衆のイメージは更新されない。これらは表象的なものに過ぎないのではないか。ジャイアンには隠された意味があるはずだ。

 

 わたなべたかし師範からのメッセージが急に浮かんだ。一部から「ベイダー師範」と崇められていた破の時の師範だ。
 そのベイダー……もとい、仏のたかし師範から激励が届いていた。

《「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」
ジャイアンの暴言も見方を変えれば、引き受ける覚悟にあふれた言葉。共感と共苦……という言葉が浮かんできました》

 

 あぁ。引き受けていないのは自分か。
 教室からはおずおずとだが、指南への感想や、お互いへの感想の声が出始めている。素敵な歌声だ。
 よし、引き受けた。
 ジャイアンは指南で応えるべく、大声で歌った。よし、いける。エディットカフェを見る。回答と指南が譜面に見えてくる。
 ん? 指南の題名を3連続で間違えていた。慌てて送り直す。最初の週末のハタ迷惑なジャイアンリサイタルであった。

(2020.11.6)

 

◆バックナンバー

ああ、それでもジャイアンは歌う――46[守]新師範代登板記 ♯1
ジャイアン、恋文を請い願う――46[守]新師範代登板記 ♯2
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  • 角山祥道

    編集的先達:藤井聡太。「松岡正剛と同じ土俵に立つ」と宣言。花伝所では常に先頭を走り感門では代表挨拶。師範代登板と同時にエディストで連載を始めた前代未聞のプロライター。ISISをさらに複雑系(うずうず)にする異端児。角山が指南する「俺の編集力チェック(無料)」受付中(左のQRコードからどうぞ)

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