木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
木田俊樹さんは、木こりである。まるで 1 本の良木を見分けるように、「ここには何かあると思った」と、イシス編集学校という「編集の森」に分け入った。イシスにはいったい、「何」があったのか。
イシス受講生がその先の編集的日常を語るエッセイシリーズ。第6回は、「木田俊樹さんが見えるようになったもの」をお届けします。
■■いつも目の前の世界に驚いていたい
山に入ると、そこをひととおり眺めまわす。するとそこで必ず言葉にできるなにかを見つける。それで、目に見えるものを言葉にしてみる。木、土、谷、尾根、獣道、風、匂い、日当たり、陰。言葉にしていくと、同じ場所に立っているのに、ぼんやり見えていた景色が明らかになっていく。それで、もう一度ひととおり眺めまわす。細部にわたってくまなく何があるのか探して言葉にしてみる。太陽に向かって伸びる枝、切り株の年輪の偏り、木々の間から射す朝陽、鹿の鳴き声、咲き残っている椿、雨上がりの大地のむせかえる匂い。それでもう一度、その景色を眺めまわす。すると、ついさっき見たものとは別の光景が広がっている。
稽古以前に見ていたのは、飛行機の窓から見下ろしたような緑で三角の山っぽい山だった。稽古をすればするほどに、山のなかに入り込んでは足元をじっくり見回したり、そこに住む鹿の目となって走り回るように山を眺められるようになる。すると、三角の山だとおもっていた場所は、多様で多重で独特の世界であった。
見ているものを言葉にしながら世界を発見していく。そのとき、編集の型を使う。「注意のカーソル」に「5 つのカメラ」を備え付ける。目線を、鳶から、木こり、鹿、蛙へところころ変えながら、周囲を眺めまわし、言葉によって分けて、情報を集めていくと、これまで見えてなかったものが見えてくるようになる。いままで当たり前のように見ていたものの中に、これまで見つけられなかったものを発見したときの驚きほど楽しいことはない。そのたび、私は生まれなおしている。

▲木田さんの職場(滋賀)から見える、鈴鹿山脈に連なる布引山地。イシスの稽古のあと、風景の「見え方」が一変した。
文・写真提供/木田俊樹(42[守]発酵エピクロス教室、43[破]比叡おろし教室)
編集/角山祥道、羽根田月香
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
学ぶことと暮らすこと――松澤雛子のISIS wave #63
人はなぜ「学ぶ」のでしょうか。 古くから問われ続けてきた命題ですが、その答えのひとつを、軽井沢から松澤雛子さんが届けてくれました。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を […]
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 イシス編集学校の応用コース[破]では、3000字の物語を綴ります。格別の体験であり、特別の経験です。 イシス修了生によ […]
震える足で、越えていく――西岡有美のISIS wave #61
この秋、イシス編集学校の基本コース[守]の師範代として登板する西岡有美さん(56[守]ピノキオ界隈教室)。西岡さんは、[守][破][花]の講座を渡る中で、イシス編集学校で大切にしていることと自分が好きなことの共通点に気づ […]
型をもって「難民」を語れば――田中志穂のISIS wave #60
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 イシス修了生による好評エッセイ「ISIS wave」。今回は、55[守]山派レオモード教室の師範代を終えたばかりの田中志穂さんの登場 […]
意味の世界を生き抜く方法――菅野隼人のISIS wave #59
「それってなんなの?」。菅野隼人さんは常に「問い」を見つけ、「問い」を深めています。「問い」好きが高じて、「それ哲ラジオ」というポッドキャスト番組を始めてしまったほどです。 そんな菅野さんがイシス編集学校と出会いました。 […]
コメント
1~3件/3件
2025-11-11
木々が色づきを増すこの季節、日当たりがよくて展望の利く場所で、いつまでも日光浴するバッタをたまに見かける。日々の生き残り競争からしばし解放された彼らのことをこれからは「楽康バッタ」と呼ぶことにしよう。
2025-11-04
56守で初登板される皆さまへキワメツキのサカイメ画像を。羽化が迫り、翅の模様が透けて見えてきたツマベニチョウのさなぎ。側面に並ぶ赤いハートマークが、学衆さんたちとの激しく暖かな交換を約束しております。
2025-10-29
中二病という言葉があるが、この前後数年間は、”生きづらい”タイプの人にとっては、本格的な試練が始まる時期だ。同時に、自分の中に眠る固有のセンサーが、いっきに拡張し、世界がキラキラと輝きを放ちはじめる時節でもある。阿部共実『月曜日の友達』は、そんなかけがえのない瞬間をとらえた一編。