イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス編集学校での学びをきっかけに、仕事を変えてしまった。それが今回登場する小林陸さんだ。基本コース[守]、応用コース[破]、技法研鑽コース[物語講座]を駆け抜けた小林さんが見つけたものとは。
イシス受講生が日常を描いたエッセイシリーズ、第12回目をお届けします。
■■思考とその方法としての言語
私は、編集工学は人が思考するための「とりわけ詳細に設計された言語」だと思っています。この言語を使えばよりクリアに思考したり、思考を伝達したりすることができます。
ただ、私は[守]やそれに続く応用コース[破]の段階では、お題に回答して指南をもらうのが楽しいという段階で留まっていました。それ自体は悪いことではなくとっかかりとしては重要です。しかし編集工学という観点では不完全でした。ここで問題になるのは、自分が持つ「既存の言語による思考」です。編集学校に取り組む前から、曲がりなりにも自分の言語で考える癖をもっていると、稽古で出題されるお題をどうしても自分の言語で考えてしまいます。ここでいう「自分の言語」とは、社会や関係の中で自分に染みついた、思考の癖も含む「言葉の使い方」ということです。こうした言語=思考の癖のため、回答と指南というやり取りは面白いと思っても、自分の言語から抜け出せず、「編集工学の言語」を用いる思考法ができていませんでした。
ところが、[守][破]を終えて[物語講座]に進むと話が変わってきます。[物語講座]はストーリーの全体を作る必要があるため、自分のこれまでの言語で考えるだけでは表現に限界が出てきます。というのも、[守][破]のお題では、いわば舞台は最初から揃えてあって、その中で1つの演出を考えるのに対して、[物語講座]のお題は、舞台の仕掛けから自分で作る必要があるからです。自分だけで考えると毎回同じパターンの物語になってしまいがちです。ですが、なんとか自分の言語で捻り出した物語に、編集工学の視点で指南をもらい続けていると、自分の言語と編集工学の言語の翻訳対照表のようなものが頭の中にできあがりました。すると初めて「編集工学は言語」だと実感でき、使い方が分かるようになりました。その結果、物語も自分のパターンから脱して、思っても見なかったものを書くことができたのです。
物語編集術の英雄五段階構造は、特に印象的です。英雄伝説にひそむパターンをマザー化することで、一見全く異なるストーリーに型を見出すことができるようになったことは、仕事上のコミュニケーションでも大いに役立ちました。相手の思考パターンを型としてとらえ、型に則った話の道筋やモードを意識するようになったからです。
私は、イシスで言葉の面白さに触れて、編集を仕事にしたいと思い、企業レポートなどを制作する現職に転職しました。これまでは、悪く言えば理屈っぽくて何を言っているか分からない人と思われることもありましたが、編集工学の枠組みを使って応答すると容易に理解してもらうことができ、コミュニケーションの濃度にかなりの差が出てきました。
イシスから離れて少し経ちますが、それでも私の言動の随所に、まるでイシス訛りのようにその影響を感じることがあります。あたかもしばらく地方にいると、その土地の方言が抜けきらない人のように。もっとも、私の方言は我流と編集工学のミックスではあるのですが。また、編集工学への見方が変わる機会を楽しみにしています。
▲編集工学の言語と我流の言葉を自分の中の「翻訳対照表」に照らし合わせることで、仕事に利用する。
文・写真提供/小林陸(42[守]42.195教室、43[破]転界ホログラム教室)
編集/角山祥道、羽根田月香
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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