【MEditLab×多読ジム】西行と賢治の方法で医学を読む(佐藤裕子)

2023/04/08(土)08:00
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多読ジム出版社コラボ企画第四弾は、小倉加奈子析匠が主催するMEditLab(順天堂大学STEAM教育研究会)! お題のテーマは「お医者さんに読ませたい三冊」。MEdit Labが編集工学研究所とともに開発したSTEAM教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab-医学にまつわるコトバ・カラダ・ココロワーク」で作成したブックリストから今回のコラボ企画のために厳選した30冊が課題本だ。読衆はここから1冊選び、独自に2冊を加えて三冊セットを作り、レコメンドエッセイ三冊屋(500〜600字)を書く。MEdit賞はいったい誰の手に?

 

 花の盛りを山の端ごとにかかる白雲に、霞を樋に掛け流す苗代の水に。『山家集』におさめられた歌で西行は様々な見立て表現をしている。その技法により連想と暗示を駆使して見方の切り替えが起こったり、イメージが広がったりする。

 宮沢賢治の名作『セロ弾きのゴーシュ』は、あまり上手でないという評判のセロ弾きゴーシュが「十日前とくらべたらまるで赤ん坊と兵隊だ」と言われるほど、セロを弾くのが上手になった物語である。その十日間に出会った狸の子や猫やかっこうや野ねずみの親子とのふれあいに、音楽に対する感受性を豊かにする見立てがあった。いのちの躍動に満ちていた。

 小倉加奈子先生が、医学を学んだことのない読者にもわかるように、病気全般について解説するため使った方法が「見立て」である。『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑』は、正常な身体の仕組みを、物流サプライチェーンの仕組みに見立てることで、病気全般という膨大な内容を一冊にまとめた冒険的な本だ。ここにはものごとを知的に論理的に、それでいて身体になじむように身体感覚をときほぐす方法があった。西行が歌に、賢治が物語に込めた技法も同様に、直接的な表現ではないからこそかえって本質が染み入ってくる。

 

 

Info


⊕アイキャッチ画像⊕
『おしゃべり病理医のカラダと病気の図鑑』小倉加奈子/CCCメディアハウス

『セロ弾きのゴーシュ』宮沢賢治/角川文庫

『山家集』西行 宇津木言行 校注/角川ソフィア文庫



⊕多読ジムSeason13・冬⊕
∈選本テーマ:お医者さんに読ませたい三冊
∈スタジオ*スダジイ(大塚宏冊師)


  • 佐藤裕子

    編集的先達:司馬遼太郎。剣道では幕末の千葉さな子に憧れ、箏曲は天璋院篤姫と同じ流派で名取り。方法日本と志士の魂をもつ立正佼成会の歩く核弾頭として、師範代時代は大政奉還指南や黒船来航指南、五箇条の御誓文指南を繰り出し、学匠を驚愕させる。

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