評判ばかりが幅を利かせる。食べログの星に視聴率、YouTube再生回数にTwitterフォロワー数。大きな数は力をもつ。しかしそれは本来の価値だろうか。
演習開始2週目にさしかかった35[花]では、4道場それぞれに得番録が届けられた。イシス編集学校には成績表や通知表はない。代わりに、師範代からの表彰状とも手づくり弁当とも言われる得番録へ稽古のようすが一週間ごと表象される。[守][破]では馴染みのツールだが、長らく花伝所には存在しなかった。
花の得番録が登場したのは、32[花]。それまでは花目付や首座(当時)が、道場を横断して演習の模様を対談や鼎談としてリプレゼンテーションされた「花縒談義」などが配信されていたが、2019年秋からは入伝生のすがたを、より多様なメトリックで掬いとるべく得番録へとかたちを変えた。
以来3期、「風流三昧’s Scoring」「婆娑羅ミミックス」「秋深き隣は何をする人ぞ」と名を変えながら配信されてきた。道場の壁をこえて、入伝生相互の刺激を生む効果があった。前期までは4道場あわせて1つの得番録だったが、今期は違う。各道場に2名ずつの錬成師範が伴走することになり、それゆえ得番録も各道場ごとに記譜されることとなった。[守][破]の得番録と大きく異なるのは、スコアリングの対象である。
19日の早朝5時、35[花]へはじめての得番録を届けた中村麻人(錬成師範)は、編集方針を端的に告げた。
「頼もしいのは、皆さんほぼ締切通りに回答を進めてくださっていること。[…]そうであるならば、得番録は形式的な稽古進捗表では面白くないでしょう」
回答すれば◯がつくような安易な数値化は、花伝所にふさわしくない。中村をはじめとする8名の錬成師範は、道場チームで作戦を練り、三津田知子・深谷もと佳両花目付の「そもさん!」に応じながらスコアリングすべきものを見極めた。彼らが意識したのは、「評判から評価へ」という大前提だった。
われわれが望むべきは評判ではない。今後の社会に示されていくべきは評判のランキングではない。ましてその集計結果ではない。「評価」(evaluation)の内実であるべきである。「いいね」のヒット数などではなく、「いい」をめぐる対話を交わすことなのだ。
「いい」をめぐる対話を交わしたい。師範の願いは、ネーミングに込められている。
やまぶき道場は「胡蝶のカイエ」。目指す未来は、師範代として花を咲かせるのみならず、その先に学衆という蝶をむかえること。編集稽古のインタースコアを蝶に例えた入伝生Wのアイデアを、そっと虫かごにとどめた。紡ぎ手は中村麻人、梅澤奈央(以下、35[花]錬成師範)。
入伝生のキーワード「あいだ」を引き取ったのが、わかくさ道場。「あわい連創録」と名付けられたそれには、松岡正剛校長の『山水思想』をひきながら「『連れ』の創発へ向かう『連創』の記録」の文字があおあおと香る。記者は山田細香、神尾美由紀。
おなじく、松岡の「日本力」を引き取ったのがくれない道場の「紅花名(べにかな)リミックス」だ。道場生全員で作り上げた五箇条には、「創互呼応」「免疫編集」などオリジナルの四字熟語が並ぶ。「あたりまえ」や「いつもどおり」というリミッターを外した、燃えるような再編集が鳴り響くことだろう。Remixerとして名を連ねるのは蒔田俊介、吉井優子。
むらさき道場は「しじゅのあゆみ」。「『松岡校長ロール』に肖った指南をする」に始まる道場5箇条は、それぞれの冒頭一文字を取って「まよこのあゆ」と名付られた。入伝生Fは「師範代がおとりの鮎となって編集化社会を導く」と将来をまなざす。「しじゅ」とはなにか。加藤めぐみ、米田奈穂のフセを入伝生がアケてゆくはずだ。
今期はじめて、道場ごとの得番録になったことで、三津田は「今まで以上に『アワセ・カサネ・キソイ』の意味あいが強くなった」と袈裟着で目を細める。日本という方法が意識された、道場ごとの多彩なスコアリングが入伝生の背中を押す。
校長松岡は、上記の千夜のなかで社会へのリクエストを語った。
「評判の社会」から「評価の社会」へであり、「レピュテーションからエヴァリエーションへ」なのだ。「レピュ」から「エヴァ」へ。これがぼくの注文なのだ。
覚醒を待つシンジが潜む35[花]は、エヴァ社会に向けて今日も指導が乱れ飛ぶ。
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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