「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
いい点数
学期末の個人面談で、長女(小4)の先生から「どの教科もテストで点数、とれています。授業中も積極的に手をあげています」とにっこりされる。
編集かあさん家には「勉強しなさい」と言えない事情があり、長女自身もどこで聞いたのか「小学生の間はノー勉で大丈夫」というのに、なぜ、それなりに点数がよいのか。
カギは、「勉強しなさい」と言えない素である長男(高1)の存在であるかもしれない。
6歳違いの兄である長男は「勉強」から離れた生活を長く送ってきた。きっかけは、小学校低学年の時に学校生活に合わなかったことだが、中学校に上がって、さらに授業、テストの類を一切受けない方向に舵をきった。
授業も宿題もない分、時間はある。新聞を読んだり、ネットで調べ物をしたり、植物を栽培したり、音楽を聴いたり、星空を観察したりして、それらの記録を書いてきた。
小学校4年生の「算数」と「国語」の教科書
一学期最後の国語学習のテーマは「新聞を作ろう」だった
「宿題したら」
6才年下の妹である長女は学校に通う派なので、毎日宿題がある。
兄がまったく勉強をしていない以上、長女に対して「勉強しなさい」「宿題しなさい」と言う気持ちがふくらまなかった。
「宿題しなさい」と言わないとどうなるか。夜遅くになって「できてない」といい、おもむろに始める。寝る時間はどんどん遅くなっていった。
この状況に困ったのが長男だった。
長女が早く寝てくれる方が、長男にとっては都合がよい。
長女が小3になったころから、晩ご飯を食べた後、長女に「そろそろ宿題したほうがいいんじゃない」と声をかけるようになった。
「漢字と計算、好きな方からしたら」と言われた長女、漢字ドリルを選び、広げる。その日習った漢字を使った熟語を5つぐらい考えて書く欄がある。「<遊>を使って何か熟語ない? もう思いつかない」と長女が聞く。長男は「自分でやらないと身につかないよ」と言ったりせず、「そうだな、<遊歩道>はどうかな」という具合に応える。
夜は二人で宿題をアイダに、わいわい話す時間になった。
小単元「短歌を味わおう」テスト用紙の裏。
どの短歌が気に入ったか、食卓の話題にすることもある
やさしいアシスト
長男は、もう教科書を見るのも嫌なのではと思っていた。どうもそうではないらしいということが初めて分かった。
長男のアシストは、とにかくやさしい。間違っても責めない。
「おにいちゃんも最初、この漢字読めなかった。でも、ある時気づいた」という言葉が自然に出てくる。
「ヒントちょうだい!」のリクエストにも応える。
「すぐにネットで調べるより、ちょっとがんばって思い出してみたら、身につくよ」とも言う。
長男は、小3から中3の漢字はすべて独学である。「行脚」や「月極」といった難読熟語も、どうにかして自分で読めるようになっていったらしい。
ごほうびという裏技
計算は、長男の特に苦手な分野であることもあり、教えることはあまりしない。
教えたとしても「5かける8は、だいたい40ぐらいかな」というぐらいで、それ以外はただ励ますのみである。
三桁×二桁の筆算など、根気のいる単元に差し掛かると、励ますだけではなかなか進まない日も出てきた。そうすると「終わったらお兄ちゃんのやってるゲームしていいよ」という「裏技」まで使うようになった。
長女はゲームしたい気持ちにひっぱられて、なんとかやり終える。
「やったー、おわった! ゲームしよう」
ごほうび方式は編集かあさんは使わないが、子どもたちのあいだでは「いい仕組み」らしく定着した。
「教える」ことと「できる」こと
「自分は勉強が苦手だ」というのが、13歳ごろに到達した長男の自己理解で、だからこそ「これからは人あたりのほうを努力してよくしよう」という方向にむかっていた。
そんな長男のことを、長女は、ケンカするときがあっても「神。なんでも教えてくれるし、やさしいもん」と表現する。
長女の通知表にはだんだん「よくできている」印が増えてきた。「クラスで一人だけ100点だった!」とにこにこしながら帰ってくる日もでてきた。
普通、勉強というものは「できる」人が「できない」人に教えるものだと思われているが、それが必ずしも学習を促進するとは限らないというのを目の当たりにした。
長女が所属している小学校の通知表の「観点」
長男が所属していた中学校の通知表の「観点」
それぞれの項目に対して「評価」と「評定」欄がある。
位置づけや意味を見直し、通知表を廃止する学校も出てきている。
知識がつながる
長男は学科試験のない通信制高校に進学した。
中学時代、学校の課題をできなかったため、通知表の評価はつかなかった。けれど、今の高校で学習を進めていくにあたっては大きな問題はまだ現れてないと言う。
独学で蓄積してきた知識が関係づけられていく感覚、とりわけ、別のところにあった知識がつながるおもしろさがあると話す。
国語、理科、社会等の教科は、ほとんど、日々の生活の中で興味が湧くままに学んだことで足りているらしい。数学と英語はまっさらだが、レポートでアウトプットしながら自分のペースで進められるスタイルなので続いている。 長女の宿題アシストは教科学習とゆっくり再会していくプロセスでもあったのかもしれない。
長男が前ほど暇でなくなり、長女の宿題を見ることが減ると、長女は「朝学」派になった。夜にすると1時間かかる宿題が、不思議なことに朝だと20分で終わるのである。アトサキ編集である。
編集かあさん家では「勉強しなさい」と言わないと決めてみることで、年を経るごとに、意外な学習の景色が展開している。
中学校1年生から2年生にかけて、放課後研究室「ナンデヤ?」で塾長夫妻と共作した元素周期表
長男の高校の国語教科書。「言語文化」と「現代の国語」に分かれている
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松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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