花伝式部抄 ::第4段:: スコア、スコア、スコア

2023/06/06(火)12:13
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花伝式部抄_04

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 編集学校の師範や番匠や花目付は何をやっているのかと言えば、つまるところ「スコアリング」に勤しんでいるのです。

 もちろん表面上は、教室で学衆と師範代が交わし合う編集稽古をサポートしているわけですが、何であれその場で起きている出来事を見守るためには、推移する出来事の一部始終を観察し、それを場の座組みごと記録していく手立てが不可欠です。いわば「No スコアリング, No マネージメント」というわけです。

 

 スコアリングとは、一般的には得点や楽譜のことを指しますが、編集工学ではあらゆる「ノーテーション(notation)」を「スコア」「スコアリング」という言葉の下に置いて語ろうとしています。
 日記や電話帳、設計図や見取図、地図や年表、系統樹や元素周期律表、舞踊家のためのコレオグラフ、XY座標によるマトリックス表示、通貨や株価の動き、健康診断での身体測定、国会の発言記録など、これらは全て「スコア」ですし(参照:[守]編集稽古015番:マンガのスコア、この他にも「記録された情報」の一切合切は「スコアラーによってスコアリングされたスコア」と見做すことができます。

 

 さてそうは言っても、上のように様々なスコアを机に並べて眺めてみると、どうもそれぞれのスコアは少しづつ性質が異なっていて、とても一括りでは語れないように見えてくるのではないでしょうか。

 スコアは、記録する対象や目的、方法などによって大きく3態に分類できるでしょう。

 

スコアの3態

 

定量スコア

 数値として計測可能な情報を扱うスコア。または情報を数値化する作業を伴うスコア。編集学校内での代表例は「得番録」。

 定量スコアは情報の量や大きさを客観的に比較することができる利点があるものの、観測対象が数えられる情報に限られるため、情報構造の全体像や多層性を捉えにくい面もある。計測しにくい情報を収集しようとするなら、ツールの開発やルールの工夫が求められる。

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《DTMのスクリーンショット》

音楽制作はDTM(デスクトップミュージック)の登場以降、1音ごとの高さ、長さ、強さなどを数値によって機械的に編集することが可能になった。音楽のデジタル化はより解像度の高い音像を実現させたが、一方で可聴音域外のノイズ成分が排除され「音の温かみ」が失われたと嘆く声も聞こえる。


定性スコア

 数値で測ることのできない情報を扱うスコア。情報の全体像を「らしさ」で捉えたり、情報構造の階層性や関係性、様子、感じ、などをスコアリングする。編集稽古で師範代が届ける「指南」は定性スコアの典型例。

 定性スコアはスコアラーの測度感覚(メトリック)に大きく依存するため、一定のバイアス(主観性)が含まれるが、柔軟で自在な探索的視点を持ち込むことができる。

 

 

《38の「編集の型」》

イシス編集学校[守]基本コースで学ぶ「編集の型」を、38題それぞれの特徴を捉えながら図象化したフライヤー。デザイナー穂積晴明の遊び心が光る。

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定型スコア

 情報の表象パターンや推移プロセスなどから「」を抽出するスコア。定量スコアから帰納的に定理や公式などを導いたり、定性スコアからモデルやフレーム等を取り出すことで、個々の情報に固有の属性に捉われない別様の可能性へ扉を開く。

 たとえば空白の原稿用紙や五線譜がそこへ文字や音符を代入するアフォーダンスを与えるように、「型」はそれ自体が既に表象されたスコアでありながら新たな情報を生む「母型」として機能する。

 

型_33花入伝式

 

《松岡校長による「型」を語るドローイング》

このドローイング自体は「定性スコア」だが、ドローイングを構成する文字や記号、記録媒体としての紙や、それによって伝えようとしているメッセージは「定型スコア」だ。あらゆるスコアは相互に侵犯し合いながら、相互に補完しあっている。

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 何かをスコアするためには、既にスコアされているものが手掛かりになるでしょう。なぜなら、情報は発明するものではなく発見するものだからです。つまり、何かをスコアする作業は、未だスコアされていないものを発掘する作業でもあるということです。

 

 スコアリングについて編集学校のカリキュラムでは、基本コース[守]の「015番:マンガのスコア」で主に「定量スコア」の編集可能性を考察します。そして、応用コース[破]で取り組む4つの編集術は「定性スコア」のための稽古と考えることができでしょう。

 花伝所でも今期39[花]で、あらためてスコアリングを考える演習機会を設けることになりました。中村麻人花目付の肝入りです。

 

 スコアリングを考えることは、何を見るか(What)、どのように見るか(How)、何のために見るか(Why)を同時に考えることに他なりません。
 見えているもの。まだ見えないもの。いま見ていないもの。もう見えないもの。見なくてはならないもの。見てはならないもの。見たいもの。見たくないもの。それらは、いったい何なのか? どうして見えたり見えなかったりするのか? 見えたとしたら何が起きるのか?

 

 考えれば考えるほどに、スコアリングとは「インタースコア」であることが見えてきます。スコアはスコアによって記述し、記述され、意味や価値を見出し、見出され、次第の一部始終を見守り、見守られているのです。

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花伝式部抄(39花篇)

 ::序段::  咲く花の装い
 ::第1段:: 方法日本の技と能
 ::第2段::「エディティング・モデル」考
 ::第3段:: AI師範代は編集的自由の夢を見るか
 ::第4段:: スコア、スコア、スコア
 ::第5段::「わからない」のグラデーション
 ::第6段:: ネガティブケイパビリティのための編集工学的アプローチ
 ::第7段:: 美意識としての編集的世界観
 ::第8段:: 半開きの「わたし」
 ::第9段::「わたし」をめぐる冒険


  • 深谷もと佳

    編集的先達:五十嵐郁雄。自作物語で語り部ライブ、ブラonブラウスの魅せブラ・ブラ。レディー・モトカは破天荒な無頼派にみえて情に厚い。編集工学を体現する世界唯一の美容師。クリパルのヨギーニ。