「エディティング・モデル」を説明するための主なモデル
◎贈り物交換モデル:
松岡校長が『知の編集工学』で示した、情報コミュニケーションについての仮説。エディティング・モデルの交換仮説はここから進展した。
私たちは情報交換のプロセスのなかで、〈編集〉という作用によって表象された言葉や身ぶりを「意味の市場」へ放り出し、その市場から相手が自分に必要な意味を抜き取っている。そのときに交換されているのは「編集の贈り物」(=エディティング・モデル)と捉えることができるだろう。
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◎地と図モデル:
編集学校では最も伝統的な説明モデル。メッセージという「図」は、常にエディティング・モデルという「地」に乗って動いている。そのため、同じメッセージ(=図)でも伝える者や伝える方法(=地)によっては異なる様相や意味合いを持つことがある。

エディティング・モデルの概念をシンプルに図解するのに適しているが、「交換」の動的な相互作用までを描写するにはやや弱い。
◎問感応答返モデル:
31[花]で花伝式目に「問・感・応・答・返」が導入された際に、「エディティング・モデルの交換」の説明の仕方を更新しようとしたもの。コミュニケーションのなかで「3A」が双方向かつ非線形に躍動してモデル交換をアクティベートする様を活写することができる。

私たちの日常会話では、親しい間柄であるほど情報の「地」を省略して発話することが多い。それでもコミュニケーションが成立するのは、省略された言葉の間を互いに感じ取りながら応じあっているからである。
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◎環世界モデル:
エディティング・モデルの多様性を編集的な個性や特性として捉えようとするなら、「環世界」の概念を借りた生命モデルによる説明が有効だろう。

全ての生物は、それぞれの種や個体に固有の身体感覚に基づいて世界を知覚し、自分の特性を反映した独自の環世界の中で生きている。このとき、それぞれの個体は環境のなかで共生しているが、環世界は個体に固有であるから互いに隣接しあうばかりで共有や交換はできない。だが私たち人間は、環世界を情報化することによって他者と環世界を擬似的に共有する能力を有している。
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◎インタースコアモデル:
花伝所が主催するエディットツアーでは、「インタースコア編集力」を培うことが編集を学ぶ成果であることを強調している。ワークショップは、情報と情報構造、意味と方法、回答と回答者が分かち難いものであることを示しながら展開される。
私たちは誰もが「自分のエディティング・モデル」を通して他者や内外の情報とインタースコアしている。編集稽古は、そのエディティング・モデルを自覚的にリバースエンジニアリングするところから始まる。
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◎方法日本モデル:
方法日本は「エディティング・モデルの交換」をそのまま文化として醸成してきた。日本語がその言葉の背後にある文化や文脈ごとの交換を促し、その手続きや次第は変化変容のプロセスを分断することなく交換を運び、身体感覚を含めた編集構造を丸ごと「まねび(真似び)」ながら継承してきたのである。

花伝所は、37[花]以降あらためて「方法日本」のフィルターを通して編集工学を語り直すことを志している。
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◎仮想あるいは偽装するモデル:
見知らぬものと遭遇したとき、私たちは本能的に既知のエディティング・モデルのなかから適当と思われるものを取捨して、それを未知の対象に適用させながら情報交換を図ろうと試みる。このことは、私たちにとって多くの場合、コミュニケーションのためのチャンネルが仮設的であることを示唆している。

人工知能は、今や情報を人間とは異なる方法で処理し、意味や価値を計算によって生成し、人間に提供しようとしている。もしもこの情報交換が成立し、かつ有益であるとすれば、機械の偽装するエディティング・モデルを人間が積極的に受容することが前提となる。
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