校長校話「EditJapan2020」(4/5)

2020/10/28(水)18:00 img
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何が期待を超えたのか

 僕は、30歳くらいの頃に、世界ってこんな感じだなということをつかみました。たくさん勉強すればもっとわかるけれども、ほぼ、だいたいはこうだなという枠組みです。後はイスラムについて深める必要がある、プロテスタントの本質って何だろう、桃山と室町の違いがわからないなとか、足りないところはいっぱいありましたが、「桃山と室町の違いを見よう」という大事なアテはその時点で得られた。

 ですから、その後の四半世紀の学習を含めて、かなりのディテールで世界知を説明する学校をつくることもできました。しかし、編集学校はそうしたくなかった。いま、鈴木康代さん、八田英子さん、平野しのぶさんの3人ともが言ってくれたように、「未知」やその先に触れる学校にしたかった。期待と違うところが出てくるとか、そういうものにどこかでふっと出会うところの、明日の朝の二番目の曲がり角、みたいな懐かしくも不思議なトポス。それを、それぞれが感じてもらうようにするにはどうしたらいいか、ということを、ずっとずっと考えてつくったのが編集学校なんですね。

 けれども、みんなのほうがすごかった。僕が用意した仕掛けをはるかに上回って互酬的に学び、遊んでくれた。編集学校20年の歴史の超部分が、昨日今日の多士済々ぶりです。松井路代さんの子どもの絵本の話、「豚は何を食べた?」からすべてが始まるというようなことも、僕が30代から考え込み、つくり続け、トライ・アンド・エラーをし続けたことと重なります。寺田充宏くんの風呂敷紹介はショップチャンネルでいくと決めたこと、ショップチャンネルだけれど最後は六十四技法にいくとか、ああいう意外なものから意外なものへ伏せ・開けをするというのも良かった。

 そして、僕がどういうふうにこの現場を編集していたかということを、今日も林朝恵さんと後藤由加里さんが撮ってくれているけれども、それをこうやって明かそうとしてくれていることも含めて、君たちのほうがすごい。だから、今日をもって僕は引退……違うか(笑)、まだそのつもりではないんですが、でも、ほぼ、そのような気持ちになっています。みんなに、かなりそこを託したいんですね。

ようやくプレゼンス

 昨日今日、僕が非常に嬉しかったのは、コロナ禍という状況も踏まえて、ありとあらゆる仕掛けを、もう一度新たなものでつくらざるを得なくなったということです。近大は近大、耶馬溪は耶馬溪、名古屋は名古屋、本楼は本楼で、つなぎ合いながら、一個一個つくり直さなきゃいけない。

 キーワードは、プレゼンスということです。今風に言えばリプリゼンテーション、変な訳し方をすれば再表象化です。あるコンテンツができあがる、それがある形を取る。たとえば番組になる。2日間のタイムテーブルになる。出演メンバーも決まる。けれども、それを耶馬溪で、近大で、Mシャツで、あるいは子どもたちとプレゼンスするには、もうひとつ何か別のことをやらなければならない。さらにそれを撮影し再編集するというタイミングでも、また別の経路ができてくるわけです。すべてがプレゼンスです。何度も敷居をまたぐたびにプレゼンスが変わっていきます。その敷居のまたぎ方の工夫を、これからは僕がやるのではなくて、みんなに託したい。託したいことのうちで、最大のことです。

 この2日間のなかで起こったことを、またいろんなメディアに置き直してください。僕が30代だったら、それに全力を投じます。そのためには、まったく新しいプライベート・メディアとか、鍵と鍵穴とか、Zoomじゃない枠組みだとか、ワイプと呼ばないものとか、ダブルページと呼ばざるを得ないものが必要かもしれません。僕なら、それをやりたいと、どうしても思います。今の日本、今の情報社会、メディア化の波、クリエイティビティの渇仰の中で、10年はかけてほしくない、これができるなら!

 そこにはもちろん、技術的なことや、さまざまな障害もあります。けれど、この2日間でも生じていた多くの人々の重なり合い、イシスの人々の重なり合いはとても頼もしかった。もうちょっとここに突っ込んでいけば、きっと何かが見えるだろうと思います。

敢然と、たくさんの代入へ

 では、Next ISISのための話で最後を締めましょう。

 これまで言ったことをしっかり押さえた上で、いよいよ自由に、どこにでも、フィードバックをかけていってください。ロココにかけるのでも、1920年代のジャズ・デイズにかけるのでも構いません。バロックの柱(バルダッキーノ)、柱に何であんなものが絡まっているのかということにかける、あるいは青木木米の焼き物にかける、与謝蕪村の書き方にかける、ジャコメッティにかける、何でもいいです。みんなが経験したこの2日間に、特別の面白さがあったならば、それを自由にどこかに持って行く必要があるんです。持っていって試してみる必要がある。メソッドを重ねて解いてみる。ジャコメッティがやったこととか、北斎がやったこと、フーコーがやったこと、なんでもいいんですよ。でも、方法によってもう一回解き直さないと、僕らが今やっていることは本当にはわかりません。

 オリジナルなこと、突拍子もないこと、目立つこと。これらは簡単にできます。しかし邪魔が入ります。邪魔の多くはオーソドキシー(旧体制)であって、これに耐えられる状態で何かをやっていかなければいけない。さきほど田中圭一さんが、漫画家も10年経つと「もうちょっと何かしてくれない?」とつつかれると言いました。だから藤子不二雄ですら「黒イせぇるすまん」に置き直し、「ドラえもん」を描き始め、いろいろ変化するわけですね。手塚治虫ですら、ユーミンですら、中島みゆきですら、変えていく。これはまだ、編集学校では起こっていないことです。

 今年の暮れから来年の春ぐらいにかけて、おそらく「編集」はかなり注目されると思います。僕もそのために努力します。11月6日には角川の武蔵野ミュージアムが開きますが、そこでは近大の図書館ともまた少し違うものを用意しました。変化を試みたわけです。しかし、それで日本中のミュージアムが関心をもってくれるかといえば、そうではない。あるいは、編集学校がもっと世の中に知られていったとして、「それって松岡の趣味じゃないの」だとか言う人が必ず出てくる。みんな、これに負けるんです。

 Next ISISが大きく旗を掲げるには、オーソドキシーに耐えられる力と、たくさんの代入が必要です。さっきのバロックだとか青木木米だとかジャコメッティだとかに、編集学校を一回代入してみる。そうして戻ってきたものがプレゼンスです。ぜひそれをやってほしい。僕にはもう、そのすべてのことをやる余裕とか体力が欠けていますし、僕は僕なりに「千夜千冊エディション」を含めて、やらなければいけないことが溜まっています。吉村林頭や、今日、新教室の名前をもらったような人たちが、次から次に登場して、インタースコアを重ねていってくれることを願います。

 感門之盟という、僕がつくったある種のセレモニーがここまで来ました。リモート参加の人を含めて、プレゼンスを十分に感じましたよね。感門之盟からせり出してきたものを、吉村林頭を筆頭に多くの人たちが考えてくれて、さらにそれを松井さんが、堀江くんが、川野くんが、みんなが、見事に実現してくれました。けれども、ここで終わるのではなくて、トータルとしてこの20年とこの2日間が何だったのかということを、僕に代わって組み立てて、プレゼンスに向かう人を、期待したいんですね。

 ということで、締めでいいのかな。え、あと10分?

 …これからすばらしいエンディングの映像が流れるんですが、間に合っていないらしい(笑)。じゃあ、その間に、特別な話をしましょう。


 

校長校話「EditJapan2020」

 


  • 加藤めぐみ

    編集的先達:山本貴光。品詞を擬人化した物語でAT大賞、予想通りにぶっちぎり典離。編纂と編集、データとカプタ、ロジカルとアナロジーを自在に綾なすリテラル・アーチスト。イシスが次の世に贈る「21世紀の女」、それがカトメグだ。

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