▼「自粛は自縮ではない」
たとえ両手両足縛られたとしても、縄を食いちぎって飛びだすのが吉村堅樹林頭。最新千夜『免疫ネットワークの時代』を脇に抱え、野に放たれた少年のように話しだした。
2020年5月16日(土)、33[花]入伝式が開催された。
入伝式とは、いままで学ぶ側だった「学衆」が、伝える側「師範代」になるべく錨を上げる、イシス有数の劇的なイベントである。入伝生は、先達からさんざん脅され、いつ一喝されるのかとおそるおそる本楼に足を踏み入れる。けれど、この日豪徳寺には、おびえる入伝生の姿はなかった。完全オンラインで開催されたからである。
▼入伝式のハイライトのひとつは、編集奥義の口伝だ。
師範代になるにあたっての必修科目は、「リバース・エンジニアリング」「エディティング・モデルの交換」「イメージメント・マネージメント」。これらを3人の師範がそれぞれ、野球の名解説者のように、あるいは能の謡いのように語るのが通例だ。
しかし、今回は違う。
本楼には、ふだんなら講義を担当する花伝師範の姿もない。テレビ局の新春特番のようにしつらえられたブビンガテーブルには、松岡正剛校長、田中晶子所長、三津田知子花目付ほか学林局スタッフしか見当たらない。
画面のむこうにいる33[花]入伝生たちは、あらかじめ過去の講義映像を視聴したうえで待機している。彼らに課せられたミッションは、それらを踏まえてみずから問いをもって式に臨むこと。プレワークは、動画視聴だけでも丸2日は費やすボリューム。自宅から参加する入伝式、求められるハードルは過去期よりも数段高い。
▼当然、講義内容もアップデートされた。
先の3つの師範講義を束ねたレクチャーが誕生した。吉村林頭による「式目の編集工学」である。
講義に先立って、ビデオカメラ越しに入伝生に告げた。
「ひとり1つ以上、質問を投げてください」
画面のむこうの25名の入伝生は、即座に応答してみせる。ニコニコ動画にコメントが流れるように、講義中もチャット欄が動き続ける。
▼吉村は問う。
「どうして、リバース・エンジニアリングすべきなのか?」
もともとは工業製品の分野で使われるこの言葉。
スライドに、三浦梅園の玄語図、エルンスト・ケッヘルの系統樹を映しながら解説する。
物事のプロセスをさかのぼることで、「それがもともとなにであったか」が見えてくる。その「本来」は、iPS細胞のようにあらゆるものになる可能性を含んでいる。情報の始源に立ち戻り、可能性を引き出せるのがリバースエンジニアリングの効用なのだ、と。
では、人間にとっての本来とは何か、と吉村は踏み込む。
「それは生命なんですよね」
表層をいじるだけでは、問題は突破できない。徹底的にリバースせよ、ベースに立ちもどれ。松丸本舗や佐川美術館を例にあげ、たんに面白い本屋、ミュージアムを作ろうとしたわけではなく、「生命としてのぼくらはどうありたいのか?」と問うた結果だと語る。
▼予定したレジュメの半分以上を捨て、30分で講義を切りあげた。
後半は、入伝生の発言をうながしながらさらに議論を深めていく。
「リバースすることで、べつのものに作り変わっていってもいいのでしょうか」「教室に出てこない学衆さんとエディティングモデルの交換をするときは?」
自らが答えるだけでなく、とつぜん錬成師範を指名したかと思えば、ときに松岡校長が割っている。本楼と各自宅や職場とのあいだに、丁々発止の緊張感が走る。
問いが問いを呼び、白熱した問答は、吉村の講義終了後もチャット欄で続いた。応答するのは、ふだんであれば本楼のソファに身を沈めるオブザーバーの先達。[守][破]の学匠をはじめ、45[守]、44[破]で並走する番匠、評匠、師範たちが身を乗り出す。25名の入伝生に対して、期をまたいで40名以上の指導陣が見守っていた。
▼吉村はこうも話した。
「編集学校の教室は茶室モデルである」
「日本には書院がなくなっている」
思索の場であった書院が消え、私たちが考える場として持つのは、もっぱらメタファーとしてのデスクトップ。すべてがパソコンで完結させられるこの状況下、私たちが考えるべきなのは、いかにして生き生きした編集状態をアフォードする環境をつくるかということ。
そのお手本を、吉村がやってのけた。全員がリモート参加となった入伝式であっても、利休「待庵」の二畳台目に集ったかのような密な交わし合いを生みだせる。
「みなさんは、編集学校というイメージにクラスター感染しています」
編集のパンデミックは、33[花]入伝生に託された。
本楼撮影:上杉公志(アイキャッチ)、後藤由加里(本文写真)
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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