師範代という名の情報生命が躍り出る 【40[花]敢談儀─オツ千ライブ─】

2024/01/29(月)08:00
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みんな大好き「オツ千」が敢談儀にやってきた!

 

イシス編集学校の師範代養成コース[ISIS花伝所]の最終プログラムとなる集合イベント「敢談儀」。このなかのコーナー企画のひとつとして、オツ千ライブが開催された。

 

【オツ千】紹介文より:「おっかけ!千夜千冊ファンクラブ」。ちぢめて「オツ千」。千夜坊主こと林頭の吉村堅樹と千冊小僧こと方源(デザイナー)の穂積晴明。「松岡正剛の千夜千冊」ファンを自認する二人が、千夜のおっかけよろしく脱線、雑談、混乱の伴走するショート・ラジオ。PodcastersSpotifyGoogle Podcastで聞くことができる。

 

秘密の深夜ラジオのように、視聴者を日常から連れ出し編集世界を彷徨させてくれる「オツ千」。いつもならイヤホンを通して届く千夜坊主と千冊小僧の丁々発止が、実体をもって私たちの目の前に現れた。

 

右が千夜坊主こと林頭の吉村堅樹。左が千冊小僧こと方源の穂積晴明。二人が登壇するシーンでは、「オツ千」のオープニング曲もバッチリ流れた。二人にくぎ付けの聴衆の頭のうえには、「オツ千だ!」「坊主だ!小僧だ!」と呟くフキダシが浮かんでいた、ように見えた。

 

今回のオツ千のテーマは、千夜千冊エディション『情報生命』の図解読みだ。花伝生がそれぞれの「読み」を図解したものを素材に、『情報生命』を深読みする。

 

花伝生はこの日のために、序文の「前向上」から、あと書きにあたる「追伸」まで、全392ページある『情報生命』と格闘し、A4サイズの一枚の紙に自分の読みを図解として落とし込んだ。

 

千冊エディション『情報生命』松岡正剛

 第一章 主上・情報・再魔術

 第二章 生命と遺伝子

 第三章 創発するシステム

 第四章 サイバー・ヴェロシティ

 

全28夜がおさめられた千夜千冊エディション『情報生命』。師範代を目指す花伝生が取り組む課題として、なぜこのエディションが選ばれたのか。エディションの構成を「地」にして、オツ千ライブを追跡する。

 

 

■師範代という名のオーバーロード

 

(第一章)天上界の情報動向が降りてきたと感じてもらおうという幕開きだ。どこかから不気味な「時の声」が聞こえてくるだろう。

『情報生命』追伸より

 

坊主が428夜『「地球幼年期の終わり』から「オーバーロード」というワードをとりあげると、絶妙な間合いで小僧が自身の見立てを差し込んだ。

 

小僧 言っていいっすか、これって師範代ですよね。

 

聴衆 えっ!?

 

 

小僧 ぜんぜん指図しないんですよ、オーバーロードって。

 

坊主 そうだよね。

 

小僧 管理しないんですね。君臨するけど管理しない。

 

坊主 君臨するけど統治せず。

 

小僧 けど促し続けるっていう存在なんです。

 

坊主 あーなるほどー。

 

小僧 これって師範代がやってることなんじゃないかと。

 

坊主 師範代はオーバーロード的に、「ダメだぞ、そんな稽古じゃ」と(笑)

 

小僧 促し続ける(笑)

 

坊主 でも指図はしない。

 

小僧 指図はしない。

 

坊主 なるほど。でも姿を現したらデーモンだった、と。

 

一同 笑!

 

このあとも、坊主と小僧は敢談儀という「場」に応じるように、『情報生命』と師範代という存在を関係づけていく。

 

 

■その場を乗っ取る利他的ふるまい

 

(第二章)ニワトリが先かタマゴが先なのか、まだわかってはいない。なかでケアンズ=スミスの「乗っ取り仮説」がすばらしい。

『情報生命』追伸より

 

坊主 第二章で取り上げたいのは、やっぱりケアンズ=スミス

 

小僧 乗っ取り仮説ですね。

 

坊主 ケアンズは、もともと僕ら人間は無機物だったと言ってるんだよね。無機物としての「鋳型」に情報が出入りしているんだと。その仕組みを有機物が乗っ取って、いまの僕らがあるっていう、そういう仮説なんだよね。

 

小僧 創発の瞬間に「乗っ取り」があったという言い方をしてるんですよね。

 

坊主 注目したいのは、最初の鋳型に欠陥構造があったとうところ。欠陥があるからこそ情報が出入りして動的なものになりうる。まさに”編集は不足から生まれる”だよね。さらにドーキンスの『利己的な遺伝子』では、遺伝子は利他的な動向ももっているってことを言ってますね。遺伝子自体はサバイバルマシーンなんだけど、利他的な相互作用がないと、サバイバルマシーン化できないんだと。

 

小僧 自分勝手だけじゃサバイバルできないですよね。

 

坊主は、”豚から人へ”に注目した図解を描いた花伝生に、「これを強調したのは、豚に込めた想いがあるんじゃない?この資本主義の豚が!みたいなラディカルなメッセージとか笑」と投げかけた。相手の読みの奥を読む、これもひとつの利他的ふるまいだ。

 

坊主 第二章の最後は『ミーム・マシーンとしての私』。ミームっていうのは文化的な遺伝子ですね。文化・風習・思考などの要素が水や空気のように存在していて、僕たちはそれを呼吸するように取り入れている。

 

小僧 編集稽古をとおして師範代と学衆のモデル交換がおこるのも、これなんじゃないですかね。

 

坊主 第一章のオーバーロードじゃないけど、校長もミームについてJ・G・バラードの『時の声』のようなもんじゃないかと書いてましたね。

 

 

 

■創発する場へのフェーズ移行

 

(第三章)「創発するシステム」はちょとした理論編だ。(略)非線形にものを考えるセンスを堪能していただきたい。

『情報生命』追伸より

 

坊主 1255夜の『非線形科学』では、劇的な相転移について書かれてましたね。

 

小僧 「ゆらぎ」ってキーワードが出てましたよね。

 

坊主 そうそうそう、「ゆらぎ」に一番注目してたのは松田さんだよね。

 

40[花]花伝生 松田秀作による千夜千冊エディション『情報生命』の図解

 

松田 思考が揺らぐといった個人のなかの「ゆらぎ」もあるし、関係性の中で「ゆらぎ」が生じることもある。個人と集団について対比させながら書きました。

 

坊主 「ゆらぎ」のあとに何が起こるとみてる?

 

松田 そうですね、自由、ですかね。

 

坊主 自由!

 

松田 ちょうどいい自由、ですかね。揺らぎすぎると分裂していったり、秩序が形成されなかったりする。一方でカチッとしすぎると動的にならない。

 

松田は「ちょうどいい自由は初期値だけでは獲得できない」「揺らぎを働きかけ続けることが重要なのではないか」という読みを語った。

 

 

 

 

 

小僧 校長は「ゆらぎってのは毎日引っ越すみたいなもんだ」って言うんですよ。

 

坊主 毎日引っ越す?

 

小僧 引っ越すと、荷物を置き直さないといけないですよね。いままでなかった秩序体系に作りかえなきゃいけないわけですよ。家具とか、本棚のなかとか、いままで見たことがなかった配置に仕向け直す。それで何が起きるかというと、隠れていた秩序が見えてくる。これが揺らぎの効果なんじゃないかって、僕は思ってます。

 

 

坊主 カオスは、周期性はないけれど全体的に見たら秩序があるんだよね。模様がある。『情報生命』の第三章にはリズムや振動についても書かれてたけど、一つ一つが持っているベクトルが、「ゆらぎ」が起こることによって違うベクトルに変換される。そうすると全体として、何らかの方向性を持つ。

 

坊主 これを教室に重ねてみると、最初はみんなバラバラで集まるわけだよね。だけどある「ゆらぎ」によって方向性が生まれて、もしかしたら編集道ベクトルが生まれるかもしれない。

 

小僧 そうすると、フェーズが変わりますよね。

 

坊主 仕事に役立てたいから編集力を上げに来ましたっていうフェーズから、違うフェーズに移る。この第三章のなかに、そのヒントがあるんじゃないかと思うんですね。

 

坊主:「問感応答返」が繰り返されることによって、後から「こういう場だったんだ」ということが見えてくる。返っていくのは「場」なんです。AIの場合は「場」の想定がされていない。「いま」の延長線上に生まれ続けるしかない。

 

 

■教室は海賊的な「一時的自律ゾーン」

 

(第四章)SF的想像力の渦中へめくるめく速度(ヴェロシティ)をもって再突入してもらう。

『情報生命』追伸より

 

坊主 いよいよ第四章です。校長が883夜の『ヴァリス』のところで強調していたのは、一人称を三人称で語ること。セルフをどうとらえるかが大きな問題なんですね。この問題のとらえ方がうまくいくと編集はもっと加速できる。ここで、ティモシー・リアリーの『神経政治学』を見てほしいんですけどね。326ページです。

 

リアリーは自我や現実社会というものは、「神経のシナプス連結の束」がつくりだした一種のフィクションであって、表層的な「交換性パラノイアの産物」にすぎないとみなしたのである。

936夜『神経政治学』ティモシー・リアリー

 

坊主 僕たちは、自己や目の前の現実社会が”ある”と思ってるけど、それはフィクションだよと。どうせフィクションなら、ユカイなフィクションにしたいんですよね。オモシロくしたい。そこをどうやるか。

 

小僧 1117夜の『T.A.Z』を著したハキム・ベイは海賊的ユートピアを重視してるんです。海賊っていうのは違法な存在だけれど、法的な秩序からはずれたところで、よい秩序をつくっているケースがある。そういった場を「ゾーン」と呼ぶんだけれど、僕はこれが、編集学校の教室のようなものじゃないかと思うんですよ。

 

坊主 教室も「一時的自律ゾーン」だもんね。エディティングセルフとしての情報生命がどうありたいのか。どう意識を覚醒させていくのか。第四章では内なるインスピレーションや、アルタード・ステーツ、いわゆる変性意識についての千夜にも注目したいよね。

 

 

■編集という方法を懐に、情報生命が躍り出る

 

まだ躍り出ていない情報生命があっても、おかしくない。フクザツな地球生命圏の中に、いっぱいのザツが爆ぜている。

『情報生命』前口上より

 

坊主 編集学校の教室は、クローズな状態からいよいよ自律ゾーン化してきていてる。だから、そろそろ外側に爆ぜてこうじゃないかと。編集力をあげ続けるようなアンシャンテをどう用意できるか。

 

小僧 バーマンのいう「再魔術化」は、編集稽古でこそ叶えられるんじゃないですかね。

 

坊主 編集的自己が持つ情報生命が躍り出る。そんな方向に向かっていくんじゃないかと。マンマシーンを超えて、次元をまたぐような変容をおこしたいよね。

 

 

 

かくして坊主と小僧は、師範代になろうとする花伝生に「オーバーロードたれ」と鼓舞し、その場をイキイキとさせる利他的ふるまいを見せてくれた。さらには、ゆらぎを契機にその渦中に突入してほしいというメッセージを投げかけた。

 

花伝生はこれをお題として受け取り、教室という「自律ゾーン」のなかで、師範代という情報生命を発揮していってほしい。

 

ところでオツ千ファンのみなさんは、どんな方法でオツ千を追っかけているだろうか。オツ千を図解したり、擬き合ったり、オツ千ベスト10を討論したり、オツ千という情報の束を取り入れて自己組織化をおこすための方法を、おのおの開発してみてほしい。

 

オツ千はお便りを募集中だ。これぞという遊び方を発明した方は、ぜひ、坊主と小僧に届けてあげてほしい。

 

【オツ千 編集力vol.21】文をあやとり、蝶がはためく
https://edist.ne.jp/dust/otsusen_hensyuryoku21/

 

  • 阿部幸織

    編集的先達:細馬宏通。会社ではちゃんとしすぎと評される労働組合のリーダー。ネットワークを活かし組織のためのエディットツアー も師範として初開催。一方、小学校のころから漫画執筆に没頭し、今でもコマのカケアミを眺めたり、感門のメッセージでは鈴を鳴らしてみたり、不思議な一面もある。