【問題】以下の11名を、時代順に並べよ。
レオナルド・ダ・ヴィンチ、一休、コロンブス、ミケランジェロ、雪舟、グーテンベルク、足利義政、ボッティチェリ、一条兼良、トマス・モア、池坊専應(答えは記事末尾)
■ クロニクルとはなにか
時間はどこに生まれるか
歴史は、ひからびた過去ではない。かつての出来事を掘りおこし、関係づけ、意味を見出した生々しい物語なのである。イシス編集学校では「クロニクル編集術」の稽古が終盤にさしかかった。情報を年表に仕立てるこの編集術は、校長松岡正剛が十代のころから贔屓にしているとっておきだ。松岡は「すべての編集の基礎は年表と地図にある」と考え、『知の編集術』では「この用法が大好きなのである」と言ってはばからない。学衆に向けたメッセージのなかでは最近、「年表はじょうずに作れば、1冊の本を超える」とまで言っている。そのクロニクル編集術とはいったいなんなのか。
「クロニクル(chronicle)」とは、ギリシャ語で「時間」を意味する「クロノス(khronos)」に由来する。時間にもとづいて、情報を並べるのがこのクロニクル編集術である。では、時間とはなんだろうか。古代エジプトでは、周期的に起こるナイル川の氾濫によって時間の概念が発見されたと言われている。しかし重要なのは、エジプト人が観察していたのはナイル川だけではないということだ。彼らは、大地と同時に、夜空も眺めていたのである。
ナイルが氾濫する周期と、シリウスという星が東の空に現れる周期。両者が一年に何度か同期する。そのふたつの現象のあいだに、人類は時間を見出したのである。『花鳥風月の科学』第8章 時 にはその経緯が詳しい。
■ 柱の傷は子どもの成長
ナイルとシリウスの連動を
イシスでのクロニクル稽古では、自分史を作る。自分という情報体を時間軸でタテ割りし、年表に落とし込む。と同時に、社会からまったくべつの年表も連れてくる。学衆たちは思い出アルバムを紐解くとともに、『日本映画史110年』(四方田犬彦/集英社新書)や『僕たちのゲーム史』(さやわか/星海社新書)、『新・民族の世界地図』(21世紀研究会:編/文春新書)などの課題本から、映画やゲームや民族などのべつの歴史を取りだしている。ナイルとシリウスのあいだの関係性を見つけるためである。
松岡は学衆に向けた動画レクチャー「インターメッセージ」でこう語った。
たとえば、時計の歴史は、あるところで電子の歴史ともつながり、ラジオの歴史にもくっつく。そのラジオの歴史は時報の歴史とも連動している
ふだんの情報は、時計は時計、私は私、日本は日本などど、テーマによって窮屈に締めあげられているが、本来の情報はもっと多様な仲間と手を取り合っている。童謡でも歌われるのだ、「柱の傷は おととしの 五月五日の背くらべ」。子ども成長と柱の印が連動するように、私たちの身体のなかの歴史も、シリウスのように連動するものがあるはずなのだ。
万事セッケン教室学衆Yは、コンビニチェーンの進化史を眺めながら、コンビニ自身が自己の在り方を見つめ直した出来事と、自分の内省的な出来事を重ねながら読んでいった。師範代堀田幸義は、紙に印刷した年表を短冊状に切り離し、パズルをするように全体のデータと遊んでみることを勧めている。堀田は「宝探しのような気持ちで、データを集め・寄せ・離せ」と静かに発破をかける。関係のなさそうな情報のあいだをじっと見つめることが、思わぬ関係線を見つけるコツである。
■ 雪舟とボッティチェリは同時代
『情報の歴史21』の歩き方
クロニクル稽古にあたり、学衆たちは、昨年改編されたばかりの『情報の歴史21』(通称ジョーレキ)を教材としている。イシス編集学校の師範陣も編纂に携わったこの年表は、よくあるように日本史、西洋史など国別のタテ割りではない。世界政治・技術・科学・芸術・流行など5つのテーマごとにまとめられた5本の年表が同時に走っているものである。これによって、日本と世界との意外な同時性が見えてくるのが特徴だ。
そろそろ冒頭の問題への答えをお知らせしよう。校長インターメッセージを聴いた学衆ならすぐにわかったはずだ。ジョーレキを開けば一発だ。わずかな差はあるが、「すべて同時代人」が答えである。
ジョーレキでいえば、1450年、1475年、1500年のページにすべての名前がある。雪舟とボッティチェリは並んで掲載されているし、一休とグーテンベルクは同い年だ。
たとえば西の大航海時代、日本ではようやく応仁の乱が終わった1486年にしぼってみれば、雪舟は北京から日本へ帰り「四季山水図」を描き、ボッティチェリはローマからフィレンツェに帰って異教に夢中。そのころコロンブスはスペインのイザベラ女王に援助を断られ、8歳のトマス・モアはカンタベリー大僧正に預けられ、レオナルド・ダ・ヴィンチは「岩窟の聖母」を完成させていた。(『情報の歴史を読む』より)
いままで気づかなかったこと浮上させるのがクロニクル編集術の醍醐味だ。古今東西を一挙に見渡す世界同時年表『情報の歴史21』で、学衆たちは人類がまだ知らないシンクロの第一発見者になるかもしれない。
▲お気に入りの青Vコーンとともに、『情報の歴史』1475年ページの読みどころを解説する松岡の右手。
アイキャッチ・図版:松岡正剛[破]インターメッセージより
■ イシス編集学校
[破]クロニクル編集術 課題本一覧
1.『杉浦康平のデザイン』臼田捷治/平凡社新書
┗千夜千冊981夜 杉浦康平『かたち誕生』
2.『岩波新書の歴史 付・総目録1938~2006』鹿野政直/岩波新書
3.『日本の同時代小説』斎藤美奈子/岩波新書
┗ 千夜千冊1297夜 斎藤美奈子『本の本』
4.『日本映画史110年』四方田犬彦/集英社新書
┗ 千夜千冊173夜 四方田犬彦『月島物語』
5.『僕たちのゲーム史』さやわか/星海社新書
6.『新・民族の世界地図』21世紀研究会:編/文春新書
7.『転換期の日本へ 「パックス・アメリカーナ」か「パックス・アジア」か』
ジョン・W・ダワ―&ガバン・マコ―マック/NHK出版新書
┗ 千夜千冊327夜 ジョン・W・ダワー『吉田茂とその時代』
8.『ラーメンと愛国』速水健朗/講談社現代新書
┗ 千夜千冊1541夜では、「昭和・平成の“読むクロニクル”としてもおもしろい」と太鼓判。
9.『日本プラモデル六〇年史』小林昇/文春新書
10.『コンビニチェーン進化史』 梅澤聡/イースト新書
11.『客室乗務員の誕生 「おもてなし」化する日本社会』山口誠/岩波新書
梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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