松岡正剛を現在化せよ――54[守]の晦日

2025/01/07(火)17:54
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◆校長を現在化する

 

番選ボードレールに突入する直前に、阿久津健師範が声を挙げた。

「宇川さんの方法を使って校長を現在化したい」

1月19日に54[守]の特別講義に立つ、現代”美術家”であり、DOMMUNE主宰の宇川直宏(うかわ なおひろ)さんは、呼吸するように創作編集をおこない、過去の歴史・アート・音楽をDOMMUNEというライブストリーミングのチャンネルで現在化し続けている。
ライブストリーミングにもいくつかの方法があり、過去のライブ映像を生配信し、共有し、交わし合うことで、「現在化」する。この方法を使い、松岡校長の動画、「インターメッセージ」を同時視聴し、松岡校長を現在化する目論見だ。

 

◆インターメッセージ 「松岡校長のAnalogical Way」

 

動画、インターメッセージ「松岡校長のAnalogical Way」は松岡校長が[守]の学衆のためだけに語った動画メッセージだ。[守]の学衆だけが見ることができる。[守]のお題についてはもちろんのこと、校長自身の千夜千冊の編集方法にも触れられており、校長の声で[守]のお題から広がる編集世界を感じることができる。

 

◆現在化するインターメッセージ

 

年末の12月30日、仕事や大掃除に忙しい中、学匠、番匠、師範、師範代、学衆の40名が集まった。ほとんどの教室から出席者が集まるという、注目の高さだ。動画の開始前には、編集に魅了された学衆からは、白川字書の購入について質問が飛ぶ一幕もあった。

見立て、3M(メディア・メソッド・メッセージ)、インタースコア、「鍵と鍵穴」、 アナロジー、 アフォーダンス、アブダクション……。[守]の講座に盛り込まれた編集術が校長によって語られていく。時に子供が宝物を見せるような笑顔で、時に職人が会心の作品を披露するような佇まいで、校長の語りが続く。

番匠、師範から、注釈や、リンクが投下される中、気づきや感想が、次々とチャットを埋めていった。


「見立てを表す3Mの自在さがすさまじい・・・」
「出た『全宇宙誌』これもう本じゃなくて宇宙なんよ」

 

 

『NARASIA』(松岡正剛・編集構成/丸善)

平城遷都1300年記念事業の一環として刊行された。タイトルの『NARASIA』とは、奈良とアジアの歴史的未来的なつながりを象徴する。特に、ダブルページの一対のビジュアルが奈良とアジアをつなぐ多様性を表している。

 

 

校長が『NARASIA』を広げれば、「見開きが、ヴィジュアル・ミメロギアですよね」と阿久津師範からヒトコトが入り、校長に仕掛けに、改めて感じ入る。流れが変わったのは、本楼の「えりもの」(アイキャッチ左)と「ISISのネオンサイン」(アイキャッチ右)が画面に映った後だ。
角山師範のミメロギア「神呼ぶえりもの・酔っ払い呼ぶネオン」が投下された途端、ミメロギア大会が始まった。


「風に揺らぐえりもの・決意揺らぐネオン」
「縁を彩るえりもの・都市(まち)を彩るネオン」

 

「語りのえりもの・騙りのネオン」
「目覚めのえりもの・微睡みのネオン」
「チョキチョキのえりもの・むくむくのネオン」
     

即興で紡がれる作品の出来栄えに、うまい!の声も飛んだ。動画とチャット欄は独自の動きをしながら、ともに同じ時を刻んでいく。動いている校長を見るのは、初めてだという学衆も現れ、改めて校長の語る方法を共有することで、今、ここ、現在に校長の編集を共有することができた。


◆抱いて普遍、放して普遍

 

 編集学校はめっぽうおもしろい。どんな学衆体験にも似ていない。(中略)このおもしろさは、そこにさしかかってもらわないかぎりは、伝わりにくい。

 そこで本書(『インタースコア』)が構成編集されることになったのだが、ぼくもこの本書冒頭で何が編集学校のユニークネスなのかということを綴ることにした。学校案内は別にも用意されているから、ぼくは少しディープな視点からその心意気と風姿花伝の思想を伝えることにする。それを一言で言えば「抱いて普遍、放して普遍」ということだ。
(『インタースコア』松岡正剛&イシス編集学校/春秋社)

『インタースコア』の冒頭で校長はこう語っている。編集学校の、松岡校長の、編集の思想だ。動画を一人で見るのではなく、[守]全体で視聴したからこそ見えてくる編集の世界。そして松岡校長の語りの普遍性。そこには、「抱いて普遍、放して普遍」があった。

校長が残してくれたあまりもの大きな遺産をこうして語り継ぐ。そのための方法はすでにに、私たちの手元にある。

 

文/北條玲子(54守師範)

 


  • イシス編集学校第54期[守]特別講義●宇川直宏の編集宣言
  •  
  • ●日時:2025年1月19日(日)14:00~18:00
  • ●参加方法:zoom
  • ●参加費:3,500円(税別)*54[守]受講生は無料
  • ●申込先:https://shop.eel.co.jp/products/detail/776
  • ●お問合せ先:es_event@eel.co.jp
  • イシス編集学校 [守]チーム

    編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。

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コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg