「どろろ」や「リボンの騎士」など、ジェンダーを越境するテーマを好んで描いてきた手塚治虫が、ド直球で挑んだのが「MW(ムウ)」という作品。妖艶な美青年が悪逆の限りを尽くすピカレスクロマン。このときの手塚先生は完全にどうかしていて、リミッターの外れたどす黒い展開に、こちらの頭もクラクラしてきます。

審査員の票は割れた。最後に司会の中村まさとし評匠の一票が投じられる。第4回P1グランプリは、特Bダッシュ教室の「ひきだすヒキダシ研究所」が制した。僅差の辛勝であった。
「うーん、新しい引き出しってどんなだろう?」
Zoomの画面越しに小椋師範代、市村学衆、森下学衆が考え込む。感門之盟プレゼンまで二週間足らずのある日、チーム作戦会議でのことだ。これまで引き出しの起源を訪ね、引き出しをモーラし、引き出しのシソーラスを広げてきた。引き出しがどれほど人間の生活に文化に、そしてあらゆる創造的活動に影響を及ぼしてきたのか。引き出しは、近世以降その誕生とともに、人間の認知の枠組みを作ってきたのではないか。この仮説に辿りついたところだった。
ミュージアムにはインがあってアウトがある。ミュージアムを出た時、何かが変わる体験を興したい。それが目指すハイパーミュージアムだ。引き出しの本来を識り未来を描くには、誰も未だ見たことのない、新たな引き出しの提案が必要だ。作戦会議の場は煮詰まっていた。
三者三様に引き出しに「ないもの」、やわらかいダイアモンドならぬ「やわらかい引き出し」に思いを巡らしていたその時、市村の脳裏に唐突にイメージが現れた。市村は美大の出身。これまでもデザインやイラストを手掛けてきた。ふわふわと朧げに消えていきそうなアタマの中のイメージを、紙の上に仮留めするかのように、素早くペンを走らせる。そしてZoom画面に描いたばかりのスケッチを掲げた。
思わず皆が身を乗り出す。
そこには、誰も見たことのない奇妙な形の引き出しがあった。これこそ求めていた新しいヒキダシ降臨の瞬間だった。
40を超えるネーミング案を吟味し、「しげるん。」と名付ける。草木が生い茂るように増殖する、生命感溢れるヒキダシのイメージだ。
しげるん。は、引き出しを囲う外枠を持たない。引き出しを自在に重ねながら創ってゆく。もはや枠に閉じ込められた引き出しではない。部分が全体を凌駕するのだ。
しげるん。を創ることで、枠に閉じ込められ、既存の分類に慣れてしまった「引き出し人間」から脱却を図るというメッセージがミュージアムに宿った。
しげるん。のイメージにあわせ、市村はミュージアムの外観スケッチも描く。プレゼンでの役どころは、ミュージアムのアートディレクター。イメージをヴィジュアルで示した市村にふさわしいロールだった。
特Bダッシュ教室のプレゼン開始を告げる小椋の声が本楼に響く。市村は少し緊張した面持ちで、本棚劇場に上がった。
三週間に及ぶリアルプランニング稽古はこうして幕を閉じた。松岡校長のハイパーにはまだまだ及ばないが、しげるん。を導き出したプロセスは何物にも代えがたい稽古体験である。
市村は、しげるん。降臨の瞬間を思い出しながら言う。「私はブレイクスルーきたっ!とチームの誰もが感じたあの感覚を信じます」。市村にとってP1への道は「超現実でありパラレルワールドに入り込んだかのような」三週間だったのだろう。本棚劇場でプレゼンテーションする自分は、今まで見たことのない「別様のわたし」だった。そして濃密な相互編集を重ねたP1グランプリは、破の稽古を締めくくるにふさわしい超越体験だったと総括した。
(敬称略)
戸田由香
編集的先達:バルザック。ビジネス編集ワークからイシスに入門するも、物語講座ではSMを題材に描き、官能派で自称・ヘンタイストの本領を発揮。中学時はバンカラに憧れ、下駄で通学したという精神のアンドロギュノス。
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因みに、私は大阪育ちなのに、子供の頃から黄色い地球大好き人間です。