『情報の歴史21』編集長が年表レクチャー コツは「Qちゃんとヤワラちゃん」

2021/04/10(土)08:36
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『情報の歴史21』がついに刊行された。一般発売は2021年4月15日。それに先立つこと2週間前、編集長吉村堅樹がイシス編集学校のリアルレクチャーの場第157回伝習座に登場。その編集方針を明かした。

 

▲左から講座リーダーの原田淳子([破]学匠)、クロニクル編集術講義を担当したを天野陽子(46[破]師範)、中身は白紙の束見本を手にする吉村堅樹(編集長)。背景の黒板には、旧版『情報の歴史』が掲げられている。

 

▲この伝習座に参加した46[破]師範代には、特別に2000年、2001年ページの印刷前データが配布された。

 

『情報の歴史』は、イシス学衆には「ジョーレキ」と呼ばれ、[破]では教材として使われるなど稽古の常識となっている書物である。この書籍は、100冊以上の年表を蔵書に抱える「年表フェティシズム」の松岡正剛が監修。1990年に初版が発行されると、世界に類をみない年表としてまたたくまに話題となった。

 

何がほかの年表とは違うのか。大きな特徴は8つほどあるが、そのひとつは年表に見出しがついていることである。ページを開くと、5本のトラックが五線譜のように走っている。それぞれが「世界政治動向」「経済・産業・金融」「科学・技術」「思想・社会・流行」「芸術・文芸・文化」に対応する項目が集約されているが、その冒頭には「相転移する経済」「増殖するセカイ」など数文字の大見出しがついている。トラックのなかを見れば、「ITバブル崩壊」「セカイ系」「アキバ メイド喫茶 アニメイト」など、その年を象徴する中見出し・小見出しが並んでいる。

この見出しがキモである。だれしも学生時代は、テスト前に教科書に蛍光マーカーを引き、付箋を貼ったことがあっただろう。この年表はすでにその加工がほどこされ、重要なところが一発でわかるカラフルでにぎやかな年表なのだ。

▲2020年にはどんなタイトルがついているのか。本書で確認されたい。


今回の増補版は、1996年から2020年を追加収録したもの。編集長吉村は、3月27日に行われた46[破]伝習座のなかで、これらのトラックタイトルの付け方を指導陣にレクチャーした。

 

そのひとつは、「Qちゃんだけでは物足りない」である。

2000年のスポーツニュースといえば、シドニーオリンピックである。瞬間最高視聴率は59.5%、はじけるようなガッツポーズでゴールテープを切った高橋尚子の姿はいまなお人々の記憶に鮮烈だ。しかし、だからといって見出しに「高橋尚子」とだけ書いてもつまらない。

実際のページを見てみれば、「Qちゃんとヤワラちゃん」と赤字で記されている。マラソンの高橋尚子とあわせて、柔道の田村亮子が並び立ったのだ。当時「最高でも金、最低でも金」の決意が新聞紙面を騒がせ、3度目にして悲願の金メダルを勝ち取った田村亮子だ。シドニー五輪の象徴としてこの女性アスリート2人を選び、さらにはともにあだ名で揃いをもたせ、このヘッドラインとなった。

 

固有名詞がひとつだと、見出しとしては弱い。けれど、2つ並べれば時代のモードになる。校長松岡正剛からも「3つ連打せよ、2つ並列せよ」とのディレクションが入ったという。1999年には「宇多田ヒカル・椎名林檎」が肩を並べ、2020年には「ネットフリックス・アマゾン・ズーム」がコロナ特需の枠内で競いあう。読者それぞれが、年表内にいるコンビやトリオからその時代性を聞き出してもらいたい。

 

▲2000年には「千夜千冊とイシス編集学校」の双子も。

 

どのように時代をうつしとるか、そしていかにして時代を読みとくか。年表の読み方・書き方は、一ヶ月をかけて[破]の「クロニクル編集」でみっちりと学ぶ。情歴21の編集にも、イシス編集学校で学んだメンバーの40名以上が、歴象の収集から分類、見出しの凝縮や配置などに尽力した。

松岡はいう。「年表を歩くことは時間の旅人になること」
『情報の歴史21』を読み、アルタミラから鬼滅の刃まで時空を旅せよ。かならずや時代が立体的に見えてくる。

 


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https://shop.eel.co.jp/products/detail/251

▲予約購入者の手元にはぞくぞくと届けられている。全508ページ、重さにして1kg超のド級年表だ。

 

写真:後藤由加里(学林堂)

梅澤奈央(本文、パッケージ)

  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。