【伝え方の学び方がわかる!】イシス編集学校オンライン説明会開催レポート

2024/04/25(木)12:00
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■伝えたいことが伝えられない。

 

会議で、プレゼンで、友人や恋人との会話で、子育てで、自分の思いや考えが伝わらず、もどかしい思いをしたことはないだろうか?

 

相手にとって未知のジャンルの話だったり、言葉にならない思いだったり、話が複雑だったり、そもそも得体が知れず自分でもよくわかっていないものだったり、と伝えられない理由は様々。他にも色々あるだろう。

 

イシス編集学校は伝えにくい学校だ。すでにその面白さに惚れ込み、入門者に寄り添う師範代になった人たちでも、「編集学校とは何?」と問われたら、どう説明すればいいか、悩ましくなってしまうほどである。

 

そんな編集学校の学校説明会が4月18日(木)夜、ネット上で開催され、校長松岡正剛のまの字も知らない人から、校長本はほぼ読んだ強者まで、様々なバックボーンを持つ12人が参加した。

 

ナビゲーターは師範代たちの指導にあたっている石黒好美師範(以下ヨシミ師範)。編集学校所長の田中晶子所長も見守る中、得体の知れない学校の有様が、どんな言葉や方法で伝えられたのだろうか。

 

◇      ◆      ◇

 

■型で伝える

 

ヨシミ師範が実践する「よりよい伝え方」とは、「編集の型」を活用することだ。編集の型はイシス編集学校の門をくぐった者全員に手渡されるものである。

 

ここではその型を紹介すべく、実際に石黒師範が型を用いながら編集学校のあれこれを参加者に伝えている様子を追いかけてみよう。

 

ちなみにヨシミ師範は先日、師範代たちの研鑽の場「伝習座」で、入門者が最初に稽古する[守]用法1の型を紹介する「用法語り」を担当、上野の国立科学博物館で開催中の「大哺乳類展3」の中で用いられている型を紹介し、社会と編集学校を型で繋いだばかりである。

 

 ※以下、《  》が編集学校で稽古する型の名前である。

 

 

■まずは《コンパイル》(編纂)

 

編集学校が辞書に載るとしたら、どんな風に書いてあるか? そんな風に情報を捉える型を《コンパイル》という。

 

人に何かを説明する際、ついその感想ばかりを熱く伝えてしまい相手にドン引きされた、なんて経験がある方もいるのではないだろうか。これは感想を伝えること自体がNGなわけではなく、その素晴らしい感想を受け取るための基礎情報を相手が知らないだけ、という可能性もある。そんなことにならなためにも、コンパイルは大切だ。

 

 

■編集学校システムを表す《要素・機能・属性》

 

ヨシミ師範はまず、編集学校を《要素・機能・属性》という型に分けてコンパイルした。

 

 

《要素》はそこにあるモノ。2000年開校、受講者(世界中、10代から80代まで、のべ3万人)、指導者850人以上、ネット、教室、師範代、お題など。

 

《機能》は世界中どこからでも参加できる、年齢性別問わずできる、編集術のスキルを身につく、指導者になれる、など。

 

《属性》は学校、ネット上、24時間空いている、などだろう。

 

人によって何をどう要素・機能・属性と捉えるかはまちまちで、正解はない。それよりもこうやって3つに分けて捉えると、たとえば「属性がネット上だから、24時間、世界中から参加OKな機能ができ、世界中の0代から80代の参加者という要素も生まれる」など、要素・機能・属性が絡み合って編集学校システムを作り出していることが、編集学校を知らない人にも伝わりやすくなる。そのことが大事なのだ。

 

ヨシミ師範は「きょうもオランダから参加してくれている方がいる」と参加者の要素と受講者の要素を重ねたりして、説明会の参加者と受講生の間を近づける思いやりも忘れない。こういう要素・機能・属性の使い方もあるのだ。

 

 

■相手に伝わる《言い換え》

 

話は実際の稽古の様子へと移っていく。師範代からお題が出題され、学衆と呼ばれる受講者がお題に回答、師範代から指南が届く。基本的にこの繰り返しで稽古は進んでいくが、そうなると気になるのはお題の難易度だろう。参加者の事前アンケートにも「中学生でもできますか」と質問があった。

 

そこでヨシミ師範は最近は毎期2〜3人は小学5、6年生がいることに着目、お題の難易度を「日本語で書かれた新聞が読めて感想が言えるくらい」と《言い換え》た。これでなんとなくお題の難易度が伝わったのではなかろうか。

 

 

■伝えるための型

 

編集学校はネット上の学校だから校舎はないが、象徴的な建物、「本楼(ほんろう)」がある。入門すると本楼の6万冊の本に囲まれる機会もあるだろう。

 

《象徴》は校長松岡正剛の著書『知の編集術』で紹介されている「六十四編集技法』と呼ばれる型のひとつで、抽象的なモノを具体的なシンボルにして表すことで理解を助けるものである。

 

 

本楼の次は校長の紹介だ。ヨシミ師範は多彩な校長の活動の中から「本楼・千夜千冊・角川武蔵野ミュージアム」の《三位一体》を取り出した。三位一体とはキリスト教における父と子と精霊のような3つ揃えのことである。他にもホップ・ステップ・ジャンプのような順番を持ったつながりである《三間連結》など、3を用いた型がある。3は人の理解や記憶を助けるマジックナンバーなのだ。

 

また、角川武蔵野ミュージアムを「YOASOBIが紅白で歌った場所」と一言で《要約》して伝えた。こんな風に参加者との距離が近づくような伝え方の型も、編集学校でたくさん学ぶことができる。

 

 

■コンパイルの次は《エディット》(編集)

 

編集学校とは何かを伝えるために、コンパイル的な情報はもちろん必要不可欠だ。ただ、それだけでは相手に響かないし、話が広がらない。そこで大事になるのが《エディット》だ。エディットは客観的な事実のみならず、そのものの背景にある物語や恣意的な読みなども加えそのものの《らしさ》がわかるような、やわらかい情報の捉え方である。

 

編集学校はその名の通りエディットの学校だから、コンパイルを踏まえた上でのエディットをとても大切にしていて、そのための型もたくさんある。そんな編集学校の説明会がコンパイルだけで終わるはずはない。ヨシミ師範も「編集学校」をエディットしはじめた。

 

■編集稽古っぽいこと

 

編集学校や稽古の内容を伝えることは難しくても、編集稽古らしさが伝わるような「編集稽古っぽいもの」ならできる。参加者さんと一緒の「編集稽古っぽいもの」が始まった。

 

お題は「編集っぽい自己紹介」。自分らしさを何かに《見立て》て紹介してみましょう、というチャレンジだ。もちろん全員じゃなくて、思いついた人だけで大丈夫である。

 

 

ヨシミ師範は自ら手本を示す。

 

私はすごいデカい小倉トーストです。そのこころはトーストだけでも美味しいのにあんこまで載せちゃうサービス精神で、名古屋から編集学校の良さを伝えたい、と思っている人なのです。

 

これを受けて、参加者から手が挙がった。

 

 わたしはパリパリの明太子煎餅です。そのこころはオランダに数十年住んでいるけれども、九州女のメンタリティで働いています。

 

「煎餅のパリパリさ明太子のピリリとした辛さが九州の人の力強さ、爽やかさと結びつく。オランダにいてもそれを忘れない感じが伝わる」とヨシミ師範も大絶賛。

 

 

■なぜ《見立て》が大事なの?

 

見立ては日本が大切にしてきた方法だ。月見うどん、たい焼き、メロンパン、目玉焼き…、何か別のものに見立てることで、相手に高速でイメージを伝えられたり、新しいものの見方を発見できたりする。

 

たとえば「今年の新入社員は仕事が早くてよく動く…」などと要素・機能・属性をコンパイルして伝えるのもいいが、コンパイルした情報を元にエディットして「今年の新入社員はチーターみたい」と伝えた方が、イメージが伝わりやすいし新たな見方づけもしやすくなるのだ。

 

こんな話をしているうちに、別の参加者からも声が挙がった。

 

私は最中です。やさしい薄皮に濃厚な中身が詰まっています。

 

見た目の親しみやすさと食べてみた時の味わい深さがよく出ている。実際の編集稽古でも、最初にお題を見て何も浮かばなくても、他の人の回答や師範代の指南などを見ているうちに、それならば、と言葉が出てくる。これも編集学校らしさなのだ。

 

 

■編集とは何か

 

お題をひとつやってみたところで、いよいよ編集とは何か、という話題に進む。事前に参加者に書いてもらった編集のイメージはこんな感じだ。

 

・編集とはデザインだ。

・視認性がいいことである。

・視点に合わせて情報を整理すること。

・足し算、引き算をして、掛け算のインパクトを残すもの。

・印象に残すためにやるもの。

・誰もがしている生活の営みの中に自然に存在する情報の取り扱い様式。

 

ヨシミ師範は「視点に合わせる」「何かと何かを組み合わせる」など、とても編集に関係がある。そして編集はまさに「誰もが自然にしていること」なんです、と参加者の話を引き取りつつ、編集学校が考える編集の意味を『知の編集術』の冒頭から引用する。

 

本書でつかう「編集」という言葉はとても大きな範囲につかわれています。

 

ふつうは、新聞や雑誌や映像の編集者がしている仕事を「編集術」というのですが、ここではそういう狭い見方をしていません。編集をうんと広くとらえている。

 

どう広いかというと、人間が言葉や図形や動作をおぼえ、それらをつかって意味を組み立て、人々とコミュニケーションをすること、そのすべてに編集方法がいろいろ生きているとみなします。


だからふだんの会話にも編集があるし、学問にも編集が働いているし、芸能や料理もスポーツも編集されているというふうに見るわけです。

 

こうして参加者と編集学校の「編集」をならべてみると、参加者のイメージする編集は編集学校の考える編集の中に含まれていることが見えてきて、参加者は編集の意味を自分事として理解できるようになっていく。

 

 

■編集とは何か

 

また、編集は私たちに何かがインプットされ、アウトプットされるまでの間に頭の中で行われているが、頭の中はブラックボックスのようで、何がなされているかはなかなか取り出せない。

 

そのインプットとアウトプットの間のブラックボックスの中身を、編集学校では4段階に分け、そこで使われている型を学ぶのが編集学校であると語っていく。

 

 

 

この4段階をヨシミ師範は料理とかさねて「収集=材料揃え、関係付け=下拵え、構造化=調理、演出=盛り付け」と《ダンドリ》をわかりやすく翻訳した。

 

ちなみにここまで紹介してきた《要素・機能・属性》は1の収集、《らしさ》は2の関係付け、《コンパイルとエディット》《見立て》《ダンドリ》は3の構造化、《要約》は4の演出の型だ。こんな風に段階的に学んでいくから、今すぐ「おかしな自己紹介」ができなくても、全く心配はいらないのである。

 

 

■編集学校の全体像

 

編集稽古の風景(つまりはネット画面)や実際のお題も紹介された後、入門後にたどる道筋も示された。

 

[守]と[破]で基本的な型を学んだ後は、さらに稽古を深める[遊]、[離]、師範代になるための[花伝所]、読書筋を鍛える[多読ジム]など多彩な道がある。興味のある方はぜひこちらをご覧いただきたい。

 

守破離まるわかり ー イシス編集学校コースマップ 林頭吉村の編集解説Vol.06

 

あれこれの情報を「われわれにとって必要な情報=知」に変えるための方法が編集で、編集を学ぶためのシステムが編集学校。そんな全体像が参加者に手渡された。

 

最後にヨシミ師範は「英会話、マネジメントスクールのような稽古事はアプリケーションを追加するようなもの、編集稽古はOSを再インストールするようなもの」とここでも見立てを使ってスピーディーに伝えた。おかし見立てにはじまりパソコン見立てに終わる、型尽くしな学校説明会となった。

 

■Q&AではなくQ&E

 

約1時間ほどの説明会の後、参加者からの問いQに対して、ヨシミ師範と田中所長がE、つまりエディット的に応じるQ&Eが行われた。

 

「もっと落ち着いた対話ができるようになりますか?」の問いからは、『知の編集術』でも紹介されている「編集は対話から生まれる」へと話が膨らむなど、ただこたえを渡すだけではなく、より編集学校へのイメージが広がるような応接があった。

 

「課題が解決しますか?」のQには、田中所長からは「編集学校は何か問題の解決を保証するものではないが、色々と発見的なことが起こると思う。何と出会えるかな、と思って入ってもらえると面白くなると思う」。ヨシミ師範からは「解決しないまま力がついていく」と、解決するしないの二択に縛られず、新たな編集可能性を探り続ける編集学校らしいEがあった。

 

なんといってもみなさん実にイキイキとしている、と嬉しそうに語る田中所長と、深くうなづくヨシミ師範の姿が印象だった。

 

白川静氏の『字通』によると、「説」神意をうけとる、ゆるす、よろこぶの意が、「明」は神を迎える窓から月光が入り込むの意があるそうである。ヨシミ師範が編集の神様をこの場に迎え入れ、編集の面白さを伝えてくれたかのような、イキイキとした会であった。

 

 


 

★次回の学校説明会は4月27日(土)14:00-15:30、Zoom開催、無料です。

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【無料・オンライン】4/27(土)イシス編集学校 学校説明会

 

 

★試しにお題に回答して指南を受けてみたい方はこちら。

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 稽古期間:2024年5月13日(月)~2024年8月25日(日)

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  • 清水幸江

    編集的先達:山田孝之。カラオケとおつまみと着物の三位一体はおまかせよ♪と公言。スナックのママのような得意手を誇るインテリアコーディネーターであり、仕舞い方編集者。ぽわ~っとした見た目ながら、ずばずばと切り込む鋭い物言いも魅力。