草むらで翅を響かせるマツムシ。東京都日野市にて。
「チン・チロリン」の虫の音は、「当日は私たちのことにも触れてくださいね」との呼びかけにも聴こえるし、「もうすぐ締め切り!」とのアラートにも聞こえてくる。

Break by itself. 自分の殻を内側から壊す。これが破れだ。破るとは決意するということだ。
6月28日、[花]キャンプでの「ハイパー茶会プラン」のグループワークが始まった。開幕して38分後、道場生のN.Y.がグループの口火を切った。プランナーは総勢28名。キャンプ2日間のGW総発言数は995。締切時刻までの1時間の発言数が129。28秒ごと発言が飛び交うという高速編集が繰り広げられた。N.Y.らが企画したハイパー茶会は「百期夜好(ひゃっきやこう)」。茶室をスナックに見立ててカウンター越しの亭主「ゆみママ」を設計した。同日19時、道場生と師範とがキャンプ地に再び集った。場をキャンプファイヤーに見立て、お互いが問答を通じてのフィードバックを交わす。恒例のキャンプ宵会だ。N.Y.は他組のハイパー茶会を参観し、自分のプランニング編集を省みた。N.Y.の内奥には忸怩たる思いが湧き上がる。進言したけれど見過ごされたプラン、引け目を感じて推し出せなかったプランがあった。N.Yは、心残りを「宵会」に吐き出して、いまの思いを一文に収めた。
●すべて、私自身の力不足なのです。(N.Y)
程なくして古谷奈々花伝師範がこう問いかけた。
●花伝式目の5Mで言うと、どの型がどのように不足しているんですか。FBかけてみて(古谷花伝師範)
師範はFBをかけるための鋏を差し出した。「力不足」という殻が罅割れた。不足では済まされなかった。そう思ったのではないか。N.Y.は反省の言葉ひとつを自分の盾にしていたのだ。この場を収めようとする「私」を真っ二つに裁つかのような鋭利な二枚の刃。一枚は「既知」と分かつため。もう一枚は「未知」に出会うため。自分と世界を接続するための番いの道具。それが「分節化」という鋏だ。「型」が「私」という情報を自由に変えてくれる。「問い」が残りの人生を冒険に向かわせる。「私」の殻を破る。N.Y.の編集方針は定まった。ターゲットの向こう側が見えたのではないだろうか。
機は熟した。7月5日は式目演習の最終お題である自己評価レポートの提出締切日だ。N.Y.は師範の問いに答えて決意を言葉にした。
●自分の目の前の日常で精一杯「問い」続ける。この毎日の私の小さな日々こそが、編集を社会することなのではないか。「生きる」ということではないか(N.Y)
破れた。「もっと生きたいんだ」と叫んでいる。「生きる」とまで言い切ったN.Y.の気概を諸手を挙げて讃したい。振り返ってみれば、この「生きる」姿を毎日の教室で示してきたのが、先達の師範と師範代であった。式目演習の学びは、単なる学習ではなく、数々の師範代の「生き様」を継承することにある。43[花]の指導陣が複数の師範像を継承してこの場に立つ。教える者と学ぶ者の啐啄同時は、型の継承の証しなのだ。
初代の沢村宗十郎は「師匠は釣鐘のごとし、弟子は撞木(しゅもく)のごとし」と言った。本気で鐘をつけば、その音は里から山にまで届く。鐘はそこにあるだけで、音を出すのを仕向けるのは撞木のほうなのだ。ただし、「さあ、ここを突きなさい」と鐘も言う。それを撞木が突いていく。その鐘の音はうんと遠くでも、よくわかる。この宗十郎の言葉、いまでも肝に銘じている。(1252夜 『守破離の思想』 藤原稜三)
鐘はいつでも突かれる覚悟にある。撞木を突くとは「決める」を果たすことである。
文/齋藤成憲(43[花]錬成師範)
アイキャッチ/大濱朋子(43[花]花伝師範)
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イシス編集学校 [花伝]チーム
編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。
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(やばい)と変な汗をかいたに違いない、くれない道場の発表者N.K。最前列の席から、zoomから、見守ることしかできない道場生は自分事のように緊張した。5月10日に行われた、イシス編集学校・43期花伝所の入伝式「物学条々 […]
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目標は自らが世界最高の権力者となり、理想の王国を築くこと。ただそれだけ。あとはただひたすら死闘に次ぐ死闘!そして足掛け六年、全28巻費やして達成したのは、ようやく一地方都市の制圧だけだった。世界征服までの道のりはあまりにも長い!
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昆虫の複数の分類群で、祭りのアーキタイプが平行進化している。