「どろろ」や「リボンの騎士」など、ジェンダーを越境するテーマを好んで描いてきた手塚治虫が、ド直球で挑んだのが「MW(ムウ)」という作品。妖艶な美青年が悪逆の限りを尽くすピカレスクロマン。このときの手塚先生は完全にどうかしていて、リミッターの外れたどす黒い展開に、こちらの頭もクラクラしてきます。

マグロ漁には、体力や忍耐力、状況判断力や漁業の知識だけではなく出航前の準備も重要である。漁具の点検、餌の準備から漁は始まっている。しかし、体力や知識をつけ、準備をしても魚は釣れるかわからない。でも、漁師は明日の大漁を信じて挑むのだ。
イシス編集学校にも、そんな「漁師」と呼ぶにふさわしい人物がいる。55[守]マグロワンダフル教室の稲森久純師範代だ。今回、稲森の人物像に迫るべく、週刊キンダイでインタビューを行った。
大物をゲット!ドヤ顔の稲森師範代
7月20日は参議院選挙で日本が熱くなった。同じ20日は番ボーエントリーの締め切り日、55[守]にとっても熱い1日となった。マグロワンダフル教室は朝の時点でエントリーゼロ。稲森は漁師の眼差しになった。学生がふとメールを見るであろう時間帯を見計らって連絡を入れ続けた。結果、状況は一転し、なんとエントリー7名に達する大漁の日曜日となった。
稲森は50[守]釣果そうか!教室で初めて師範代を務めた。その後、52[守]で近大番を担当し、55[守]では近大生のみが参加する教室の師範代として抜擢された。
お互いに宇宙人みたいなもんだと思うんです。
社会人と学生には目に見えない境目がある。責任を負い、しっかり道を歩いている社会人の師範代から投げられた言葉に、学生はどう反応してよいのかわからず返信ができないのではないか。そう仮説した稲森は、一斉に指示をするように連絡するのではなく、1本釣りするかのように、一人ひとりに向けて短いメッセージを送る。「○○さ~ん、待ってますよ~~」と祈りのような声を届けるのだ。
大学の授業とはちょっと違うなって思って欲しい。
平日に回答が多く届き、週末は少なめ――。稽古の様子をみていると、大学で単位を取る感覚と同じように見えてくるという。「でも、そうではなく、もっと、とことん自分たちのことを、好きな物を出していってほしいんです」と語る。何を隠そう、稲森自身が守講座を受けているとき、ほとんどの回答を“魚”で貫き、駆け抜けた。その熱中がイシスでの稲森をイキイキさせたのだ。好きなことをとことん――、それでいい。すでに社会に出ている先輩がそう言うのだから間違いない。
10年後でもいい、ふと戻ってきたら嬉しい。
すぐに[破]講座に進んで欲しいのかと思いきや、見据えていたのはずっと先のことだった。「社会に出る前に、こうして知らない大人たちと遊ぶ体験ってなかなかないと思うんです。会社では、こんな風に番ボーだ~とか、ミメロギアだぁ~、なんてやりませんからね」。水面下にいる魚の動きを探るようなものなのだろうか。目先の成果だけではなく、10年後を見据えて指南を届けていたのだ。
「将来を担う若者たち、日本を背負っていく人たちですからね」。マグロワンダフル教室の近大生たちに、大きな期待を寄せているのがわかる。
指南も釣りも全力で
稲森の言葉には、一つひとつに力がある。教室で交された稽古のやりとりを、そのまま社会に持ち出し、大人に遠慮することなくやっていってほしいという願いが込められている。
最後に稲森自身が、イシス編集学校で今後どうしたいか尋ねてみた。
イシスがない生活って考えられないんですよ。
たとえば、何の気なし毎日している歯磨き。当たり前すぎて、今日から禁止と言われたら困ってしまう。歯磨きと同じくらい、イシスでの活動が染みこんでいるのだという。気がつけば当たり前になっている日々の積み重ね。これは、いつ訪れるかわからないチャンスに備える、釣りの準備とも重なる。どちらも、目には見えない努力が未来につながる。釣れるチャンスは必ず来るわけではないが、備えているからこそ、いざという時に手にできる。そんなふうに日々積み重ねてきた準備や思いが、ふとした瞬間に花開くのがイシスの面白さだ。
魚好きの師範代を喜ばせるために、誰かが必ず魚に関する回答を届ける――。
その一投一投が、まるで釣りの醍醐味のように感じられる。師範代の用意と、遠慮なく乗っかる学衆の卒意。稽古も釣りも、その軌跡は放たれた後にこそ現れる。そんなやりとりが、きっと10年後にも、またここに生まれるのかもしれない。
イシスも海もどこまでも広くて深い。
いつでも、いつまでも遊べる場なのだ。
アイキャッチ/稲森久純(55[守]師範代)
文/一倉広美(55[守]師範)
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