先生も走るどころか交代させられ大騒ぎな師走、12月12日の夜、総勢23人の生徒が気になる本を持ち寄った。わずか1時間で本が1冊読めるワークショップ [共読Online] が開催された。
もとは読書筋を鍛える[多読ジム]の参加者の研鑽の場だったが、ジム内に留めておくのはもったいないと、昨年7月17日より始動した。イシス編集学校未経験の方でも、読みたい本が1冊あれば、どなたでも参加できる。
実は読めるのは1冊だけではない。他にも2冊の大筋が掴めて、23冊全部が摘み読みできる。自身の読書法に不安があった人には、直接やり方を習える貴重な場だ。積読解消なるかと思いきや、つい他の本もポチッとしたくなる、積読倍増要注意な場でもある。今回は、多読ジムのトレーナー役のひとり、重廣竜之冊師がナビゲーター役を、裏を取り仕切る大音美弥子冊匠がZoomホスト役をつとめた。
◇ ◇ ◇
■気になる選本は?
参加者が持ち寄った本を並べてみよう。
●歴史
〇『完全版 ローマ人への質問』塩野七生/文春新書
〇『神聖ローマ帝国』菊池良生 /講談社現代新書
〇『「戦前」の正体 愛国と神話の日本近現代史』辻田 真佐憲/講談社現代新書
〇『増補 破戒と男色の仏教史』松尾剛次/平凡社
●性
〇『トランスジェンダー入門』周司あきら、高井ゆと里/集英社新書
〇『女ことばってなんなのかしら?:「性別の美学」の日本語』平野 卿子著/河出書房新社
●言葉
〇『ことばの発達の謎を解く』今井むつみ/ちくまプリマー新書
〇『言語の本質』今井むつみ/中公新書
〇『20世紀言語学入門』加賀野井 秀一/講談社現代新書
〇『日本語が消滅する』山口仲美/幻冬舎新書
●身体
〇『日本人の耳をひらく』傳田文夫/祥伝社
〇『「密息」で身体が変わる』中村明一/新潮選書
〇『『空海の風景』を旅する』NHK取材班/中公文庫
●哲学
〇『はじめてのスピノザ 自由へのエチカ』國分功一郎/講談社現代新書
〇『エコゾフィック・アート 自然・精神・社会をつなぐアート論』四方幸子/フィルムアート社
●教育
〇『学びとは何か――〈探究人〉になるために』今井むつみ/岩波新書
〇『コーチング入門』本間正人/日経BPマーケティング
●知性
〇『入門!論理学』野矢茂樹/中公新書
〇『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』帚木蓬生/朝日選書
〇『タコの知性 その感覚と思考』池田譲/朝日新書
●社会
〇『栽培植物と農耕の起源』中尾佐助/岩波新書
〇『まちづくりの発想』田村明/(岩波新書)
〇『いい人財が集まる会社の採用の思考法』酒井利昌著/フォレスト出版
一見バラバラに見えて、ジャンル間が緩く繋がった、編集学校らしいラインナップだ。8本の足にも脳があり、一本一本が中央脳からの指令を受けずとも独自に動くタコのようでもある。ちなみにタコは好奇心旺盛で、自分と関係のないものを収集する癖や他のタコや人間を観察し真似る学習能力もあるそうだ。
一座建立の23冊。これだけの本がわずか1時間ちょっとで読めてしまうのが共読なのだ。
『タコの知性 その感覚と思考』を選んだ参加者は大音冊匠に「凄いの、選びましたね」と突っ込まれ、クネクネ応じる。冊匠は「カイヨワにも『蛸』がある」とすかさず尾鰭ならぬ足を付けた。スピノザを選んだ参加者には勇気を讃える声も上がった。他にもジャケ買い、タイトル買い、勧められたけれど積読なまま、今だからこそ、前から興味津々など、様々な理由で選ばれた個性豊かな本が並ぶ。一番人気は今井むつみ。言葉にちなんだ本、多読ジムで共読中の『性の境界』絡みの本、アフターコロナの教育や社会のあり方を問う本など、今の空気感が反映された本が勢揃いした。
■いよいよ実践タイム
重廣ナビから目次読書の手摺りが渡されたら、いよいよ実践だ。各自黙々と本にマーキングしていく。重廣ナビはタイムキーパーとなって、残り時間を知らせる。一人の作業だが、みんなで取り組むから延長はない。だからこそ、時間内に終わらせるべく編集力が起動する。その後、7つのグループにわかれて本の内容の発表と交わし合いが行われた。続いてふりかえりタイムでは、参加者が口々に目次読書体験を語ってくれた。
・初参加だがとにかく楽しかった。
・「よく中身が言えますね」と言われ、前回より進歩を感じた。
・命懸けで渡海した空海はまさにアスリートだと実感できた。
・読中は読めていない気持ち悪さがあったが、読後に話すことでまとまった。
・まとめまでやって目次読書だと体感できた。
・短い時間で読む理由に納得した。
・現代版江戸の読書会みたいで楽しかった。
・ターゲットを定めて本を読む面白さを初めて体験できた。
・キーワード3つで要約できちゃった気持ちよさがあった。
同グループの本同士を新たに繋ぎ、重ね合わせる動きも興味深い。
・男色→性を言葉から考える→言葉の本質の三間連結でつながった。
・問いでつながる3冊だった。
・人間とタコのふれあいがまちづくりの発想につながるかも。
発表を受け『知の編集工学』の最後の方をぜひ読んでみて、と校長松岡正剛と繋ぐ動きもあった。仲間の発表にそそられ、思わず本をポチッとしてしまった人も複数いた。さらに他グループの発表に言葉を添える参加者も登場。全員が23冊を束ね共読する状態となった。お酒も料理も献金もないが、各自が方法とともに驚きや喜びを持ち寄り味わい尽くす、濃ゆい場ができあがった。
発表を見守る重廣ナビ。温かい眼差しに誘われ、発表者の舌も滑らかになっていく。
■なぜ、目次読書なのか?
喜びや驚きの声と共に、こんな感想も飛び交った。
・書かれている内容と目次読書の内容が一致しているかわからないから、これから読んで確かめたい。
・謎に思った点を確かめるべく、中身を読みたくて仕方がなくなった。
・文章を取り出したけれど、結局よくわからなくて、これからちゃんと読まなきゃと思った。
・「いい人財って何? 社会にとって都合のよい人のことでは?」というツッコミが生まれた。
これらを受けて、大音冊匠はこう締めくくる。
みなさん本当に本が好きですね。さらに好きになっていくのが目次読書、共読の会です。なぜなら、目次読書によって本に対して問いや仮説が生まれ、その状態で本に向かうことで、はじめて本と読者が対等になれるからです。そうでなければ本は教科書のように上から降ってきて、著者の言葉を拝聴するだけになってしまいます。
仮説を立て、問いを持ち、ときに反論したり茶々をいれたりしながら、ある意味ちゃらんぽらんに読んでいくのが読書のコツです。
そうだ。読書も編集だと捉えれば、まさに「編集は不足からはじまる」なのだ。
参加者のコメントに満面の笑みで応じる大音冊匠。「あと50年も100年も本を読んでいきましょう!」と参加者の背中を押した。
一人ぼっちで著者の言いなりになるだけの個読・鮪読から、本とも仲間とも好奇心いっぱいに絡み合う多読・蛸読へ。これまで体験したことのない方法読書の海に、みなさんもぜひ足を伸ばしてみてはいかがだろうか。
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清水幸江
編集的先達:山田孝之。カラオケとおつまみと着物の三位一体はおまかせよ♪と公言。スナックのママのような得意手を誇るインテリアコーディネーターであり、仕舞い方編集者。ぽわ~っとした見た目ながら、ずばずばと切り込む鋭い物言いも魅力。
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