「編集を続けてください」田中優子学長メッセージ【86感門】

2025/03/15(土)14:11
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 間もなく桜の開花シーズンですね。自然の美しい風物を示す花鳥風月の内、優しい色をした花によって生命の息吹が伝わってきます。ニュースを確認すると東京の開花は3月24日の予報のもよう。一足先の15日にイシス編集学校における修了をお互いに寿ぐ場・感門之盟がスタートしました。これまでの学びを振り返る学衆(生徒)たちの息づかいが伝わってきますね。

 豪徳寺駅近くにある編集工学研究所の「本楼」で行われた感門之盟の開会にあたり、学長・田中優子からのメッセージが届きました。速報として会場の様子を交えながらレポートいたします!

 

 

 学長の田中は基本コースの「守」、応用コース「破」、世界読書奥義伝「離」を受講済みです。さらには技法研鑽コースである物語講座なども受講していました。イシスの学びは単に知識を増やすだけでなく、見方を広げるだけでなく、まるで仏教の開祖ブッダが縁起の自覚をしたような、田中が言うところの「悟り」っぽいモノを得ることができます。世間一般の学校とはひと味もふた味も違うのです。

 学びの場「教室」では師範代(教師役)が学衆(生徒役)へ一方的に教えるのではなく、学衆からの回答などのフィードバックによって師範代も学びを受け取る相互編集が行われていることを田中は強調していました。

 

 中世のような帝国化やマネーさえあれば何でもできるとの思い込みが進んでいる世界と、身近な社会の中で生きる個人の間を二項対立として扱おうとすると、個人の無力さに対して絶望に陥ることがあります。そのような状況から抜け出すために「多元性」という第三の道が生まれつつあると田中は紹介しました。「複雑系」から刺激を受けながら発展している「多元性」は情報を関係づけながら、それらに新たな命を吹き込んでいます。イシスでは教室での稽古を通じて、2つ以上の知に対して文科系と理科系を区別せずに対角線を引く、今までの社会に無かった関係の学問を学んでいます。

 イシスでの学びを通じて小さなコモンズやコミュニティを形作ることも将来できるようになるでしょう。

 

 

 学長の田中はメッセージの中で度々「編集を続けてください」と強調していました。「守」では思考の武器、表現の食器、発想の楽器となる38個の編集術がありましたね。その先にある応用コース「破」では、相互編集の方法を型稽古で学ぶチャンスに出会えます。

 学長メッセージにリアルタイムで触れたみなさん(さらに本記事を読んだ方も)、編集学校入門前の状態に巻き戻って、元の居場所へと帰還しないようにしましょう。

 

<写真/文>畑本ヒロノブ、ただし最後の写真のみ福井千裕が撮影

  • 畑本ヒロノブ

    編集的先達:エドワード・ワディ・サイード。あらゆるイシスのイベントやブックフェアに出張先からも現れる次世代編集ロボ畑本。モンスターになりたい、博覧強記になりたいと公言して、自らの編集機械のメンテナンスに日々余念がない。電機業界から建設業界へ転身した土木系エンジニア。

コメント

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山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025