「ルール」とは一律の縛りではなく、多様な姿をもつものである。イシス編集学校の校長・松岡正剛は、ラグビーにおけるオフサイドの編集性を高く評価していた一方で、「臭いものに蓋」式の昨今のコンプライアンスのあり方を「つまらない」と切り捨てていた。この違いとは、ルールによってより多様なあり方がもたらされるかどうか、つまり「編集的自由」に向かっているかの違いにかかっている。
2025年4月19日(土)の55[守]「創守座」は、より多様で編集的自由へ向かう用意や設えに満ちていた。「創守座」とは、これまで松岡校長や学林局がディレクションの中心になっていた「伝習座」から、「師範や指導陣が自ら仕立てるように」という松岡校長からのディレクションによって生まれた新しい相互編集の場である。
校長がもたらした「伝習座から創守座へ」というルールの再編集によって、創守座はますます相互編集に満ち、編集的自由へ向かう場へと更新されつづけている。今回は、その現場の景色を中心に紹介していく。
「指南語り&指南ワーク」コーナーのリハを受けて、「(師範代にやってもらうワークに対し)どんな回答が来てどう返すかの想定はできてる?」「そもそも自分が師範代だったら、このワークをどう回答すればいいかわからない」と忌憚ないディレクションを連打する渡辺恒久番匠(左)。
普段は笑顔の鈴木康代学匠(右)も、ディレクションの場面では腕を組み表情も引き締まる。「例を見せないと簡単な方に流れてしまうのでは」「番匠たちがまず回答のモデルを示した方がよい」と更新をかけていく。
音楽家やアーティストたちは、その日の公演で出される弁当一つでテンションが上がりも下りもする。プロのマラソンランナーが最大限のパフォーマンスをするために、食べるものや摂取タイミングをマネジメントするのはもはや常識である。「知のアスリートの師範や師範代にも食の編集が必要だ」と創守座の食の再編集を引き受けたのが、若林牧子同朋衆(右)と佐藤健太郎同朋衆(左)である。
「食と農のコーディネーター」として編集フードを振る舞ってきた若林同朋衆が選んだのは、若林もお気に入りのベーカリー「ボンジュール・ボン」のパンの数々。しょっぱい・甘いはもちろん、発表を控えあまり食欲が湧かない人でも食べやすいようにおやきを用意するなど、10種類ほどのパンをセレクト。[守]講座の師範・番匠ロールを長くつづける若林ならではのチョイスである。
「パン屋のトレイに収まりきらず、レジと店内を何往復もしました。お店の人も『たくさん買ってくれてありがとう』と喜んでくださっていました」と、笑顔で語る。
「4月にしてはちょっと早い柏餅を、途中休憩のおやつに選んだ理由は?」と尋ねると、「5月5日と55[守]をかけました」と若林。画像では隠れているが、左胸には「5」をあしらったブローチを纏っていた。細部にも手を抜かないのが松岡流の編集である。
高速なインプットとアウトプットがつづく中の数少ない休憩時間にドリンクやお菓子に集まる参加者たち。編集スピードをさらに加速させようと、若林はフレッシュな苺を一つひとつ丁寧にカットし振る舞った。苺を選んだ理由の一つに5(イチ「ゴ」=「5」)が含まれているからというのはいうまでもない。
普段のイシスイベントでしつらえを司る編集集団「黒膜衆」のロールも、創守座では師範自ら引き受ける。
相部礼子同朋衆はZoomのブレイクアウトルーム設定や映像類を担い、淡々と、そして精確にハンドリングしていく。一見クールな印象の相部だが、その実、宮前鉄也筆司とともに、多読アレゴリア「大河ばっか!」で毎週の大河ドラマの見どころをとんでもない濃密さで連載をする、べらぼうに熱い編集魂の持ち主である。最近ウェービーなパーマをかけたのは、その熱があふれ出てきてしまったゆえか。
相部の横でZoomの「視覚」を司る、前期まで[守]師範を務めた山崎智章師範。今季は[花]の錬成師範へ着替えたが、それでも創守座の場づくりに加わりたいと自ら手を挙げた。ビデオとともに肩にかけるニコンのカメラで写真もパシャリ。集中力を要す創守座メンバーに嬉しいおせんべいの手土産を持参するなど、あらゆるメディアから参加者を鼓舞しつづる。
今やお馴染みとなった八田英子律師の冒頭メッセージ。季節や講座に合わせた言葉を編み上げて手渡す。2週間前の伝習座のテーマ「あやかり編集力」から、「あやかり」をキーワードに構成された創守座の面々に、「単に表層で見ているものを真似するだけでは失敗する。さしかかりの一回性やあらわれるアウラごとあやかることが大切。創守座で起こるさしかかりも編集契機にしてほしい」との言葉に、師範代の背筋が伸びる。
「あやかり」をベースに置いた今回の創守座。前日まで悩み抜いた末に康代学匠が選んだのが、2020年6月6日の伝習座の冒頭映像だった。この伝習座は、コロナ・パンデミックにより、従来の対面から初のリモートによる開催となった。康代学匠は当時を振り返りながら、松岡校長がいかにありきたりなリモート配信に抗い再編集したかを連打する。「まず校長・学匠・番匠の『声』を伝えた方がいい」「短冊にした[守]の38のお題を本楼の四方に貼り、お題を読み上げる声に合わせて短冊をカメラが追っていこう」「短冊のお題のフォントは一つずつ変える」「読み方も一様にしない」「カメラアングルは斜め上から。背景には紫陽花を入れて」etc…。
今季、編集的先達に松岡校長を選んだ師範代が多かったことを受けて、今の師範代が直接立ち会うことのできなかった、かつての校長による場の編集をどうしても紹介したいーーそんな康代学匠の思いからの映像のチョイスだったが、同時に、創守座の場を編集する師範陣へのエールでもあったのだろう。
松岡校長はその場のさしかかりに応じて、手渡す言葉を直前まで練りつづけてきた。
その校長モデルをあやかり、自ら実践している一人が吉村林頭である。イシスカウンターの前の席に腰掛け、創守座での師範代の発言や場の様子を手元のペーパーに書き込みながら、静かに用意をしていた。途中休憩で話しかけると「まだ何をいうか迷ってるんだよ」と一言。
そんな林頭だが、今日の創守座で何度か登場した「存在から存在学へ」「重力が存在を重くする」といった言葉について、[守]のお題や師範代ロールと重ねて再編集をしながらメッセージを贈った。「重力が存在を重くするとは、コップはコップ、私は私と固定されたものになった状態。コップや私を重力のくびきから解き放つ方向へ向かうのが『存在学』。例えば、[守]のコップのお題も、情報の地を動かすのも、全て情報を重力から解き放つ方法の一つ。こうした重力からの解放を、松岡校長は『己を羽布団のようにしたい』とも言っていた。」(吉村林頭)
13時のスタートから4時間超にわたった伝習座の後半は、師範代と師範によるチームミーティング。数々のレクチャーを浴びワークで手を動かした師範代が、チームごとに師範や番匠との対話を重ねる。本楼に駆けつけた田中優子学長(左)も、即座に「酒上夕魚斎教室」の師範代に着替えて、石黒好美番匠らの輪へ。
創守座のラストは、チーム単位での対話から本楼全体による振り返りへ。最後の記念撮影のシーンでは、緊張の面持ちだった師範代たちも、全プログラムを経て表情がやわらいでいた。
休憩中に不敵な笑みを浮かべながら、とある計画について対話する康代学匠と吉村林頭。[守]講座で続けている「編集宣言」シリーズについて、水面下で書籍化へ向けたプロジェクトが動きはじめているようだ。
場の編集から、「書籍」という別メディアの編集へ。松岡校長からの「伝習座から創守座へ」というディレクションを受け、師範陣たちは場の編集からさらに遠くへ、新たなメディアの隣接と波及を実践しはじめている。
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稽古期間:2025年5月12日(月)~2025年8月24日(日)
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◆第55期[守]指導陣(学匠・番匠・師範)◆
●守学匠:鈴木康代
●守番匠:阿曽祐子、石黒好美、渡辺恒久
●同朋衆:相部礼子、石井梨香、佐藤健太郎、若林牧子
●師 範:青井隼人、阿久津健、一倉広美、内村放、景山和浩
奥本英宏、紀平尚子、福澤美穂子、北條玲子
◯創守座テクニカルメンバー:山崎智章(師範)
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上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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