かつて「大人マンガ」というジャンルがあった(詳しくは「マンガのスコア 園山俊二」参照)。この周辺には、ファインアートと踵を接する作家たちが数多く存在する。タイガー立石もその一人。1982年、工作舎から刊行された『虎の巻』は、まさしくオトナのためのマンガの最極北。いいお酒といっしょにちびちび味わいたい。
イシス編集学校では、「お題」と「回答」つまり「問」と「答」のあいだに、極めて重要なプロセスがあります。それが「問」→「感」→「応」→「答」→「返」というプロセス・メソッドです。
指南中の学衆からある問いが来ました。
「みなさんの回答を見ていると、とても整理されているように感じるのですが、私の回答は順番がぐちゃぐちゃです。(中略)綺麗にトレースできるように発想を展開するには、どのようなことに意識したらよいのでしょうか。」
私はこれに対し、「問→感→応→答→返」を使って答えました。およそ次のように言いました。「イシス編集学校の稽古は問題と答えでできているのではなく、問→感→応→答→返 というメソッドで展開しています。問と返の間にある感、応、答が大事です。まずお題に対して何を感じても良い。できるだけ多くのことを感じたり思い出したりしてください。次にその思いの渦の中で、どうお題に応じるかを、巡らして下さい」と。
これを松岡正剛校長は「問う。感じる。それに応じて自分が何か動いてしまう。こうしたらいいなという答え。それに誰かが反応を返してくる。それを1人が全部やってしまうのです」と語っています。
また別のところでは、「感とは、五感の感覚や、心理的な感情や、社会性を持った感性など、さまざまある。自分で感じるそれらを刺激として、自分の中で反応が起こっている」と語ったこともあります。
そうすると「振り返り」とは、自分の感じたたくさんの記憶やイメージや感情に「自分の中でどういう反応が起こったか、感情にどう応じたか」を振り返る場所、と言っていいでしょう。「自分でも何故それが思い浮かんだのかが分からない」「突然まったく別のことが浮かんでいる」のは、当たり前のことで、人は日常的にそれを繰り返して生きています。その理由は説明できません。しかし自分の中に去来するそれらに自分自身がどう反応したか、その感の中の何をもってお題に(あるいは教室に、師範代に)応じようとしたかは、振り返ることが可能です。
さらに、応じたことの何かを選んで、「これを答にしよう」と判断した時の頭の中の動きや、その時に「考えたこと」「気づいたこと」を書くこともできます。それは順序よく書く必要も論理的に整理する必要もありません。ただ、「思い浮かんだことを並べる」ところから、次にそれらに向き合って自分がどう応じたか、どう答に結びつけたかの経過を書くことはできます。私は学衆の問いに概略、そんなふうに答えました。
このように答えたことによって、私自身が「現場で」問→感→応→答→返を実感しました。しかし松岡正剛校長の問→感→応→答→返メソッドが秘めていることは、それだけではありませんでした。
このまま続けるとあまりに長くなりますので、次回は、そのことを書きます。
イシス編集学校
学長 田中優子
田中優子の学長通信
No.06 問→感→応→答→返・その1(2025/06/01)
No.05 「編集」をもっと外へ(2025/05/01)
No.04 相互編集の必要性(2025/04/01)
No.03 イシス編集学校の活気(2025/03/01)
No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)
No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)
アイキャッチデザイン:穂積晴明
写真:後藤由加里
田中優子
イシス編集学校学長
法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。
イシス編集学校の学長は、松岡正剛校長がそうであったように、学校内の学長の仕事のほかにも、色々なことをしているのですよ。例えば、イシスの方法を一般の講演や対談や書籍などで外に知らせることは、もっとも大事な活動の一つです。 […]
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コメント
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