べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その四十六

2025/12/05(金)22:30
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 曽我祭とは、芝居の守護神として楽屋に祀られていた曽我荒人神のお祭りで、江戸の劇場が行った年中行事。町内の行列など、単に芝居小屋に止まらず江戸の町全体を巻きこんだお祭りだったそうです。祭りといえばハレの日、と言いたいところではありますが、「べらぼう絢華帳」その三十三でも取り上げたように、江戸時代に人気だった曽我狂言、実は仇討ちの物語。さて蔦重たちは源内の、田沼意次の仇を討つことができるのか。
 大河ドラマを遊び尽くそう、歴史が生んだドラマから、さらに新しい物語を生み出そう。そんな心意気の多読アレゴリアのクラブ「大河ばっか!」を率いるナビゲーターの筆司(ひつじ、と読みます)の宮前鉄也と相部礼子がめぇめぇと今週のみどころをお届けします。



第46回「曽我祭の変」


ピカイチのべらぼう


 おていさんを引き連れて蔦重の元に戻ってきた歌麿は、煮え切らない蔦重にこういって詰め寄ります。

なんべんもおていさんに同じことさせんなよ。世の中、好かれたくて、役立ちたくて、てめぇを投げ出すやつがいんだよ。そういう尽くし方をしちまうやつがいんだよ。
いい加減、わかれよ、このべらぼうが。


 おていさんに言寄せて、自身の気持ちも吐露した歌麿。「べらぼう」では毎回、誰かが必ず怒り、笑いとともに「べらぼう!」と叫ぶ場面がありましたが、歌麿のこのべらぼうこそが群を抜いて印象的でした。

 こうして蔦重の元に戻った歌麿は、「歌麿だから何でもいいんだ」という周囲からのお追従に飽き飽きしていると打ち明けます。ドラマ前半ではイベントを仕掛ける、新しい本を企画したりといった「外に向けた」ディレクション力が際立っていましたが、ここにきて絵師たちへの細かな指導、蔦重の、いわば「内なるプロデュース力」が光りはじめます。

源内生存説流布!?


 役者自身が嫌がってしまうほど、写実的だった写楽の絵は、役者が店先で騒いだこともあいまって、江戸中の評判になります(うがった見方をすると、グニャ富こと中山富三郎が騒いだのも実は蔦重の仕込みだったのでは、とそんな気さえしてきます)。

 こうして町中に溢れる「写楽は誰だ?」の声。この声に紛れるように「平賀源内では?」という説が流れ出します。田沼を失脚させ、源内を死に至らしめる遠因を作った、すねに傷持つみなさん、「生きていたら…」と後悔なのでしょうか。誰が悪かったのか、と探っていくと、得をしたのは一橋卿だけということに気づく。悪いのは自分じゃない、と思いたくなると、誰かのせいにしたくなるものですものね。

 そして毒殺の女王・大崎が一橋治済に物語「一人遣傀儡石橋」を差し出します。一人の「一」、石橋の「橋」で一橋とは、凝っているようであからさま。大崎は治済に、源内が写楽かどうか、探るべきと進言します。彼女が突き止めたのはある浄瑠璃小屋。曽我祭の日に、そこで源内かどうかを確かめる…のですが、源内の顔を知っているのは一橋治済ただ一人。こうして、一橋治済自らが浄瑠璃小屋におびき出されることになりました。

 しかし一筋縄ではいかない一橋治済。罠に陥れようとした大崎をはじめ、浄瑠璃小屋に集まっていた面々にも毒饅頭を食わせようと企みます。なんとその毒手は蔦重や耕書堂にまでも。

 (チョーン)とここで柝が入って、謎解きは次回へ。


長大な謎解き

 

 もう20年以上前になりますが、当時の勤務先のビルの回転ドアが一斉に取り替えられたことがあります。子どもがはさまって危険ということでドアのセンサーがより精密なものに交換されたのです。そのビルを離れて久しいのですが、今でも「後ろのセンサーが働いています」という機械の声が耳に甦ります。
 そんな現代の回転ドアの、よりにもよって事故から物語が始まるのが、島田荘司のミステリ『写楽 閉じた国の幻』。タイトルに「写楽」と入っていながらも、肩透かしのように現代の話から始まります。べらぼうを一年間見続けた人であればきっと楽しめる「写楽探し」の長編です。

 写楽の謎とは、生地や生い立ちが不明というだけではありません。

・1794年5月から1795年正月までの10か月のみ活動、しかもこの間、140数点もの作品を残す
・蔦重が、デビュー作からして黒雲母摺りという派手な体裁で売り出している
・本来であれば「綺麗なものを描く」のが浮世絵なのに、役者の醜い姿まであえて描いている
・蔦重本人をはじめ、蔦重の元に出入りしていた歌麿や京伝らが一切、写楽に言及していない
・後を継ぐ者がいない


などが挙げられるでしょう。これまでの「べらぼう」では、幾つかの謎に応えるものになっていますが─というよりも、うまく折り込まれていることに今さらながらに驚くのですが─、ではなぜぷつりと活動を止めたのか。後を継ぐ者がなぜ出てこなかったのか。このあたりはドラマと重ねて見ていくといくつもの解釈が浮かび上がってくるでしょう。

 そしてこの謎解きの物語の読後感は蔦重の粋と、伊達っぷりです。「写楽」が主人公でありながら(ミステリだけに誰が写楽なのかを書けないのが辛い…)、蔦重の「センサー」の感度の良さと、新しい扉を開こうとする強い意志に胸すく思いがし、改めて蔦重に「べらぼうめ!」と声をかけたくなるのです。

 

 


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