センセイのリバース・エンジニアリング――倉内祐子のISIS wave #04

2023/04/25(火)19:30
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イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。

 

倉内祐子さんは、都内私立小学校の音楽の先生である。今年3月31日をもって40年におよんだ教員生活に別れを告げた。日常に追われる日常だったが、倉内さんの「読み」「書き」が、イシス編集学校の稽古を経て変わったのだという。
なぜアップデートされたのか。倉内さんは[破]の稽古を振り返りながら、自身の方法的体験を言葉にしていく。

 

イシス受講生がその先の編集的日常を語る、新しいエッセイシリーズ。第4回は倉内祐子さんのエッセイをお届けします。

 

■■血肉化したボルダリング的速読・速筆術

 

 私の教えていた音楽は、感覚を通して子どもの体と結び付く体験的な学びです。敬愛するルドルフ・シュタイナーは、食べ物は形が全てなくなった時に栄養になる、学びも同じだ、と言っていました。

 [破]を修了して2年、慌ただしく稽古の締切に追われた毎日は幾ばくか遠くなりました。祭りの後のような淋しさと共に、いつもの日常生活に戻った訳です。
 しかしある時自分に中の変化に気づきました。仕事の資料や参考文献を読む時や実践報告を書かねばならない時、あれ、もう読めちゃった、もう書けちゃった? 本を読む速度、文章をまとめる速度が格段に上がっていたのです。

 

 稽古には必ず文字制限がありました。いつもだらだらと綴る癖があり、最後は文字数を数えて削ることの繰り返し。その中で身体知として「この内容ならばこのくらいの分量」という感覚が培われていたのではないかと思います。稽古で刺激された文字にならない感覚を言語化する練習も、しっくりくる言葉をたぐり寄せる力をつけてくれました。

 こうした成果は[破]で頑張ったからなあ、と漠然と思っていましたが、理由をもう少し掘り下げてみます。
 まず、自分史と本の中の歴象を重ねる[破]のクロニクル編集術の稽古で、『新・民族の世界地図』(21世紀研究会編、文春新書)を課題本に選んだことです。同稽古では課題本の中に書かれた年代をピックアップして年表にまとめる過程がありますが、無謀にも年代は全て網羅しようと決め、入力入力の日々。面倒だし間に合うか不安でしたが、途中でやめるわけにもいかず苦しい時間でした。

 思うに、この苦しみながら項目をまとめ、手を使って入力したことが、文字を理解する引っかかり、まるでボルダリングのような「突起」を脳内に産み出す力になっていたのではないかと思うのです。脳内に視覚に入った言葉の突起のボルダーが次々に、にょきにょき生えてくる様が心地よく、そのボルダーの連結でイメージが作られる瞬間もダイナミックで楽しかった!
 

 シュタイナーの言葉通り、学びは忘れた時に本当に身になる、その時に学びの主体も変容していることに、こうして振り返ることで気づきました
 イシス編集学校の稽古はまさに学びでした。

▲季節ごとにレイアウトがかわる、倉内さんの小学校の飾り用卓。倉内さんは[破]の稽古、物語編集術で妖精を主人公にしたが、ここにはどんな物語が?

 

イシスの編集稽古で誰もが最初に驚くのは、回答に「振り返り」を書く欄があることです。倉内さんが稽古を振り返りながら、当人も無意識に産み出していた「突起」に気づいていったように、無自覚だった思考のクセやダントツ、不足がいつしか言語化されるようになり、やがて〝リバース・エンジニアリング〟につながっていきます。イシスが回答に至る思考プロセスを何より重視する理由、それは編集コーチ養成講座[花伝所]で、より深く明かされていくことになります。

 

文・写真提供/倉内祐子(46[守]スターシーズ教室、46[破]ジャイアン対角線教室)
編集/角山祥道、羽根田月香

 

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

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コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。

山田細香

2025-06-22

 小学校に入ってすぐにレゴを買ってもらい、ハマった。手持ちのブロックを色や形ごとに袋分けすることから始まり、形をイメージしながら袋に手を入れ、ガラガラかき回しながらパーツを選んで組み立てる。完成したら夕方4時からNHKで放送される世界各国の風景映像の前にかざし、クルクル方向を変えて眺めてから壊す。バラバラになった部品をまた分ける。この繰り返しが楽しくてたまらなかった。
 ブロックはグリッドが決まっているので繊細な表現をするのは難しい。だからイメージしたモノをまず略図化する必要がある。近くから遠くから眺めてみて、作りたい形のアウトラインを決める。これが上手くいかないと、「らしさ」は浮かび上がってこない。