イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
「音楽活動とジョギングと編集工学に没頭中」という藤井一史さん。中でも力を入れるのは、アマチュアバンド「THE MAGASUS」だ。先日、初のワンマンライブを敢行したのだが、成功に導いたのは、イシス編集学校で習った「型」だった。
イシス受講生がその先の編集的日常を語る、新しいエッセイシリーズ、第17回目は藤井一史さんのエッセイをお届けします。
■■レシピを真似る
人前で歌うのが好きで、それが高じてThe Magasusというバンドを率い、ライブ活動を始めた。ギター、ベース、ピアノ、ドラム、ボーカル、サックス、トランペットの男女8人編成、洋楽邦楽ジャンルを問わず、聴いて心地よく、楽しんでもらえるサウンドをモットーとしている。私の担当? もちろん、ボーカル&ギターだ。とにかく目立ちたい性格だからである。そんなバンドも今年で結成5年目となり、そろそろ初のワンマンライブをやろうと企んだ。
2部構成で約2時間、メドレー含め全18曲、如何に観客を飽きさせず、楽しんでもらえるかが一番の問題だ。各部に起承転結をつけ、曲調も変える必要がある。毎回テーマを決め、ライブをショー仕立てにするのだが、選曲の中に山下達郎の『RECIPE』があった。フレンチのフルコースと恋愛をインタースコアしたドラマ(『グランメゾン★東京』)の主題歌である。
ん? イシスで学んだ[守]の型を思い出した。《レシピを真似る》ではないかと。
どういうことか。
私たちがなんらかの情報をインプットして、最終的に行動や表現などのアウトプットをする時、そのプロセスで行う編集を「型」として捉える事ができる。
例えば料理では「材料をそろえる→下ごしらえする→調理する→器を選ぶ→盛りつける」という5段階のプロセスを取り出し、その型をモデルとして別のプロセスに適用するものだ。
これは、まったく違ったジャンルのプロセスの「型」を真似て、新しい「型」をつくる稽古なのである。
[守]では、「ルール・ロール・ツール」を動かす稽古があるが、ルールの特徴は、限定的であること、相互規定的であること、例外設定があることだ。どんな素材を使うか、何を組み合わせるか、うまくいかなかった時はどうするか。レシピは「ルールという型」とも言える。
早速、『RECIPE』を元にライブ構成を練り、テーマを「フルコースのRECIPEを貴方の為に」とした。曲目をフルコースの料理に見立て一冊のMenuにすると、驚いた。料理と曲の背景や歌詞の世界観がインタースコアされ、料理に応じた様々な「愛」が醸し出されて来た。
▲ライブの次第。演奏する曲をフルコースのメニューになぞらえている。
このMenuを手元に、演奏や歌やMCを楽しんでもらえたことで、裏Menuのアンコールまで頂き、大団円を迎えることが出来た。観に来ていた他のバンドからも、真似したいとの声が聞かれた。大成功であった。
元来、型に嵌ることが嫌いな私は、イシスで型を使い自由になる方法を学んだ。
金融の裏舞台で様々な仕事をして来たが、達成感より既存の動かせないルールに縛られ、どこか窮屈な思いをしてきた。バンドでの表現活動はその反動でもあった。しかし、ライブに絡め、《レシピを真似る》という型を使い編集したことで、偶然を必然に変え自由を生み出す型の力、全く違ったプロセスの型をインタースコアすることの凄みを体感し、“編集を人生する”第一歩を踏み出せた気がする。
▲THE MAGASUS(坐・魔が刺す)のライブ風景。中央でマイクを握るのが「藤丸」こと藤井さんだ。
文・写真提供/藤井一史(44[守]間架結構教室、45[破]分針タンブール教室)
編集/柳瀬浩之、吉居奈々、羽根田月香、角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
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