「break/破」の先に見た<未来>【50破学衆、早稲田祭でのリアルプランニング】

2023/11/07(火)13:21
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集う人に、連なる屋台。
軽快なブラスバンドと威勢の良い呼び込みの声。
11月最初の週末、早稲田の地に渦巻く熱気は、季節外れの夏日のせいだけではなかった。4年ぶりに盛大に行われた大学祭には、それまでずっと、活動を制限せざるを得なかった若者たちの喜びとエネルギーが溢れていた。

 

 

イシス編集学校花伝所の入伝式を終えたばかりの大学3年生・小泉涼葉(50守・カッパらくらく教室/50破・境域ビオトープ教室)は、50破の稽古期間中から取り組んできた一大プロジェクトを完遂させた。日本一の規模を誇る大学祭で、編集学校とも関係が深い大澤真幸氏を招いて講演会を行うという、4か月越しの企画だった。
この講演会に至るまでの編集学校での稽古と、「破」の先の花伝所を目指した理由、その先についてを、50破で小泉さんの師範代を務めた筆者が聞いた。


――編集学校との出会いは大学生になってすぐの頃だったとか? 

小泉 日常生活で、とにかく情報量の多さに疲弊し、何をするにも既存の考え方からしかスタートできないところや、判断の軸が常に「正解か不正解か」になっていて、息苦しいと感じることが多い時期だったんです。そんな時に松岡校長が館長を務める角川武蔵野ミュージアムで『17歳のための世界と日本の見方』という本に出会い、松岡正剛という人を知りました。自分が感じている得体の知れない“生きづらさ”は、入ってくるたくさんの情報を消化して、自分の言葉にする力が足りないせいではないかと考えていたので、インプットした情報をアウトプットするための「方法」を学べるというところに惹かれて、入門しました。


――「守」「破」の講座で印象に残っているお稽古は?

小泉 ひとつは「守」の「たくさんのわたし」。大学の授業が終わってから、一つ先の駅まで、夜寒いなか歩きながら考えたことまで覚えています。《地》を変えていくことで、自分はどんなふうにでもなれるというのが面白かった。            
 もうひとつは、「破」のセイゴオ知文術です。自分なりのミニ「千夜千冊」を書くというお題で、『東京プリズン』という本を課題本に選んだのですが、読み解きに時間がかかったうえ、戦争や天皇という大きなテーマをどう書いたら良いかも分からなくて、苦しかったです。でも、今のこのわたしだからこそ書けることを言葉にすれば良いんだと気付き、そこから一気に書きあげました。初稿の提出が遅くなってしまい、もっと早く、途中でもいいから勇気をもって出せば良かったと心残りがあります(苦笑)。


――「破」のお稽古は講演会にどう活かされていますか?

小泉 「破」の最後に「プランニング編集術」という稽古があって、千夜千冊から三本を選ぶことから始まるんですが、そこで選んだ三本が、講演会を企画をするときの軸になりました。具体的には、1176夜『ワキから見る能世界』1787夜『ネガティブ・ケイパビリティ』1795夜『膜は生きている』です。「主客の逆転」、「負の包摂力」「透過性がある」といった日本的な考え方を取り戻すことが、わたしも含めた、今の日本の若者が感じている息苦しさ、生きづらさを乗り越えていくきっかけになり得るのではと思い、そこを講演会の柱にしました。
 企画を前に進めていくためのプランニング・メソッドを学べたことで、うまくいかない時に、何が不足しているのかを立ち返って考えることができたことも大きかった。「破」の稽古の中で、あのタイミングで学べて本当に良かったです。


――苦労したのはどんなところでした?

小泉 どんな構成や内容の講演会にすれば、自分が実現したくて、かつ参加者に響くものになるのか?運営メンバーや大澤さんと打ち合わせを重ねました。集客のために、デザインを勉強している知人にチラシを作成してもらい、大澤さんのことを知らない人にも魅力的な講演会だと思ってもらえるよう、SNSでの発信を工夫したり。この1カ月くらいは、記憶がほとんどないくらいやることが盛りだくさんでした。


――現在、就職活動中でもありますが、編集を実社会でどう活かそうと考えたりしますか?

小泉 夏に参加したインターンシップで、とにかく簡潔に答えなさい、効率的にやりなさいということを求められて、「うっ」となりました。「わたし、就職活動向いてない?」って(笑)。でも、そういう世界の中でも編集を使って、いつでもその考え方を動かせるという意志は忘れずに持っていたいです。

――利益を求めるために効率化する、生産性を上げるというのは、企業としては外せない目線ですね。でも、それだけでは語れない複雑で面倒なことが起こるし、矛盾もあるのが「仕事」、だから編集で面白くできるんですよね。

小泉 周りに伝播していけたら良いなって思います。


――師範代を目指す花伝所に入りましたが、決め手になったのは?

小泉 50守の時に「対話」について考えていました。対話は、相手があって成立するもの。「型」があることで対話やコミュニケーションがスムーズになるということをお稽古の中で実感しました。

――話している相手と自分の会話の前提が揃っているかどうかを確認したり、相手に説明する時に自分の考えをまとめたりするために「型」や「方法」を使うんですね。

小泉 でも、きっとまだ自分のアタマの中にあることの半分も伝えられていない。コミュニケーションの方法を極めるなら、やっぱり花伝所しかないなと。あとは、「守」「破」のお稽古で2人の師範代から指南を受けて、自分の書いたものをこんなふうに読んでもらえるのかという驚きがたくさんありました。その驚きを、自分も与える側になりたいと思いました。


――今度もどんな学びがあるか楽しみですね

小泉 すでに花伝式目と言われる花伝所での稽古は始まっていて、この講演会もあったので「わ~大変!」という感じだったんですが、“たくさんのわたし”をもう一人増やすつもりで、食らいついていきます。


このインタビューのあと行われた大澤真幸氏の講演会は、予定の2時間をオーバーし、最後の質疑応答では、参加者から活発に手があがる盛況のうちに終了した。当日は、運営メンバーの一人として、開会の挨拶に、パネルディスカッションにと、大勢の参加者の前に立ち、堂々と自分の意見を語った小泉さん。その姿は、今まで見た中で一番頼もしく、輝いて見えた。

講演会の中で大澤氏が語っていた、現在から見たありうる「未来」ではなく、カタストロフィ・破局を乗り越える<未来>に向かって、彼女は編集の道をさらに奥へと進んでいく。


文/森川絢子(51[破]師範)
写真/森本康裕(40花錬成師範)・森川絢子

 


  • イシス編集学校 [破]チーム

    編集学校の背骨である[破]を担う。イメージを具現化する「校長の仕事術」を伝えるべく、エディトリアルに語り、書き、描き、交わしあう学匠、番匠、評匠、師範、師範代のチーム。