推し活は型で加速する――猿川博美のISIS wave #19

2023/12/11(月)07:37
img CASTedit

イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。


組織・人材開発コンサルタントの猿川博美さん(大阪在住)は、バリバリと仕事をこなす傍ら、ライブ遠征という趣味を持っている。推し活の中で再発見したイシスの方法とは――。
イシス受講生がその先の編集的日常を語るエッセイシリーズの第19回。猿川さんのエッセイをお届けします。

 

■■インストールされた編集的方法

 

サカナクションの最新アルバム『懐かしい月は新しい月』。
このタイトルを見た時、「うーん、なんかイシスのお題でこんな感じのものがあったなぁ。型は何だったかなぁ」と、ふと思った。


私は、音楽ライブやフェスに行くことが趣味だ。推しのひとつがサカナクションで、CDやグッズも買う。CDは、音源を聴く前に、まずは外観を眺めるのが儀式になっている。見るだけでワクワク度が上がる。
月が美しく描かれたCDを手にして、タイトルを眺めたときに、イシス編集学校のことを思い出したのだ。


基本コース[守]の卒門(修了)から3年経過し、出されたお題や編集術である型は、すっかり忘れていた。けれど、頭に汗をかき、心が折れそうになりながらも必死で宿題(回答)を提出した日々は覚えている。その時の感覚から、ジワリと記憶が引き出された。
「『懐かしい月は新しい月』って、《やわらかいダイヤモンド》かな」
これは、まったく新しい組み合わせで今までにない言葉を作るお題だ。
対比かな?」
対比という型を意識せよと、師範代に指南された記憶が蘇る。


イシスで学んだ型やエッセンスは、はっきり記憶していなくても、実は体にインストールされているのかもしれない、と思う。
型がインストールされているおかげで、言葉に対して、少しだけ感度が上がった。そして、もう少し探求してみようと思えるようになった。


ということで、アルバムタイトルのコンセプトを調べてみた。本作は、昔の曲をリミックス・リアレンジした作品集で、月を感じられる曲が多い。楽曲を月に例え、「昔の曲(月)が新しい曲(月)になる」という作り手の想いが込められている。


彼らの第1弾アルバムは、2015年に発売された。今までは、タイトルはあまり気にしておらず、「ふーん、そうなんだー」と思うだけで、せっせと曲を聴くだけだった。耳で感じるだけだった。
ところが、[守]の編集稽古で「対比表現には物事の「らしさ」を強調する働きがあります」と学んだ私は、このタイトルにサカナクションの「らしさ」を感じ取り、どの型が使われているかを紐解こうとした。文字からも何かを感じ取ろうとした。
これって、アップデートかも!


普段はすっかり忘れているけれど、一度インストールされてしまったものは、何かをきっかけにして作動する。イシスでインストールされたものが作動すると、物事を豊かに捉えることができるのだ。感覚がアップデートされた私は、さらに音楽を楽しむようになり、推し活がますます加速されることになる。

▲サカナクションを含め「毎月3~8回ライブに行く」という猿川さん。彼らのグッズ、CD・DVDだけで50くらいあるというが(写真はその一部)、「他の推しのグッズも含めると数えきれません(笑)」。

 

インストールとは言いえて妙です。[守]の鈴木康代学匠はかつて、「編集稽古で学ぶ38の型は、松岡正剛校長の注意のカーソルをインストールすることだ」と言い切りました。稽古体験とは、松岡校長に倣い、情報の多様さに分け入って意味を見つける手立て(とその喜び)を身体で知ることなのです。とはいえ編集の型を知るだけではつまらない。使ってこそです。日常や仕事や切実を突破する編集があれば、数奇を深化させる編集がある。稽古体験と推し活を交差させて、編集的成長と推しへの愛を増大させる永久機関を作り出した猿川さんに、編集のひとつのあり方をみました。


文・写真/猿川博美(46[守]黄昏メビウス教室、46[破]王冠切れ字教室)
編集協力/中島紀美江
編集/吉居奈々、角山祥道

  • エディストチーム渦edist-uzu

    編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。

  • 『ケアと編集』×3× REVIEWS

    松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。 さて皆 […]

  • 寝ても覚めても仮説――北岡久乃のISIS wave #53

    コミュニケーションデザイン&コンサルティングを手がけるenkuu株式会社を2020年に立ち上げた北岡久乃さん。2024年秋、夫婦揃ってイシス編集学校の門を叩いた。北岡さんが編集稽古を経たあとに気づいたこととは? イシスの […]

  • 目に見えない物の向こうに――仲田恭平のISIS wave #52

    イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 仲田恭平さんはある日、松岡正剛のYouTube動画を目にする。その偶然からイシス編集学校に入門した仲田さんは、稽古を楽しむにつれ、や […]

  • 『知の編集工学』にいざなわれて――沖野和雄のISIS wave #51

    毎日の仕事は、「見方」と「アプローチ」次第で、いかようにも変わる。そこに内在する方法に気づいたのが、沖野和雄さんだ。イシス編集学校での学びが、沖野さんを大きく変えたのだ。 イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変 […]

  • 『NEXUS 情報の人類史 下』×3× REVIEWS

    松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、3人それぞれで読み解く「3× REVIEWS」。  歴 […]

コメント

1~3件/3件

堀江純一

2025-06-20

石川淳といえば、同姓同名のマンガ家に、いしかわじゅん、という人がいますが、彼にはちょっとした笑い話があります。
ある時、いしかわ氏の口座に心当たりのない振り込みがあった。しばらくして出版社から連絡が…。
「文学者の石川淳先生の原稿料を、間違えて、いしかわ先生のところに振り込んでしまいました!!」
振り込み返してくれと言われてその通りにしたそうですが、「間違えた先がオレだったからよかったけど、反対だったらどうしてたんだろうね」と笑い話にされてました。(マンガ家いしかわじゅんについては「マンガのスコア」吾妻ひでお回、安彦良和回などをご参照のこと)

ところで石川淳と聞くと、本格的な大文豪といった感じで、なんとなく近寄りがたい気がしませんか。しかし意外に洒脱な文体はリーダビリティが高く、物語の運びもエンタメ心にあふれています。「山桜」は幕切れも鮮やかな幻想譚。「鷹」は愛煙家必読のマジックリアリズム。「前身」は石川淳に意外なギャグセンスがあることを知らしめる抱腹絶倒の爆笑譚。是非ご一読を。

川邊透

2025-06-17

私たちを取り巻く世界、私たちが感じる世界を相対化し、ふんわふわな気持ちにさせてくれるエピソード、楽しく拝聴しました。

虫に因むお話がたくさん出てきましたね。
イモムシが蛹~蝶に変態する瀬戸際の心象とはどういうものなのか、確かに、気になってしようがありません。
チョウや蚊のように、指先で味を感じられるようになったとしたら、私たちのグルメ生活はいったいどんな衣替えをするのでしょう。

虫たちの「カラダセンサー」のあれこれが少しでも気になった方には、ロンドン大学教授(感覚・行動生態学)ラース・チットカ著『ハチは心をもっている』がオススメです。
(カモノハシが圧力場、電場のようなものを感じているというお話がありましたが、)身近なハチたちが、あのコンパクトな体の中に隠し持っている、電場、地場、偏光等々を感じ取るしくみについて、科学的検証の苦労話などにもニンマリしつつ、遠く深く知ることができます。
で、タイトルが示すように、読み進むうちに、ハチにまつわるトンデモ話は感覚ワールド界隈に留まらず、私たちの「心」を相対化し、「意識」を優しく包み込んで無重力宇宙に置き去りにしてしまいます。
ぜひ、めくるめく昆虫沼の一端を覗き見してみてください。

おかわり旬感本
(6)『ハチは心をもっている』ラース・チットカ(著)今西康子(訳)みすず書房 2025

大沼友紀

2025-06-17

●記事の最後にコメントをすることは、尾学かもしれない。
●尻尾を持ったボードゲームコンポーネント(用具)といえば「表か裏か(ヘッズ・アンド・テイルズ:Heads And Tails)」を賭けるコイン投げ。
●自然に落ちている木の葉や実など放って、表裏2面の出方を決める。コイン投げのルーツてあり、サイコロのルーツでもある。
●古代ローマ時代、表がポンペイウス大王の横顔、裏が船のコインを用いていたことから「船か頭か(navia aut caput)」と呼ばれていた。……これ、Heads And Sailsでもいい?
●サイコロと船の関係は日本にもある。江戸時代に海運のお守りとして、造成した船の帆柱の下に船玉――サイコロを納めていた。
●すこしでも顕冥になるよう、尾学まがいのコメント初公開(航海)とまいります。お見知りおきを。
写真引用:
https://en.wikipedia.org/wiki/Coin_flipping#/media/File:Pompey_by_Nasidius.jpg