【MEditLab×多読ジム】雑談が痛みをとり、命をつなぐ(松井路代)

2023/04/09(日)08:00
img

多読ジム出版社コラボ企画第四弾は、小倉加奈子析匠が主催するMEditLab(順天堂大学STEAM教育研究会)! お題のテーマは「お医者さんに読ませたい三冊」。MEdit Labが編集工学研究所とともに開発したSTEAM教材「おしゃべり病理医のMEdit Lab-医学にまつわるコトバ・カラダ・ココロワーク」で作成したブックリストから今回のコラボ企画のために厳選した30冊が課題本だ。読衆はここから1冊選び、独自に2冊を加えて三冊セットを作り、レコメンドエッセイ三冊屋(500〜600字)を書く。MEdit賞はいったい誰の手に?

 

 42歳にして多発転移がんを抱える哲学者は、主治医に「『急に具合が悪くなる』かもしれません」とホスピス探しを勧められる。同世代の人類学者とのおしゃべりや往復書簡は偶然性や負を語る方法の探究となる。「私」が運悪く病気になったのではなく、病気という偶然によって作られたのが「私」だということを見出し、生の側にとどまる気力を取り戻す。
 病や老い。変化していく体に人は戸惑い、焦る。美学者の伊藤亜紗が、手足の切断や認知症などの激烈な変化を体験した人に、体の「使い方」に焦点を当ててインタビューしたのが『記憶する体』である。12人の事例から、多様な身体のローカル・ルールを作るのは、蓄積された時間=記憶であることが浮かび上がる。痛みや欠損を対象化することが、新たな体の使い方の発明につながる。
 自閉症スペクトラム症をニューロダイバーシティという概念で捉えなおすのが『自閉症という知性』だ。こちらもインタビューという方法で、一見「ヘンで奇妙」な行動が、ユニークな感じ方と固有の記憶から編み出されたルールの束であることが見えてくる。
 語り手たちが「不便ではあるけれど不幸ではない」のは、会話する相手や方法、場を持っているから。そうでない人にとって医師は命綱になる。「先生、一緒に考えてくださいませんか」から始まる会話ができる余地、余白が、薬のきかない痛みを和らげること、知ってほしい。

 

Info


⊕アイキャッチ画像⊕
∈『記憶する体』伊藤亜紗/春秋社
∈『急に具合が悪くなる』宮野真生子・磯野真穂 著/晶文社
∈『自閉症という知性』池上英子/NHK出版新書

⊕多読ジムSeason13・冬⊕
∈選本テーマ:お医者さんに読ませたい三冊
∈スタジオ*スダジイ(大塚宏冊師)


  • 松井 路代

    編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。

  • 編集かあさん家の千夜千冊『ことば漬』

    編集かあさん家では、松岡正剛千夜千冊エディションの新刊を、大人と子どもで「読前読書」している。  再読    昨秋、子ども編集学校を企画・実践するメンバーと『松岡正剛の国語力 なぜ松岡の文章は試験によくでるのか […]

  • 編集かあさんvol.49 ゲッチョ先生

      「子どもにこそ編集を!」 イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。 子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩み […]

  • 編集かあさんvol.48 紅葉の京都、オノマトペでハイキング

    「子どもにこそ編集を!」 イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、 「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。 子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。 […]

  • 無人書店・奈良町ふうせんかずらに”スタジオらん”棚あります【新連載☆ニッチも冊師も】

    多読ジムの冊師によるリレーコラム「ニッチも冊師も」の連載がスタート! 多読ジムの冊師っていったいナニモノ? スジモノ? キレモノ? カブキモノ? 「らん」のまつみち、「みみっく」のハタモト、「美ジョン」のヨーコ、「ゆむか […]

  • 【Archive】編集かあさんコレクション「月日星々」2024/2/24更新

    「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る、編集かあさんシリーズ。 庭で、街で、部屋で、本棚の前で、 子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。 2024年2月24日更新 【Arch […]