巣の入口に集結して、何やら相談中のニホンミツバチたち。言葉はなくても、ダンスや触れ合いやそれに基づく現場探索の積み重ねによって、短時間で最良の意思決定に辿り着く。人間はどこで間違ってしまったのだろう。
編集の面白さは、「ありえない」と思っていたけれど、いざ実現してみると「あぁ、欲しかったのはこれ」と思えるようなハイパーな組み合わせや未知な重ね合わせにある。その編集を自ら体現する校長・松岡正剛は、「ぼくは大論文とコラムと俳句をほとんど同じように見ていて、それこそ、トップ歌手とラッパーも同じだし、三味線とトランペットも同じ目線で捉えている」と語っている。
その松岡をして「いよいよ、こういう人が出てきたのか」と驚嘆せしめた人物こそ、2024年3月19日のISIS FESTA SP「『情報の歴史21』を読む」第11弾のゲスト、片山杜秀氏である。片山氏の著書『ゴジラと日の丸』を読んだ松岡は、「視点の多様さ、関連付けの多彩さはすごかった。コラムの超名人が書いているように思った」と、片山氏との対談の中で、当時受けた鮮明な印象を言葉にしている。
では、片山氏は、古今東西歴史事象を一覧する世界同時年表『情報の歴史』をどのように読むのか。
「音楽」をテーマにした今回のイベントで、片山氏が開口一番に共有したのは、「音楽は単独ではなく、社会や政治や文化がセットで成り立っている」という見方だった。音楽を単体で見るのではなく、複数のカテゴリーとの「関係」や「間」に注目しているというのである。
「『情報の歴史』の見開きの中に全宇宙がある。情報の波に押し流される感じが体感できる」と片山氏には嬉々と語る。音楽や政治などに特化した年表にはない、「歴史のトータリティが視覚的に迫ってくる。圧倒的な文字の密度にあふれた密林を擬似体験するできる」と、情歴の面白さに触れた。
片山氏は見開きページに広がる複数のトラック間を縦断横断しながら回遊する中で、さまざまな関係を発見していく。
「1920年代をながめると、経済のトラックにはレコード会社設立、メディアのトラックにはラジオなどの放送媒体の誕生、音楽のトラックには、ポピュラー音楽の登場とある。なるほど、レコードやラジオなどのメディアによって新しい音楽の視聴方法が拡大し、大衆文化が変化したのか。しめしめ、これを切り口にライナーノートが書けるぞ」といった具合である。
こうした情歴からアフォードされた仮説や読みをきっかけに、執筆活動をすることが多々あるという。
イベントのおよそ90分の間、片山氏はトラックや歴象の「間」を時にページを超えながら高速かつ多様に駆け回りつづけていた。その姿は、真剣に本を「読む」というよりも、無邪気に知と「戯れる」という表現の方がふさわしだろう。
(アイキャッチ画像:後藤由加里)
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上杉公志
編集的先達:パウル・ヒンデミット。前衛音楽の作編曲家で、感門のBGMも手がける。誠実が服をきたような人柄でMr.Honestyと呼ばれる。イシスを代表する細マッチョでトライアスロン出場を目指す。エディスト編集部メンバー。
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