世界はアルゴリズムに最適化され、人間の選択がかつてないほど自動化されている。ニュース、ショッピング、音楽、映像、知識……すべてがデータの波に乗せられ、最適なタイミングで「推奨」される。テクノロジーは効率的だ。選択の手間を省き、個人の好みに最適化された環境を提供する。だが、それは本当に選んでいると言えるのだろうか。
情報の洪水の中で、私たちはいつの間にか「編集する力」を失いつつある。受動的に提示された情報を消費し、アルゴリズムのガイドに従い、流されるままに選ぶ。自ら問いを立て、意味を発見し、知を編み直す力——かつて人間の本質的な営みだったはずの「編集」は、いまや機械に奪われようとしている。
■OUTLYING──周縁からの視点、不可視のネットワークへ
OUTLYING──周縁に立つこと、メインストリームから距離を取り、異端の地点から世界を見つめること。そこには、既存の枠組みを超えて、新しい文化の可能性を開く視点がある。文化はいつも周縁から生まれてきた。ヒッピー・ムーブメント、アヴァンギャルド・アート、パンク、サイバーパンク、テクノリバタリアニズム……いずれも主流の外側から社会の構造を揺さぶり、新たな地平を切り拓いてきた。
マーシャル・マクルーハンは、メディアの変化が知覚と社会構造を根本から変えることを見抜いた。「メディアがメッセージである」 という言葉は、単なる情報伝達手段ではなく、メディア自体が文化のフレームワークを形成することを示している。生成AIが普及する現在、AIによる自動編集が新たなメディアとして機能し、私たちの思考や認識の枠組みに影響を及ぼしつつある。
しかし、情報のネットワークの中には、「見えない構造」がある。マクルーハンが言及した「メディアの環境」は、テクノロジーの表層だけではない。むしろ、不可視のネットワーク、隠された文脈、オカルティズム的な要素が、現代の情報環境を形づくる要因となっている。
古代から続く「秘教的な知識体系」は、オカルティズム、エゾテリズム、神秘主義の形で知の周縁に息づいてきた。情報技術の発展は、こうした不可視のネットワークを新たな形で可視化するかに見える。しかし、それは本当に情報を裸にしたのだろうか? あるいは、情報が剥き出しになったように見えても、私たちは新たな『秘教』のヴェールの内側に誘い込まれているのではないか。
■オカルティズムとしての「編集」──不可視のパターンを読む力
アリストテレスのテトラッド(四分法)を適用するなら、生成AIというメディアは以下のように整理できる。
1. 強調(Enhancement)
• 生成AIは、知識の蓄積と再構成を加速させ、情報の生成能力を人間の能力を超えて拡張する。
2. 反転(Reversal)
• しかし、その過剰な自動化は、オリジナリティや批評性を喪失させ、思考の停滞を招く。
3. 回復(Retrieval)
• 一方で、古典的な編集技術や「隠された知識」(オカルティズム、秘教的知識、象徴体系)の価値を再評価する動きが生まれる。
4. 衰退(Obsolescence)
• その結果、従来の「線的な情報の流れ」は崩壊し、知識体系が断片化する。
オカルティズムとは、「見えないパターンを読み解く技術」 であり、編集行為と密接に結びついている。古代の錬金術、数秘術、カバラ、タロットといったシステムは、無秩序に見える情報の中から意味のあるパターンを見出し、新たな知の体系を創り上げる試みだった。これは、現代の「データマイニング」や「アルゴリズム解析」と奇妙な符合を見せる。
AIが計算可能な情報のパターンを組み替える一方で、人間の編集者は「意味を持つ情報の流れ」を作り出す。その点において、編集者は「現代の錬金術師」なのかもしれない。
■OUTLYING CLUBの試み──「編集」を再定義するためのmagazine制作
今回、OUTLYING CLUBでは、ひとつのmagazineの制作に挑戦する。これは、生成AI時代における「メディアの再編集」の試みである。マクルーハンが言うように、メディアは単なる情報伝達手段ではなく、「文化の枠組み」そのものを作るものだ。このmagazineでは、AIの自動生成を超えた「編集の実験」を行う。
このmagazineは、単なる情報の寄せ集めではない。
• AIによる「統計的な最適解」を超えた、人間による編集の実践
• 可視の情報と不可視の情報の交差──データ、アルゴリズム、象徴、神話の融合
• テクノロジーとオカルティズムの接続──情報の「見えざる構造」を探る
情報の洪水の中で、私たちは何を取り入れ、何を排除し、どのような視点で世界を捉え直すのか。その問いを形にするのが、このmagazineだ。
現代の情報環境は、オカルティズム的な要素を帯びている。アルゴリズムは、まるで「現代の魔術」のように、不可視のパターンを解析し、人間の行動を予測する。マクルーハンが指摘したように、メディア環境は単なる情報伝達の手段ではなく、文化の基盤を形づくる「見えざる力場」でもある。このmagazineは、その不可視の構造を解読し、再構成する試みとなる。
異端であれ。流れに抗え。編集を取り戻せ。
OUTLYING CLUB は、思考の自由のための実験場である。
応答せよ、同志たち。われわれは、はぐれ者で行く。
多読アレゴリア2025春「OUTLYING CLUB」
【定員】20名
【申込】https://shop.eel.co.jp/products/tadoku_allegoria_2025haru
【開講期間】2025年3月3日(月)~2025年5月25日(日)
【申込締切】2025年2月24日(月)
【受講資格】どなたでも受講できます
【受講費】月額11,000円(税込)
※ クレジット払いのみ
※ 初月度分のみ購入時決済
以後毎月26日に翌月受講料を自動課金
例)2025春申し込みの場合
購入時に2025年3月分を決済
2025年3月26日に2025年4月分、以後継続
・2クラブ目以降は、半額でお申し込みいただけます。
・1クラブ申し込みされた方にはクーポンが発行されますので、
そちらをご利用の上、2クラブ目以降をお申し込みください。
【お問合せ】allegoria@eel.co.jpまでご連絡ください
【2025春 多読アレゴリアWEEK】
▼着物コンパ倶楽部
▼MEditLab for ISIS
▼勝手にアカデミア
はとさぶ連衆は鎌倉に集い俳句を詠みつつアカデミア構想に巻き込まれるの巻
▼軽井沢別想フロンティア倶楽部
▼大河ばっか!
▼よみかき探Qクラブ
▼身体多面体茶論
▼終活読書★四門堂
▼OUTLYING CLUB
OUTLYINGの精神──生成AI時代の編集と思考の自由
小野泰秀
編集的先達:ゲーリー・スナイダー。ファッション、工芸、音楽、映画、写真、マンガと幅広い慧眼をもつジュエリーデザイナーにして骨董商。所持金80ドルでオーストラリアに上陸し、生活を始めた行動力の持ち主。ブレない自分軸を立てつつ、ただいま編集力探究に邁進中。
全体主義に抗うための問いを持て■武邑光裕を知る・読む・考える(3)
2024年1月21日、メディア美学者・武邑光裕氏による52[守]特別講義が迫ってきた。昨年、三夜にわたって開催された「10周年記念 武邑塾2023×DOMMUNE」の記憶はまだ新しい。時代、テクノロジーの先端を走り続ける […]
それはなんの前触れもなく突如始まった。 「指南にも、自己紹介にも、師範の言葉にも行かず、お前はなぜここにきたんだというお言葉を真摯に受け止めながら、アレをお届けに参りました」 という勧学会での師範代 内村放の勿体ぶるよう […]