巣の入口に集結して、何やら相談中のニホンミツバチたち。言葉はなくても、ダンスや触れ合いやそれに基づく現場探索の積み重ねによって、短時間で最良の意思決定に辿り着く。人間はどこで間違ってしまったのだろう。
この表題は、もうじき刊行される本の題名です。この本には、25名もの「もと学衆さん」や師範代経験者たちが登場します。それだけの人たちに協力していただいてできた本です。もちろん、イシス編集学校のスタッフたちにも読んでもらい、表現を検討してもらいました。
松岡正剛校長の『インタースコア』は、数え切れないほど多くの人たちが関わってできた本でしたね。それほどではありませんが、やはり稽古を経験したかたでないと表現できないことが多々あり、私という著者を超えた領域を本の中に呼び込むことで、完成しました。つまり、この本そのものが一つの「場」です。そしてこの「場」が、さらに多くの学衆さんたちが集まり、わいわいと語り合う場になってほしい、という願いを込めました。
先日第44回入伝式があり、新たな花伝所が始まりました。この花伝所が終わると、また新たな師範代が生まれます。師範代はまた学衆たちと稽古の時間を過ごし、その学衆たちがまた師範代になります。この循環が皆に同じような経験をもたらすかといえば、それは違います。稽古はいわゆる学校教育や学習とは異なり、それぞれの身体(年齢や経験や脳など全てを含めたもの)がそれぞれに受け止め、異なる能力が拓かれ、活かされるからです。私は25人の経験者たちの経験を通して、その多様性に驚きました。
学衆として稽古をして仕事の現場に戻り、そこで稽古を活かす人もいれば、師範代を経験してさらに見事な編集能力を発揮する人もいます。医師、看護師、商社マン、音楽家、学生、編集者、経営者、教師等々、稽古の経験者は、さまざまな仕事に散らばっています。稽古とはどのような経験で、身についた編集能力がどう職場で発揮できたのか、この本から発見することができます。
しかし、それでもごく一部に過ぎません。私自身の経験も書きましたが、それも私個人の経験に過ぎません。そこで、本を通して自分自身はどうだったか、思い起こしてください。さらにその経験を言葉にしてください。稽古の間は「振り返り」を書きましたが、振り返りの繰り返しは、新たな経験をもたらします。
まだ刊行されていないので、予告はここまでにしますね。刊行後もう一度、いくらか皆さんの感想を伺って、また学長通信に書きます。本についての、あるいはそれぞれの稽古経験についての対話や座談を、学長通信でするのも良いかも知れません。次々とインスパイアされながら、イシス編集学校と編集工学研究所という場が、絶えず書籍を刊行している活気あふれる場になることを目指そうと思います。
田中優子の学長通信
No.12 『不確かな時代の「編集稽古」入門』予告(2025/11/01)
No.11 読むことと書くこと(2025/10/01)
No.10 指南を終えて(2025/09/01)
No.09 松岡正剛校長の一周忌に寄せて(2025/08/12)
No.08 稽古とは(2025/08/01)
No.07 問→感→応→答→返・その2(2025/07/01)
No.06 問→感→応→答→返・その1(2025/06/01)
No.05 「編集」をもっと外へ(2025/05/01)
No.04 相互編集の必要性(2025/04/01)
No.03 イシス編集学校の活気(2025/03/01)
No.02 花伝敢談儀と新たな出発(2025/02/01)
No.01 新年のご挨拶(2025/01/01)
アイキャッチデザイン:穂積晴明
写真:後藤由加里
田中優子
イシス編集学校学長
法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。『江戸の想像力』(ちくま文庫)、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)、松岡正剛との共著『日本問答』『江戸問答』など著書多数。2024年秋『昭和問答』が刊行予定。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離][ISIS花伝所]を修了。 [AIDA]ボードメンバー。2024年からISIS co-missionに就任。
先月は『不確かな時代の「編集稽古」入門』の刊行予告をしました。無事刊行されました。刊行後にもっと詳しく書く、と約束したのですが、その前にぜひ書いておきたい出来事が起こってしまったので、今月はそちらです。 […]
今年の8月2日、調布の桐朋小学校の校舎で「全国作文教育研究大会」のための講演をおこないました。イシス編集学校のパンフレットも配布し、当日はスタッフも来てくれました。 演題は「書くこと読むことの自由を妨げ […]
[守][破][離][花伝所]を終え、その間に[風韻講座]や[多読ジム]や[物語講座]を経験しながら、この春夏はついに、師範代になりました。 指南とは何か、指導や教育や添削とどこが違うかは、[花伝所]で身 […]
【田中優子の学長通信】No.09 松岡正剛校長の一周忌に寄せて
8月12日の一周忌が、もうやってきました。 ついこの間まで、ブビンガ製長机の一番奥に座っていらした。その定位置に、まだまなざしが動いてしまいます。書斎にも、空気が濃厚に残っています。本楼の入り口にしつらえられた壇でお […]
イシス編集学校「多読アレゴリア」で私が宗風をつとめる「EDO風狂連」は、時々外に出て遊山をしたり、催し物を仕掛けたりと、普段と違うことをおこないます。それを「遊山表象」と呼んでいます。7月20日、夏の遊山表象「江戸の音 […]
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2025-12-16
巣の入口に集結して、何やら相談中のニホンミツバチたち。言葉はなくても、ダンスや触れ合いやそれに基づく現場探索の積み重ねによって、短時間で最良の意思決定に辿り着く。人間はどこで間違ってしまったのだろう。
2025-12-10
マンガにおける短詩系文学といえば四コママンガということになるだろう。四コママンガに革命をもたらした最重要人物の一人である相原コージは、そのものズバリ『漫歌』をものした。
2025-12-09
地底国冒険譚の主人公を演じ切った幼虫と灼熱の夏空に飛び立った成虫、その両方の面影を宿すアブラゼミの空蝉。精巧なエンプティボックスに見入っていたら、前脚にテングダニの仲間が付着しているのに気づきました。