「子どもにこそ編集を!」
イシス編集学校の宿願をともにする編集かあさん(たまにとうさん)たちが、
「編集×子ども」「編集×子育て」を我が子を間近にした視点から語る。
子ども編集ワークの蔵出しから、子育てお悩みQ&Aまで。
子供たちの遊びを、海よりも広い心で受け止める方法の奮闘記。
年に一度の味噌開け
年内にやってしまいたい仕事の一つが味噌開けである。
春先に前に仕込んだ味噌を開封して、容器にうつし、冷蔵庫に入れる。経験上これ以上常温に置いておくと発酵が進みすぎてしまう。一年に一度のこと、長男(13)、長女(8)を呼ぶ。
長男が右手にカメラをかまえ、左手でふたを開ける。
「あれ?」ふちにぐるりと白っぽいふさふさしたものが見えた。例年どおりなら、塩蓋(重し代わりの白い塩袋)が全体を覆っているはずだ。ところが、蓋がずれて味噌が一部露出している。はじめてのビジュアルだった。
長男がぱっともう一度蓋をした。顔を見合わせる。
「カビ?」
「失敗?」
「ぜんぶ捨てないといけないの?」
長女が立ち上がって悲しい予想をつぎつぎに口にする。長男は「うーん」とうなりながら、今のなんやろうと首をひねる。その頬は心なしかゆるんでいる。
胞子が散らばらないように、今度はそっと開けてみた。
こんなの初めて
ぜんぶ捨てるのは早いような気がする。あやしい部分をとってしまえば下はいつも通りの味噌かもしれない。ビニール手袋とおたまを持ってきて腕まくりしていると、長女が意外にも「わたし、やりたい」と言い出した。長男は「えっ」。このイレギュラーな状態で妹に任せるの嫌だなという雰囲気を出したが、編集かあさん家ではやりたいと言ったもの勝ちである。
まずアルコールを含ませたキッチンタオルで樽の側面の黒い点々をふきとった。塩蓋をそっと持ち上げて取り出した。きちんと蓋で覆われていたところはカビっぽいものはほとんど出ていない。
「やっぱり、空気に触れてたところがあかんかったんや」。
長女が息をとめ、おたまで表面の味噌を削りはじめる。
腐敗か発酵か
「できた!」ぜんぶすくい終えると、いつもの味噌樽のようすになった。
長女からおたまをうけとってタッパーに移しながら考える。なぜ2キロもある塩蓋が中でずれたんだろう。
茹でた大豆をつぶして、塩と米麹をまぜあわせて、手のひら大の味噌玉ににぎり、できるだけ空気を抜いて樽につめ、塩蓋をする。すると晩秋には味噌になっている。その間は一度も開けず、動かすこともほとんどない。
小さい樽で仕込んだ時に、縁から味噌液がもれだしたことがあった。どうも夏頃に中ではかなり激しい反応が起こっているらしい。
長男もそれを思い出して、撮ったばかりの写真を見ながら「このへんにたまりみたいなものがある。下から噴出してボコッとなったのかな」といろいろ仮説っぽいことを話す。
「縁に模様ができてるのみると、ここまで液体が上がったみたい」
「この夏ってそんなに暑かったかな」
“ちょっと異常”だったことがきっかけで、急にいろいろ振り返りが起こる。
ぜんぶ移し終えて量りにのせてみるとおよそ4.3キロあった。
一さじすくって口に入れる。ヘンな味はしない。冷蔵庫にある買った味噌と比べてみると、いくぶん塩気が少なくまろやかに感じた。
味は大丈夫っぽいよと言ったが、長男はあとにすると用心深い。長女にスプーンを渡すと迷いなく食べ「おいしいと思う」といった。
腐敗じゃなくて発酵だったようだ。
冷蔵庫に入れても少しずつ味が変わってしまうので、どんどん食べないといけない。翌日さっそく味噌汁にした。
「あ、つぶし残してる豆があった」。食べながらさらに振り返る。
検索してみると、あのふさふさしたものは麹菌のコロニーに似ていたらしい。
味噌は謎床
「どうしてうちでは味噌をつくるの」
長女に聞かれたことがある。
長男が6歳ぐらいのときに、急に思い立って作ってみた。翌年、長男に聞いてみると「また作る」といった。途中から長女が加わった。今は、つぶす、まぜる、つめるといった作業そのものはほとんど二人まかせである。
「暖冬だったからこんなに生えたのかな」
「もっと早く開けるほうがいいんだろうか」
長男にとっては、中で何が起こっているかわからない、謎を生むもの<謎床>が部屋の隅っこにいつもある。それがいいらしい。
『もやしもん』
石川雅之、講談社
マンガが苦手な長男も内容にひかれて読みきった、某農大を舞台にした発酵をめぐる青春ドタバタコメディ。
松井 路代
編集的先達:中島敦。2007年生の長男と独自のホームエデュケーション。オペラ好きの夫、小学生の娘と奈良在住の主婦。離では典離、物語講座では冠綴賞というイシスの二冠王。野望は子ども編集学校と小説家デビュー。
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