紫~ゆかり~への道◆『光る君へ』を垣間見る 其ノ二

2024/06/07(金)19:00
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事実は一つ。であっても、それに対する解釈は無数に。「なぜ」と「どうやって」は見る人の数だけあるのでしょう。大河ドラマもまた、ある時代・ある人物に対する一つの解釈です。他の解釈を知れば、より深く楽しめるに違いない。
…と、固く書きましたが、為時さんの鍼灸治療のシーンには笑いを禁じえなかった53[守]師範・相部礼子とともに、楽しく深みにはまりませんか。先週に続き、其ノ二をお届けします。

 



◎第22回「越前の出会い」(6/2放送)

 

越前に到着した為時とまひろ(後の紫式部)が訪れたのが敦賀にある松原客館。為時パパが帯びた使命は、ここに滞在する宋人達に穏やかに帰国してもらうこと(前回の復習ですね)。漢文を操る為時だからこそ遣わされた越前ですが、なかなかどうして、漢文のみならず中国語を操っています。宋人達の喧嘩を仲裁したり、歓迎の宴で漢詩を中国語で披露したり。第一回から、これまでで最もいきいきとして楽しそうな為時だったように思います。やはり学問の世界にいる方が肌にあっているのでしょう。

 

ということは、…政治の世界は性に合わないということでもあり。越前介、つまり地元の官僚トップに「地元のことに口を出すな、そうすれば金持ちにして都に帰してやる」とばかりに渡された賄賂を突き返してしまい、以後、あからさまに嫌がらせを受ける。ドラマの中では、国守様への訴えに行列をなす人々がコミカルに描かれ、果ては過労で倒れた為時が鍼灸でよくなる、なんていうシーンも出てきました。

 

今回ご紹介する杉本苑子『散華』には、都から下った官僚たちのことをこのように書いています。

(出先官庁の国衙(こくが)で、地方官たちの手でのみ実際には運営されているのだ)
そう言っても、けっしてまちがいではなかった。
中央の政府は、全国の国司が集めた貢税をただ吸い上げる機関にすぎず、各省の役人は、皇室とその縁戚である貴族たちの私生活に奉仕するのが、仕事の大部分だった。


都と地方の分断、そして殿上人たる都人と地元民とのインターフェースとなった国司の苦労が偲ばれます。今回のタイトル、「越前の出会い」は、まひろにとっては宋人との出会いだったわけですが、おそらく、都とは違う地方の現実との出会いでもあったのでしょう。

為時の無事を祈りつつ、今回ご紹介したいのがこちら。紫式部は越前でどんな暮らしを送っていたのだろうと、大河ドラマを先取りしたい方へ。

◆『散華』杉本苑子(上)(下)/中公文庫◆


紫式部というと「源氏物語を書いた」「中宮・彰子に仕え、その初産の模様を『紫式部日記』にしたためた」、ということは知っていても、どのような一生だったのかは意外と知られていない(だからこそ、今回の大河ドラマも成り立っているわけだが)。この大部の小説で、紫式部が出仕をするのは後半1/4。となると、著者がいかに丹念に紫式部の前半生を描いたか、想像がつくだろう。
父・為時の妹、つまりは紫式部(こちらでの幼名は小市)の叔母にあたる周防という女性に語り手の視点を持たせることで、幼い小市が客観的に描かれ、同時に小市が幼い時分の社会の模様を大人の目で綴ることに成功している。小市を取り巻く親族達(大河では父と弟だけしか出てこないが、若くして亡くなったと言われる姉に加え、伯父夫婦、従兄や祖父までも)、友人となる和泉式部、もちろん道長や彰子、一条帝など、紫式部の生涯を彩る多くの人物が登場するこの小説は、また別の世界の大河ドラマなのだ。
そして「光る君へ」の前半に話題をさらった、散楽師にして実は義賊という、毎熊克哉演じる直秀にはまった人ならば特に楽しめるに違いない。なぜなら、直秀のモデルといわれる袴垂の保輔が重要な役割を果たしているのだから。

 

  • 相部礼子

    編集的先達:塩野七生。物語師範、錬成師範、共読ナビゲーターとロールを連ね、趣味は仲間と連句のスーパーエディター。いつか十二単を着せたい風情の師範。日常は朝のベッドメイキングと本棚整理。野望は杉村楚人冠の伝記出版。

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