道ばた咲く小さな花に歩み寄り、顔を近づけてじっくり観察すると、そこにはたいてい、もっと小さな命がきらめいている。この真っ赤な小粒ちゃんたちは、カベアナタカラダニ。花粉を食べて暮らす平和なヴィランです。
〝イシス編集学校と社会をつなげる〟を合言葉に2023年3月に始まった、イシス受講生によるエッセイ「ISIS wave」。今年10月に60回を超え、ついに遊刊エディストの最多連載に踊り出ました(30-60のアーカイブはこちら)。
60回突破を記念して、遊刊エディストの編集軍団「チーム渦」の新規加入組3人+古参1名で「編集」と「ISIS wave」、「書く意味」について語り合いました。その模様をお届けします。
●座談会参加者
○角山祥道(44[花]錬成師範)
[守]師範代登板と同時にエディストで連載を始めた、遊刊エディストの申し子。チーム渦を立ち上げ、日々編集に励む。
○大濱朋子(44[花]花伝師範)
2024年8月に加入。石垣島のトポスと編集を接続する「石垣の隙間から」を連載中。二児の母でもある。
○長谷川絵里香(54[守]師範代)
2025年3月の感門之盟で立候補。その後、エッセイ執筆を経て加入。複数の新企画を手に、軽井沢から新鮮な風を吹き込む。
○田中志穂(55[守]師範代)
今秋、55[守]師範代を終えたばかり。「表舞台の奮闘を伝えたい」と今年10月に加入。渦記者として各イベントに出没予定。
■謎のエディスト軍団「チーム渦」
角山:最初に、謎の集団「チーム渦」について、触れておきましょう。チーム渦は、2023年の春に立ち上がった、遊刊エディスト初の編集チームです。
大濱:私がチーム渦に加わったのは、1年ちょっと前の夏、16[離]を終えるタイミングです。「何か書き続けなければ」という思いがあって、私が師範代の時の師範だった角山さんに相談したんです。「石垣の狭間から◆52[守]師範代登板記」を角山さんから書くように勧められた、という経緯もあって。そしたら「じゃあウチに入る?」と軽い感じで誘われて、次の日にはメンバーになっていました。
角山:まだ1年ですか。このラウンジでの発言数はすでに360を超えていますね。
大濱:この1年、驚くほど濃かった……。
角山:長谷川さんは立候補してくれたんでしたね。
長谷川:ヒィヒィ言いながら54[守]師範代を終えたのですが、このまま編集から離れずにいたい、と思って、3月の感門之盟が終わった後に、思い切って角山さんに声を掛けたんです。「面白そうだな」と思いながらチーム渦の記事を読んでいましたので。
田中:私も同じです。「裏方として、表舞台の奮闘を伝えていきたい」と思っていたところで、9月の感門之盟で角山さんと話をして、チーム渦に入りました。
角山:こうやって「ライター兼エディター」が増えていくのが嬉しいですね。チーム渦には、書き手を増やすというだけでなく、「ディレクションできる人間を増やす」というターゲットがあるんです。
大濱:チーム渦の特徴は、相互ディレクションですよね。所属メンバー全員が、ひとつの記事に対しディレクターになる。相互ディレクションを浴びることで、自分のディレクション力があがったという実感があります。
■「書き手」としてのISIS wave
角山:「ISIS wave」を執筆してもらう人には、実は2つだけ縛りを設けています。「卒門」(基本コース[守]の修了)と「遊刊エディストに未執筆」の2つです。で、この条件に適した長谷川さん、田中さんのお二人には、チーム渦加入前に「ISIS wave」を手がけてもらいました。実際に書いてみてどうでしたか?
長谷川:何度もやりとりをして仕上げていったのですが、ディレクションを受けてみて「指南と違う」と思いました。指南は受容が基本なので、まず受け止めてもらえるのですが、ディレクションは最初からズバっと斬られるというか。必要ない箇所はバッサリ落とす、というはっきりした指示で、私はすごく心地好かった。
角山:「ISIS wave」は外部にも開かれたエッセイですので、「読み手にとってどうか」がディレクションの基準になります。だから時には大幅に削除したり、構成をガラッと変えてもらうことも……。
大濱:指南とディレクションの差分というか、案配は難しいですね。指南は、エディティング・モデルの交換が基本なので、回答の背景に潜むモノを類推します。だから「書かれていないこと」も読み取ってしまう。「ISIS wave」は「書き手を知らない読み手」に向けて発するので、どう伝えるかが、大事になってきます。
田中:未受講生に対してどう伝えるか、は意識しました。仕事のことを書こうとすると主題に引っ張られてしまう。主題の説明をほどほどにしつつ、編集的に伝えるという案配が決まらず、迷いながら初稿を出したら、すぐに「具体性に欠ける」というディレクションが戻ってきて……。で、一歩踏み込み、具体を入れて肉付けしました。どのシーンを切り取るか、というのも重要で、例えば長谷川さんは娘さんの卒業式を切り出していましたけど、ああいう一場面から編集と自分を語るって素敵な方法だと思いました。
大濱:伊藤舞さんのサクランボ事件、辻志穂さんのけん玉大会、染矢真帆さんの単行本編集、佐藤雅子さんの「大學百合祭り」……。ISIS wave31~60回の中には、シーンに焦点をあわせた素敵なエッセイも多くありましたね。
■それぞれのモードが渦巻く
角山:他の作品はどうです? 「ISIS wave」の31~60回、30回分のアーカイブを見ながら、「これは!」という作品に光を当てていきましょう。
田中:沖野和雄さんや浅沼正治さん、仲田恭平さんの仕事と編集を結びつける方法に感心しました。特に沖野さんのエッセイ、「渦のひと言」の《組織に「専門性」が蔓延ると、事業も制度も人も固定化されやすくなります》という一文にも頷きました。
角山:この「渦のひと言」は柳瀬さんによるものです。エッセイの終わりに編集的コメントを添える、というのは、「ISIS wave」の特徴にもなっています。羽根田さんなんて、これを書くために染矢さんの編集した本を入手して挑んでますからね。
田中:アラスカでキャンプをした経験があるからかもしれませんが、中島たかしさんのアラスカ体験も、身体が感じる風や湿度といったものを言葉にして手渡していて、素敵なモードでした。《やわらかいダイヤモンド》を「言葉はもっと自由でいい、もっと矛盾に満ちていていい」と言いかえる視点も良かった。
長谷川:自分が好きなジャンルを書いているエッセイには、「どう表現しているんだろう?」と気になります。哲学(菅野隼人さん)もオペラ(小松原一樹さん)もカメラ(吉田紗羽さん)もアート(石田利枝子さん)も、こんなふうに感覚や思考と編集とを結びつけて深めることができるんだと、私にとっても発見でした。
田中:小松原さんのオペラと、雪国暮らしの新井さんは、ともにそれまでの無関心、苦手を、編集的にとらえなおし、面白がる視点に転換したところが好きです。妹尾高嗣さんのエッセイも夫婦ものでしたが、差し迫った状況を編集的に創文してしまう妹尾さんの気概に涙が出そうになりました。
大濱:私が担当したエッセイです。妹尾さんと会ったときに、とてもイキイキとした表情をしていたのでエッセイをお願いしていたのですが、まさかあんなドラマがあったとは。「切実さ」こそ編集のエンジンなんだと教えられました。奥様が撮影した写真もいいんですよね、ご本人の。
■自選・他薦・ナンパ?
角山:私は角田梨菜さんの通勤話が好きだなあ。これは吉居奈々さんがディレクションしてくれたエッセイですが、通勤というありふれた日常が、「型」によってキラキラし始めるんです。キラキラと言えば、私、目がキラキラしているという理由だけで、口説いているんですよ。
大濱:え、どういうこと?
角山:例えば北岡久乃さん。[守]を終えたばかりのアフ感で一緒になって、目が合ったんです。もう瞳がキラキラしていて。「目が合ったのは何かの縁ですね。遊刊エディストに記事を書きませんか?」と誘っていました。[破]の汁講にお邪魔したときに誘ったのが、辻志穂さんです。やっぱり目がキラキラしていて。「書きたい!」という感情が漏れ出しているというか。加藤万季さんは[守]学衆の頃から稽古のキラキラ振りに注目していて、タイミングを見計らって声を掛けました。
大濱:「書き手を募る」ということでは、自薦他薦用の投稿フォームを作ったのもトピックでした。長谷川さんに作っていただいたんですよね。
角山:北條玲子師範からは随分、推薦していただきました。土田実季さんや松田秀作さんなどは北條師範の推薦です。他にも登田信枝師範代や石黒弘晃師範代、阿曽祐子番匠などからの推薦で、新たな書き手が生まれました。
長谷川:佐藤龍太さんや尾崎公洋さんなど、卒門したばかりの方も、随分書いていますよね。
田中:[守]を終えれば、これだけ書けるようになる、というのは、エッセイを全部読んでの驚きでした。
大濱:かと思うと、レジェンド級の村井宏志師範がいたり。板垣美玲さんや木島智子さんのように、師範代登板前の決意表明として書いてくれた方もいましたね。
角山:現在進行形の方も、過去期の方も、「エッセイ」というフレームを使って、ご自身の編集の方法をぜひ、言葉にしていただきたいですね。
◎アーカイブ 【Archive】ISIS wave コレクション #31-60
編集・構成/角山祥道
◎自薦・他薦・勝手な推挙を問わず、チーム渦は、「日常における編集工学」をテーマにしたエッセイ、「ISIS wave」の書き手を常時募集しています(※ただし、イシス編集学校の[守]の修了生に限ります)。こちらのフォームから推薦 or 申し込みをどうぞ。
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
【Archive】ISIS wave コレクション #31-60
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コメント
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(※大ヒットした「孤独のグルメ」の原作者は「泉昌之」コンビの一人、久住昌之)