53破は今、折り返し地点に差し掛かろうとしている。別院では知文AT賞の入賞結果が発表され、教室ではクロニクル編集術が山場を迎えている。そんな時期に師範代の研鑽会である「破天講」が行われた。破天講は物語編集術とプランニング編集術のお題を研究し、指南に生かすための勉強会である。これまでは「伝習座」の名で、本楼に全員が集合し1日で開催されてきた。今期より「破天講」として新たなしつらえで行う。11月中ばのある日十人の師範代が集ったのは、特別に用意された破天講専用ラウンジだ。モドキ座、ミタテ座、ジユウ座の三座体制は、いつものチームを一新、まぜまぜされた破天講かぎりのチームである。それぞれの座の中で、物語とプランニングのお題について六日間集中して交わし合う。ターゲットは「気づきを指南の言葉に変える」だ。
互いに初顔合わせの戸惑いのなか、座付き師範から最初のお題が出題された。
◆翻案とはどういうミメーシスか?(物語編集術)
<翻案とはどういうミメーシスか?「焼き直し」の回答にどう指南をするかを念頭に考察しなさい>
師範代たちは一斉に「翻案」と「焼き直し」のコンパイルを始め、同時にエディットを重ねていく。
焼き直しは、「プロトタイプ」「ステレオタイプ」で一番目立つ情報を取り出している、ということと言えるかもしれません。
→構造の要素だけを取り出し「関係」や「意味」は見えていない。(笹本直人師範代)
「観念=イデアが模倣されていく」。これが翻案の「地」となるものかと感じました。(新井隆子師範代)
「思想をつぐ翻案・手段をまねる焼き直し」でしょうか。
モード知文術で、作家のメガネを借りるところに類似しているようにもみてとりました。(大澤実紀師範代)
映像に描かれている主人公の行動ではなく、その行動の「意味するところ」をしっかり言語化、分節化する。(土田実季師範代)
青井師範代は、なぜワールドモデルを設定する際にモノの読み替えを行うのか、という問いから「翻案」に切り込んだ。大きなお題については、扱いやすいサイズに分節化したQを立てて、Eする。まさに「わけるとわかる」の実践である。
ここであえて「世の中のモノ」を挙げさせることで、単純な要素の置き直しに終わる危険性を減らし、<意味するもの>にまで注意を向けさせようとする意図があるのではないでしょうか。(青井隼人師範代)
◆ハイパーの探究(プランニング編集術)
ハイパーミュージアムのプランニングにおいて、学衆の最初のつまずきとなるのが「ハイパー」の意味である。ハイパーをどのように学衆に手渡したらよいのか。師範代たちは松岡校長の見方を借りることとした。校長室方庵、千夜千冊、校長の書籍等を渉猟する。内村師範代は『雑品屋セイゴオ』からハイパーの具体例として「石鹸」に注目した。
石鹸ではなく、石鹸的実存という述語的に石鹸を用いているのが非常に面白いです。そこから地質年代から日本の作家までをつなげて具体をだすことで、石鹸的実存がもつワールドモデルというのを「果敢な生活に向かって消滅を目指している」と言い切る。(内村放師範代)
こうして破天講ではハイパーなるもの、ハイパーミュージアムにするためのEが次々と重ねられた。
ハイパーリンクのすごいところは、情報が次々につながるところ。ハイパーミュージアムもそうだと思っていて、1つの情報から情報がつながる、連想がつながることが必要なのかなとイメージしています。(上原悦子師範代)
交わし合いの中で、ハイパーが少しずつ見えてきて、関係が交差する場所、連句のようなところ、全体にも部分にもなれるもの、など、目指すところが少し近づいてきたように感じています。(織田遼子師範代)
ハイパーには「革命」を想起させるものが必要なんです。市民革命を起こしてしまう可能性秘めた爆発力を持ったもの、それを「ハイパー」と言うのかな、なんて思っています。(奥富宏幸師範代)
これらのエディットは一つ一つが完璧なもの(全体)である必要はない。断片(フラグメント)の積み重ねが、ときに全体を凌駕するのだ。
◆コレクティブ・ブレイン
破天講での交わし合いが始まると、すぐにこんな呟きが聞こえてきた。
自分の問いを自分で崩すのは、結構、難しい。問いも回答も回路が同じだから、同じループに入るんでしょうね。それに比べて他の師範代の続きからやるのは、すでに違う角度から切り込まれているので、広がりやすい。(菅原誠一師範代)
偶然やってきた誰かの言葉を拾い上げ、そこに重ねる。すると思いもよらなかった別の世界に飛んでいける。これをハイパーリンクと言わずして何と言おうか。自らQを立て、そのQに誰かがEする。Q→Eの連鎖がラウンジ内のスレッドを横超し、広がってゆく。
新たな全知識を横断的に展望するには新たな枠組が必要だった。一人の知的活動ではカバーしきれないことも明白だ。そこにはコレクティブ・ブレイン(集合脳)ともいうべきエンジンが、まさに知的エンジンの装置化が必要だった。
(180夜『百科全書』)
意味の感染を繰り返しながら、コレクティブ・ブレインとなって師範代のお題研究は深化、進化を遂げた。そんな53破師範代の姿を、原田学匠は「師範代が自ら方法を取りに行く、お題を探求する風姿」と讃えた。
わずか六日間で破天講ラウンジの発言数は400を超えた。総勢十名の師範代がいかに濃密に交わし合い、濃縮された情報を交換しあったことか。しかもそれぞれの教室で指南を返しながら、である。
破天講で得た深いお題理解と方法の集合知を手に、破の折り返し地点の今、師範代は熱誠をもって物語編集術の指南に向かう。
戸田由香
編集的先達:バルザック。ビジネス編集ワークからイシスに入門するも、物語講座ではSMを題材に描き、官能派で自称・ヘンタイストの本領を発揮。中学時はバンカラに憧れ、下駄で通学したという精神のアンドロギュノス。
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