かつて「大人マンガ」というジャンルがあった(詳しくは「マンガのスコア 園山俊二」参照)。この周辺には、ファインアートと踵を接する作家たちが数多く存在する。タイガー立石もその一人。1982年、工作舎から刊行された『虎の巻』は、まさしくオトナのためのマンガの最極北。いいお酒といっしょにちびちび味わいたい。
51守師範代の一人、一倉の伝習座に向かう足取りは重かった。開講以来、ずっと漠とした不安が拭えないでいたのだ。学衆の回答は日を追うごとに充実し、教室では共読が進んでいる。それでも、自分は師範代としてこれでいいのか、もっとするべきことがあるのでは、と自問する日々だった。師範代としてのカマエを正される伝習座では、怒号の指南があるのではないかとコワカッタのだ。
伝習座で最初に語られたのは、康代学匠による「世界から切り離されていないことに気づいてほしい。」というメッセージだった。
普段の「わたし」は世界と自分を切り離している。
守の方法は、日常から、公園から、カブキから、
世界がつながっていることを実感としてもってほしい。
ぎょっとするものにこそ、可能性がある。
ぎょっとする指南せよと言われ、周りの師範代もぎょっとした顔をしている。
とはいえ、これまでをふりかえると、師範代生活にも慣れ、自分が出来る枠の中での指南をしがちで思い切った挑戦ができなくなっていたかもしれない。
「こんな回答がきたら、どう解釈する?」
指南ワークでは、師範代同志があれこれ見立てを交わす。学衆はお題を読んでから、どんなプロセスを経て回答に至ったのか。ふと、学衆時代の自分の蘇る。場の緊張した空気感もほぐれ、注意のカーソルの動きが自由になってきた。たくさんの「わたし」がむくむく戻ってきたようだ。一倉は、師範代としての「わたし」でしか、世界とつながっていなかったことに気づいたのだ。
回答から指南にたどり着くまでは一つの旅だ。
学衆の回答は秘密の基地(Base)で、師範代はそこから指南というTargetに向かっていく。師範代としての目線、学衆の目線、その他の目線。注意のカーソルをぐるぐる動かし、地と図を入れかえ、大きくプロフィールを動かす。一倉はふと、最近読んだ千夜千冊を思い出した。
ある発達段階までは常に自分の視点から見える風景が人形にも見えると考えるが、
発達段階が上がるにつれ人形の視点で見える風景を想像できるようになる。
自己中心性の認識枠組みから他者の視点の獲得へと発達が進む
(千夜千冊1817夜 『ことばの理論 学習の理論(上下)』 ロワイヨーモン人間科学研究センター)
多様な注意のカーソルを持つことは、人間の発達プロセスの段階とも重なる。「自己中心性の認識枠組み」を取り払う瞬間には、なにかしらの「ぎょっ」とすることが必要なのだろう。
指南では、学衆の眼前に見えている道をなぞるだけではなく、思いきり横道、脇道に踏み込んで、別の枠組みを示してみるべきではないだろうか。
それこそが「なんだ、この道は?」と、学衆を「ぎょっ」とさせる。そこに価値感の転換が起こり、学衆の認識の枠組みがガタンと外される。だからこそ、新しい「世界」・新しい「わたし」に出会えるのだろう。
6月の末は夏越の祓。日常生活を過ごしている間についてしまった、穢れや災難を祓い清める。
何かを振りはらうように、凝り固まった「わたし」がほぐれた一倉の目には、集まった51守師範代らの多様な注意のカーソルが、新しいステージに向かうべく、一途になって立ち上がるように見えた。
束ねてはひとつになりて夏祓
(文/一倉広美
編集/石黒好美)
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