「確固たる正解がない時代に、大局観をもって自分軸を養うことが、次世代リーダーに必要ではないか」「社員に、これからの社会をつくるための歴史観や未来像を養ってもらいたい」。
「教養」や「リベラルアーツ」をテーマにした講義や研修をして欲しい、という依頼が多くなってきている。
EELでは、もちろん「本」をそのためのツールとして活用する。読書を読前・読中・読後のステップに分け、本や著者のエディティング・モデルをリバースする「編集的読書術」をお伝えして、1冊だけでなく、3冊、5冊の関係にも分け入っていく。
しかし、受講者の方の人生経験も好奇心もさまざまに異なる中で、研修でせーのと「教養を養う」というのはとてもハードルが高い。あくまでも、そのお手伝いをさせていただきます、という立場でありつつ、目次読書やマーキング読書などのスキルを養うことを前提に、以下のような「読み筋」(と、ひとまず呼んでいる)を意識してもらうようにしている。
◉「著者の背景」を知る。そして「新たな価値観」が生まれた瞬間こそ、読む。◉
たとえば、『徒然草』の吉田兼好は神主の息子だった。当時、平安京が荒れにあれ、失業者が溢れ、中央政府の人事が激しく動いた。新階級の武家が出現した。社会の価値観や規律が揺らぎ始めた時代だった。それ以前は「はかどる」ことが良しとされた。ところが、どんなに合理や効率を追っても世の中が良くなるとは言えない。悪天候に見舞われることも、疫病が流行ることもある。そこで一部の人たちが「はかどるだけではなくて、はかがないことにも美しさがあるのではないか」と言い出した。 それが「はかなし」という価値観だった。実は「はかない」という価値観は、兼好の時代が作ったニューコンセプトだった。(以上、読みの要約)
『徒然草』に持っているイメージは、当初「教科書にあった」「無常観みたいなものが書かれている」「なんか大事そう」というくらいのものだったのが、兼好法師は「ニューコンセプトを作り出した当事者の一人だった」 と読めば、古典と自分が結びついていく。では「かわいい」とか「ミッション・ビジョン・バリュー」という概念が世に氾濫している今、どんなニューコンセプトを作れるか? という「問い」がうまれてくる。
◉「職人」のスキルに注目する。と同時に「モノ」がどう作られるかを、読む。◉
たとえば、茶碗を見て「これはどうやって作っているのか?手捻りかロクロか」「何度で焼き上げるのだろう。釉薬が独特。ならば釉薬はどう作られているのだろう」。これを繰り返していく。発見と疑問の連鎖を、自分なりにつなげることを行ってもらう。QからAに、AからQに。「スキル」や「スキモノ」から入るとやりやすい。松岡校長は、これを「数寄」とよぶ。「何でそんなことに関心を持っているの?」と思われてもいい。コンビニのおにぎりや、100均のつけまつげでも良い。まず3年くらいは数寄になれるものを持ってみるといい。本当に興味を持てるものであれば、対象は何でも構わない。
この「読み筋」、まだまだ開発していきたい。講義や研修の中で出てきた、受講者の方の愉快なものも、紹介したい。
* アイキャッチ画像は、千夜千冊1552夜『本は死なない』のセイゴオ・マーキング。線や記号や括弧のつけ方も研修でフォローすることもある。QAの連鎖も書き込んで「本をノートにする」。(受講者の中では、書き込みに最初抵抗がある方が、意外にも?2〜3割いる)
[編工研界隈の動向を届ける橋本参丞のEEL便]
//つづく//
橋本英人
函館の漁師の子どもとは思えない甘いマスクの持ち主。師範代時代の教室名「天然ドリーム」は橋本のタフな天然さとチャーミングな鈍感力を象徴している。編集工学研究所主任研究員。イシス編集学校参丞。
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