ほんとうは二つにしか分かれていない体が三つに分かれているように見え、ほんとうは四対もある脚が三対しかないように見えるアリグモ。北斎に相似して、虫たちのモドキカタは唯一無二のオリジナリティに溢れている。
守の38番のお題を全部、落語仕立てでフィードバックした学衆がいる。54[守]で学んだ尾崎公洋さんだ。なぜ落語? そのモチベーションはどこから?
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。
イシス修了生によるエッセイ「ISIS wave」。今回は尾崎公洋さんの[守]×落語体験をお送りします。
■■イシスは落語作家養成講座だった?
なんでワイの噺が選ばれへんねん。
落研の先輩に誘われ、実に40年ぶりに人前で落語を演ることになって、感覚を取り戻そうと通い始めた落語作家入門講座。受講生の作品の中から一つだけ選ばれてプロの落語家が実演してくれる。絶対自分の噺が選ばれると思っていた僕は不満げな顔をして教室を出た。
翌週、選ばれた作品の実演を聞いて打ちのめされた。見事に落語世界が繰り広げられる。気になるところはことごとく実演する落語家によっていい感じに変えられていた。クスグリも追加され、キャラは見事に立っている。
自分の噺を読み返したら違いは歴然だ。落語家がやりたくなる魅力に欠けているのだ。手も加えにくい。選ばれなかったことがよくわかる。
失意のままISISの門を叩いた。
次から次へとお題がワンコそばのようにやってくる。《地と図》を入れ替える? そうだ、噺は落語家の視点でも書くべきだ。自分の噺にはシソーラスの発展が足りない。メタファーの展開が弱い。ベースを明確にし、ターゲット(おち)に向けていかにプロフィールを展開していくのか。分岐させろ、対比させろ、らしさや匂いは身に纏いながら、とんでもないところまで飛躍せよ。常識サイドのシステムにアナロジーを効かせ、貧乏長屋のキー公や船場の若旦那や色街のお姐さんが生きる世界と、つまらぬ我々の常識世界との編集的対称性を発見せよ。
なんだ、ISISって落語作家養成講座だったのか。『知の編集術』の「キーノートエディティング」には会話型の要約編集が載っている。ならばと、お題を元ネタにした「復習落語」を勧学会に投稿してみた。師範代が面白がってくれる。学衆のみんなから声がかかると嬉しい。師範まで期待してるよとコメントを入れてくれた。
元々調子に乗るタイプだ。お題の回答だけでも辛いのに、次々復習落語も投稿する。師範代から最後まで行けと叱咤激励が来る。自分の書いた落語をプロが自在に演じてくれる日を思い描きながら卒門を迎えた。
以前の自分の作品のどこがあかんか、わかるようにはなっている。今度の作品の方がよくなっているのもわかる。しかし、自分がまだまだであることもこれまで以上によくわかっている。しかし、僕はまだまだ成長していく。編集を人生する方法を手に入れつつあるのだから。今年の落語台本大賞に落ちてもきっと僕は落ち込まない。来年にはもっと面白いものを自分は書けるだろうから。
▲落語を披露する「須波気亭銭魔」こと尾崎さん。
文・写真/尾崎公洋(54[守]やぶこぎ博物教室)
編集/角山祥道
エディストチーム渦edist-uzu
編集的先達:紀貫之。2023年初頭に立ち上がった少数精鋭のエディティングチーム。記事をとっかかりに渦中に身を投じ、イシスと社会とを繋げてウズウズにする。[チーム渦]の作業室の壁には「渦潮の底より光生れ来る」と掲げている。
ミメロギア思考で立ち上がる世界たち――外山雄太のISIS wave #69
イシス編集学校の[守][破][離]の講座で学び、編集道の奥へ奥へと進む外山雄太さんは、松岡正剛校長の語る「世界たち」の魅力に取り憑かれたと言います。その実践が、日本各地の祭りを巡る旅でした。 イシスの学びは […]
【書評】『熊になったわたし』×3×REVIEWS:熊はなぜ襲うのか
熊出没のニュースに揺れた2025年、年末恒例の“今年の漢字”もなんと、熊。そこで年内最後に取り上げるのは、仏のベストセラー・ノンフィクション『熊になったわたし――人類学者、シベリアで世界の狭間に生きる』です。推薦者はチー […]
ロジカルシンキングの外へ――竹廣克のISIS wave #68
曖昧さ、矛盾、くねくね、非効率……。どれもこれも、ビジネスシーンでは否定されがちです。それよりもロジカルに一直線。社会の最前線で闘ってきた竹廣克さんならなおさらのことです。 ところが、イシス編集学校の[守][破]で学んで […]
地域も祭りも「地と図」で編集――大倉秀千代のISIS wave #67
イシスの学びは渦をおこし浪のうねりとなって人を変える、仕事を変える、日常を変える――。 地域の中でリーダーとして長らく活躍してきた大倉秀千代さんは、一方で「このままのやり方を続けていていいのか」とモヤモヤし […]
稽古で培われた書き切る力【出版記念インタビュー】石川英昭『幸せな老衰』
記念すべきISIS wave第1回の書き手・医師の石川英昭さんが、再びの快挙です。『幸せな老衰 医師が伝える 叶えるための「3つの力」』(光文社新書)を上梓したのです。 石川さんの「執筆の秘密」を探るべく、チーム渦の大濱 […]
コメント
1~3件/3件
2025-12-30
ほんとうは二つにしか分かれていない体が三つに分かれているように見え、ほんとうは四対もある脚が三対しかないように見えるアリグモ。北斎に相似して、虫たちのモドキカタは唯一無二のオリジナリティに溢れている。
2025-12-25
外国語から日本語への「翻訳」もあれば、小説からマンガへの「翻案」もある。翻案とはこうやるのだ!というお手本のような作品が川勝徳重『瘦我慢の説』。
藤枝静男のマイナー小説を見事にマンガ化。オードリー・ヘプバーンみたいなヒロインがいい。
2025-12-23
3Dアートで二重になった翅を描き出しているオオトモエは、どんな他者に、何を伝えようとしているのだろう。ロジカルに考えてもちっともわからないので、イシスなみなさま、柔らか発想で謎を解きほぐしてください。