【イシスの推しメン27人目】コンサルタント出身ファンドマネージャーは、なぜアナロジカルな編集工学を求道するのか

2024/06/09(日)08:41
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「ロジカル・シンキング」という思考法がある。物事を体系的に整理して、矛盾なく結論づける思考法だ。いっぽう、イシス編集学校で学ぶのは「アナロジカル・シンキング」。これは、アナロジー(類推)を活かし、意外な発想へ飛躍する手法だ。イシス編集学校には、ロジカルシンキングの熟練者たちが「アナロジカル」な方法を人知れず学びに来ているらしい――。

遊刊エディストの好評連載「イシスの推しメン27人目」は、ファンドマネージャー・束原俊哉さん。束原さんがなぜ、イシス編集学校で編集工学を学ぶのか、その真意を聞いてみた。

聞き手:吉村堅樹

イシスの推しメン
束原俊哉
ファンドマネージャー。銀行、外資系コンサルティングファームを経て、2007年より株式会社プライベート・エクイティ・ファンドに参加。生活産業を中心に数多くの投資案件に携わる。
イシス編集学校には、2021年48期[[守]基本コース入門。48期[破]応用コース突破、38回[花伝所]放伝。2023年、51[守]にて一月二十五日教室師範代として登板。現在、52[破]四一・一・二五師範代を担う。昭和41年1月25日、アメリカ生まれ。

 

■銀行、コンサル、そしてファンド
 束原俊哉はなぜイシス編集学校に入門したのか

――束原さんは「一月二十五日教室」という教室名をおもちですよね。松岡正剛校長と誕生日が同じとのことですが、イシス編集学校に入門したきっかけは?

「方法」や「読むこと」に、昔から関心があったんです。30代、40代のころから、松岡校長の著作は買っていました。2009年に出版された『多読術』も読んでいましたし、イシス編集学校のことも知っていたけれど、なかなか入門までは踏み切れなかった。単純に仕事が忙しかったんですね。

――松岡校長を知ってから、ずいぶん寝かせて2019年に入門されていますね。

ちょうど4年前、「ここで受けないと一生受けないな」ってふと思ったんです。ストレスで急性膵炎になって、死にそうになって。そのときに、ああ、自分が死ぬっていうことがありうるんだと思ったんです。死ぬ前にやっておきたいことは、ぜんぶやっておこうと。そのうちのひとつが「編集工学」でした。

――大病が契機だったとは……。束原さんはファンドにお勤めとうかがっていますが、お仕事はどんなことを?

5年ほどかけて、会社の投資先を変革していくのが仕事ですね。たとえば、メガネチェーンをたんにメガネやコンタクトレンズを売るお店ではなくて「アイケアカンパニー」と再定義するとか。いわゆる「バイアウトファンド」というもので、ある企業を再定義して、いまの時代にあった成長を促す支援をしています。仕事では《地と図》の置きなおしのような感覚がありますね。業績も上がります。

――ずっとファンドでのお仕事をされているんですか

新卒では、都市銀行、いまでいうメガバンクに入りました。銀行で7年間働いてから、留学を契機にコンサルティングファームに転職することになって。そこには9年いて、そのあと現職のファンドですね。ここでの仕事は17年目になります。

――ずっとビジネスに携わっておられるのですね。

でも昔は、ビジネスでこんなことをするとは思っていなかったですよ。うちは父が外交官だったので、僕も外交官になりたかったんです。でも大学のときに、外交官試験に落ちて。それで、たまたま先輩が務めていた銀行に入り、留学で日本を脱出したくてコンサルティンファームに……という流れですね。
振り返ってみれば、僕が高校生まで過ごした地域は校内暴力の嵐が吹き荒れるところで(笑)。そういうところから脱出したいという思いが強かったのかもしれません。


■生き方が真逆!
 イシス編集学校で悟った「ザッツ・ライフ」

――そんな束原さんが、実際にイシス編集学校に基本コース[守]を受けてどうでした?

[守]の教室(平時有事教室)を担当してくださった石黒好美師範代がすごかったですね。お題ごとに、毎回モードをつくって指南してくる。あのモードチェンジに凄みを感じました。リアルにお会いしたときと、テキストの文体とではすごくギャップがありますし。

――石黒師範代は、電気グルーヴが大好きで、「くちびるディスコ教室」なんてセクシーな名前をもつフリーライターですね。石黒師範代のモードの多様性に驚いたんですか?

というより、生き方そのものが違う、ということの衝撃でしょうか。僕は、どんな場面でもコンシステントな(一貫している)ものがいいと思って生きてきたんです(笑)。でも、石黒師範代はまったくそうじゃない。正反対。この出会いは、誰かが図ったんじゃないかと思うくらい衝撃的でしたね。

――変幻自在の石黒・終始一貫の束原というミメロギア状態! 師範代のスタイルから、人の生き方まで感じ取っておられるのがおもしろいですね。

それでいうと、花伝所のキャンプで心の底から「これか!」と発見したことがありました。編集学校以外でも、トレーニング的な場でチームを組まされ、お題をやらされるとき、リーダー不在でぐちゃぐちゃになっちゃうことってありますよね。これまで僕は、リーダーがいなかったらまともにガイドできないじゃないかって思っていました。

花伝所のキャンプでも、まったく年代の違うみなさんとともに、似たような状況に放り込まれて気づいたんですよね。「これって、人生そのものだよな」って(笑)。勝手にある場所に放り込まれて、リーダーもいるようでいなくて。そうなったとき、自分が結局できることは「目の前にあるものをいかに編集するか」ということだなと。そんなことに齢56にして気づいたわけです。

――編集学校では、グループワークの稽古もたまにありますが、なかなか大変ですよね(笑)。

認知不協和の極致といいますか……(笑)。でも、52[破]の師範代として準備をしているとき「表象」という言葉を見て気づいたんです。そういう状況に放り込まれたとき、編集して「表現」するだけでは足りない。「表象」しなければ。リプリゼンテーションという言葉がしっくりきて、目からウロコが500枚くらい落ちる。そういう楽しさが編集学校にありますね。

――イシスで学ぶのは「アナロジカル・シンキング」ですよね。束原さんはロジカルシンキングを訓練されたと思いますが。

コンサルタントだったときはいわゆるロジカルシンキングを徹底的にやりましたね。身体化されていて、振り落とすのに時間がかかります。[守]の師範代を終えて、[破]の師範代に挑戦してようやくアナロジカルなモードに慣れてきたくらいです。

――周囲の反応はいかがですか。

正直、ファンドのようなところにいながら、イシスで学んでいるのはめちゃくちゃ異端です。周囲からは、ここでの学びは趣味に見られているのがよいとおもっています。でも、心の中では、編集工学的な見方が身についているがゆえに、仕事のパフォーマンスが高いという状態をつくっておきたい。

――AかBか、ではなくてその「あいだ」を目指しているんですね。

[AIDA]season4を受講しましたが、まさに「あいだ」で両立させる世界をつくりたいですね。フィナンシャルモデルなどを使ってゴリゴリとロジカルにリターンを追求しながら、同時にアナロジカルな編集もしていくというダブルバインドを突破する状態でありたいと思っています。


■ユビキタスな編集工学へ
 みなが表象している世界を

――[AIDA]といえば、束原さんが懇親会のときに「編集でいける!」と語っておられたことが印象的でした。

ビジネス領域でさまざまな種類のことをしてきました。そこから見ていると、この30年間で日本に起きたことって、コンサルティング業界の異様なまでの拡大と、ロジカルシンキングの浸透、そしてファンドという資本主義の典型の登場です。肌感として、世の中には、ロジカルシンキングには疲れている、飽き飽きしている空気が出てきたように思います。

言ってみれば、私がメガネチェーンを「アイケアカンパニー」と再定義しなおしたことも、既存の見方の転換でしたし、いまは編集工学的なものへシフトするニーズが生じてきたと思います。

――編集工学はどのように広がっていくと想像しています?

編集工学は地下茎のように、いろいろなところへ根を張っていくものだと思います。日本人ってもともと「バージョン違い」が好きですよね。アパレルのバージョン違い、外食のバージョン違いとか。それなのに、いまはどこにいっても同じようなチェーンしかないという状態が面白くない。そう考えると、編集工学はスケールしていくというより、ユビキタスなものとして遍在するほうが似合うかなと。

――松岡校長はイシス編集学校を立ち上げたときに「イシス編集の国」も構想していました。僕吉村も、つねに編集状態である人たちが集まる“国”を想定しているのですが。

僕は「イシス編集の国」というものがあるなら、それは「表象の国」であるのだろうと思います。
イシスの「守破離」のプロセスでは、自分が教える側になるのが大前提ですよね。でも、公教育では先生が生徒になることは求められていない。そこに大きな違いがあります。教わる側から教える側になりたいと思うときって、教える人たちの「表象」を真似てみたいと思うはずなんです。

僕は「あんなふうに文章を書けたらすごいな」と石黒師範代に対して感じますし、編工研デザイナーの穂積さんの作品づくりなんかはたまらないですよね。お金を払って個人教授してもらってもいいと思うくらいです。みんながつねに表象している状態というのは、面白いですよね。表象する世界が広がっていけば、もっとイシス編集学校も編集工学も世の中的にますます広がりやすくなるのではと思います。

 

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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