【イシスの推しメン/22人目】インカレ6連覇を支えるアスレティックトレーナーが、「編集稽古」にハマる理由

2023/07/10(月)08:22
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日本にはコーチング・メソッドが確立していない。スポーツ界だけでなく、ビジネス界でも政界にも、名コーチが少ない。しかし、イシス編集学校では「師範代」と呼ばれる優秀なコーチがつぎつぎに生まれ、その数は850名を超えた。どうして、イシスの師範代は学衆に豊かな学びの体験をうながしながら、みずからもイキイキと学び、変容しつづけられるのだろうか。

イシスの推しメン22人目は、アスレティックトレーナーとして選手を支える紀平尚子さんをお迎えした。スポーツをするとはどういうことか、師範代を経験して得られたものとは、そしてスポーツ練習と編集稽古の共通点とは。

イシスの推しメン プロフィール
紀平尚子

柳田尚子名義でアスレティックトレーナーとして活動。2016年4月より、インカレ6連覇という偉業を成し遂げた強豪・東京医療保健大学女子バスケットボール部のアスレティックトレーナーを務める。イシス編集学校には2021年4月、基本コース47期[守]に入門。その後応用コース47期[破]、編集コーチ養成コース37回[花伝所]に進む。周囲を照らすような、ひときわハツラツとしたハンサムな稽古ぶりが買われ、期待を背負って2022年50[守]アスレ・ショーコ教室師範代として登板。稽古好きが高じて、現在、50[破]を再受講しながら、編集力チェック師範代として未入門者への指南を続けている。イメージに違わず、ビール好き。

 

■川口能活選手に会いたくて
 スポーツ少女がアスレティックトレーナーになったワケ
 
――紀平さんは大学の女子バスケットボール部の「アスレティックトレーナー」として働いておられるんですね。プレイヤーではなくて、選手をサポートするトレーナーを選んだのはなぜなんでしょうか。

 

ええと、不純な動機ですね。私は中学生のころ、サッカーの川口能活選手にとにかく憧れていたんです。なんとかして川口選手に会いたくて「テレビ局に務めたらいいのか?」とか真剣に考えたんです(笑)。たまたま友だちから「スポーツトレーナー」という仕事を教えてもらって、これなら川口選手に会えるかもしれないと思って……。

 

――なかなかミーハーな入り口。当時の川口能活選手といえば、アトランタオリンピックで「マイアミの奇跡」の立役者となっていたころですよね。あれはかっこよかった。

 

そうなんです! いま、応用コース[破]を再受講していますが、クロニクルづくりをしていて川口選手に憧れていたあの時代を思い出していました。声を張り上げてチームを先導する力とか熱血漢なところとか、とにかく好きだったんです。

 

――昔からスポーツに親しんでおられたんでしょうか。

 

母親がスポーツ好きで、母譲りなんだと思います。さまざまな運動に挑戦していました。実家は兵庫で、もちろん阪神タイガース好き。いつもテレビでは野球の試合が流れていましたし、そういう意味ではスポーツは身近でしたね。トレーナーを目指して、スポーツや医療のことも学ぼうと筑波大学体育専門学群に進学しました。

 

――トレーナーさんって、実際はどんなお仕事をなさっているんでしょう。

 

ターゲットとなる大会に向けて、選手の健康面のサポートをすることがおもな仕事です。そのなかでも、心のケアが私はいちばん大事だと思っています。メンタルコンディションが整っていないと、身体のコンディションがよくならないんですよね。同じ怪我を負ったとしても、「はやく元気になって、はやくプレイがしたい」って思っている選手と、「練習きついし、戻りたくないな」って思っている選手では治り方がぜんぜん違うんです。

 

――そこまで回復度合いに差がでるのも不思議ですね。

 

私は、スポーツって本来「遊ぶ」ものだと思っているんです。日本だと「スポーツ」という言葉から、「訓練」とか「武道」というシソーラスが浮かんできて、「きつい」イメージをもつ人もいると思います。でも、英語だと「遊ぶ」という意味の「Play」ですよね。遊ぶ感覚で、スポーツを楽しむ人が増えてほしいと日々思っています。

 

――「遊ぶ」といえば、イシス編集学校の学衆なら「遊ぶものは神である。神のみが、遊ぶことができた」という白川静「遊字論」の冒

頭を思い浮かべる方も多いはず。いま、紀平さんは50[破]を受講中ですが、課題図書に『文字逍遥』を選ばれたんですね。

 

そうなんです。いまは2度目の[破]なので、自分に負荷をかけようと思って、あの400ページの「文字遊び」に挑戦しました。白川静さんの本は、わたしひとりじゃ読めない、イシスにいないと読めないなと思ったので選びました。


■インカレで6連覇! トレーナーから見た
 編集稽古とスポーツの共通点とは 

 

――遊びって、世界をあらたにつくるものなんですよね。鬼ごっこをしたら、その場には「鬼ごっこの世界」ができる。スポーツも、競技ごとに「バスケットボールの世界」「アメフトの世界」など世界がつくられていますし。

 

似ているスポーツも多いのに、競技ごとにぜんぜん違う世界になるから不思議ですよね。その世界で遊んでいると、たいへんなこともあるんだけれど思わず夢中になっちゃうところなんか、編集稽古によく似ているなと思います。

 

――編集稽古も、苦しいときは苦しいですもんね(笑)。最初は「こんなことして何になるんだろう」って感じるところも似ていそう。

 

いやー、それはありますよね。最初に[破]を受けたときも、[守]の師範代を登板したときも、私は泣きそうなほどたいへんだったんですが(笑)、でも終わってみると、それ以前にはできなかったことができるようになっている。だから「稽古」っていいなって思うんです。成長するプロセスを楽しめるから。好きな言葉です。

 

――そういえば紀平さんはそもそもどうしてイシス編集学校に入門したんでしょうか。

 

私は世田谷に住んでいて、ISIS館のある赤堤はランニングコースなんです。ガラス張りの入り口をちょっとのぞくと、そこには本がズラーッと並んでいて。かっこいいなと思ったんです。

 

――ランニングというふだんの稽古のなかでイシスに出会ったんですね。

 

でも私は本はあまり読まなかったので、いつも通り過ぎるだけでした。それが2020年、コロナ禍になって変わるんです。それまでは四六時中スポーツの現場にいたのに、スポーツがパタっとできなくなってしまったんです。

 

――紀平さんがアスレティックトレーナーとして関わっておられるのは、東京医療保健大学の女子バスケットボール部。2017年から全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)で6連覇中という日本一のチームと聞いています。

 

そう、すごく厳しいチームだったんですが、コロナ禍で時間ができたときすこし立ち止まったんです。「どうしてバスケットボールをするんだろう」「チームってなんだろう」って、みんなで考えたんです。本を読んだり、話し合ったりしているうちに、チームの方向性がガラッと変わったんです。自分たちがワクワクするようになって、しかも過去最強のチームになって、日本一にもなれた。

 

――立ち止まることで、「スポーツは遊びである」という本来のところに立ち戻ったんですね。

 

アスレティックトレーナーとして、こういうスポーツの楽しさを広く発信したいなと思ったときに、「あ、イシス編集学校がある」と思い出したんです。編集力チェックを試したら、指南を読んで「ぜったい入らなきゃ!」と思ってすぐ入門しました。


■リハーサルこそ本番以上
 イシスで身についた発信力と読書力

 

――イシス編集学校に入って「発信力」は高まりました?

 

だいぶ変わったと思います。イシス編集学校では感門之盟などで、人前で話す機会があるんですよね。そのときに、吉村林頭から「松岡校長はいつもレジュメを用意して、さらにフルでリハーサルもしている」って聞いて、そんなにやるんだってすごく驚いたんです。

 

――松岡校長って、リハーサルで1時間なら1時間のお話をほとんど通すんですよね。

 

師範代として感門に参加するとき、リハに初めて参加しました。あのときの松岡校長の本気度、衝撃でした。リハーサルこそ本番以上に本気でやるんだ!っていうところに、私はすごく感動したんです。あのリハーサルに参加できたのは、ほんとうに幸せなことでした。

 

――以前、ハイパー・コーポレート・ユニバーシティ[AIDA](現:ハイパー・エディティング・プラットフォーム[AIDA])では、「稽古と本番のAIDA」というテーマを掲げて、アメフトや文楽やビリヤードや舞台などさまざまなリハーサルの現場を訪れました。リハーサルにあらわれるものってあるんですよね。

 

それを実感しました。あれ以降は、人前で話すときには事前に台本を用意して、声に出して練習してから臨むようになりました。感門之盟当日は、私、いちばん最初のコーナーでいちばん最初に登場する師範代だったんです。90秒程度の尺でしたが、前日は眠れないほどの緊張感を味わいました(笑)。

 

――スポーツも、「試合」という本番と「練習」というリハーサルがありますよね。

 

そうなんですよ。スポーツでは、練習のとき、試合以上の負荷をかけます。本番はプレッシャーもとても大きいですし、相手の出方によって自分の動きを瞬時に変えるなど、勝利を目指すために多くの判断が求めらるからです。選手は、強い負荷をかけての練習しているのに、トレーナーの私はそれをしていなかったんだなって、感門之盟のリハーサルで気づきました。

 

――そういえば、紀平さんはもともと本を読むタイプではなかったとおっしゃっていましたよね。イシスに入って、読書についての苦手意識などは払拭されましたか。

 

すごい変わりようです。ずっと活字が苦手だったんですが、[守]の師範代を終えてから、[破]を再受講するための準備として本を読もうとしたら、どんどん頭に入ってくる。すごく驚きました。


でも考えてみれば、師範代として毎日「学衆さんの回答」を読んでいたんですよね。哲学のこと、仏教のこと、地球のことなど、多岐にわたる分野についてアツく語る学衆さんの言葉を毎日読んで、それに対して、毎日指南というかたちでアウトプットをして、さらには千夜千冊も読む。これを4ヶ月続けたら、活字も読めるようになるよなって納得しました。

 

――発信力を身に着けようと入った編集学校で、「本を読む」といういわば受信力もアップしたわけですね。

 

見える世界が変わりましたね。イシス編集学校では、自分から働きかけていけば、いくらでも世界が広がるんだなって感じました。それが幸せでしたね。これからは、私も「編集力チェック」という無料体験の師範代を担当することになったので、この喜びを多くの人に伝えていきたいと思っています。

 

 

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  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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