自分の欲望を押しこめて、人は大人になっていく。かつての「やりたかったこと」は押入れの奥にしまいこんだまま、その存在すらも忘れてしまう。しかしイシス編集学校の「編集稽古」の最中、学衆たちはしばしば押し入れに眠る宝物を見つけだす。そして、あのとき大事にしていた石ころの欠片が、いまも輝きを失っていないことに気づくのである。
遊刊エディストの人気連載「イシスの推しメン」20人目は、漫画家・今野知さん。イシスに入ってどうして顕微鏡にハマることになったのか。なぜあの「青春物語」が書けたのか。ご夫婦で受講した感触は。イシスに入って、かつての「夢」を叶えた経緯を聞いてみた。
聞き手:八田英子 ほか
イシスの推しメン プロフィール
今野知
マンガ家、イラストレーター。複数のペンネームを使いわけ、4コマ漫画からキャラクターデザインやエッセイ執筆までおこなう。コミックは、日・中・韓・インドネシアにて出版。児童向け雑誌では子どもたちのヒーローを作画し、通信社発行の漫画の監修も担当。イシス編集学校にはコロナ禍の2020年4月、基本コース46期[守]に「家族割」を利用して夫婦で入門。夫婦そろって応用コース46[破]を突破、[遊]物語講座14季を績了し、今野夫妻の名がイシスで轟いた。[守]ではお題が出るとすぐに回答。教室の稽古を先頭で牽引した。最近のマイブームは顕微鏡。
■マンガ家、イラストレーター、そして、
ゆるキャラの「中の人」
――今野さんは漫画家さんなんですね。
漫画だけでなく、
――中の人?!
海外のキャラクターですが、かわいい感じのゆるキャラです。
――いまそのアカウントを拝見していますが、あら。これはかわいいですね。王道のゆるキャラという感じがします。キャラクターの「中の人」って、どうやったらなれるんですか。
スカウトされたんです。
――最近では、男性が美少女のアバターをまとって活動する「バーチャル美少女受肉」いわゆる「バ美肉」というものもありますよね。ああいう感じで、キャラクターになりきっておられる感じなんですか。
いや、そうでもないんですよね。自分のなかに少年と少女がまざったような感性が残っているからでしょうか、ふつうにつぶやいているだけで「この子っぽい!」って言われますね。
――そもそも、どうしてイラストや漫画を描くお仕事を始められたんですか。
ゆるキャラのお仕事もそうですが、ぼくの人生は、
▲今野さんの手による自画像。8つの顔があるが、これは口元が違うだけ。たくさんの顔を奥様とお子さんに見てもらい、いちばん今野さんらしいものがアイキャッチ画像のために選ばれたという。
■夢を叶えようと入門したイシス
そこで思い出した、かつての青春
――とすると、どうしてイシス編集学校に入門されたんでしょうか。
人生で一回くらい、
――たまたまネットで見つけた学校へ飛び込むのは勇気が必要だったのでは。
「編集」という言葉が気になったんです。イシスに出会うまえから、ぼくのなかで「自己編集」がキーワードになっていたんですよ。
――自己編集、ですか。
ぼくは、
――入門してみて、そのあたりの感触はいかがでしたか。
いやあ、面白かったですね。お題は、自分と向き合うものが多いじゃないですか。回答を考えているうちに、「自分はこれが好きだったな」と思い出すことが多かったです。
――私梅澤は、46[破]番記者時代に拝見した今野さんの物語作品が忘れられないんです。応用コース[破]で書かれた物語は、俳句に熱中する高校生を主人公としたもの。漫画『ちはやふる』のようなみずみずしい青春小説でしたよね。アリス大賞も受賞されていましたが、あれほどのキラキラな青春を描いたのはなぜだったんでしょうか。
もともと児童文学を書きたいという漠然とした夢はあったんですが、あの物語を書いているときはじめて「ぼくは青春を求めているんだ」って気づいたんですよね。稽古中、音楽を聞いていたのですが、物語稽古のときは選ぶものがザ・ブルーハーツとか銀杏BOYZとかばかりで。自分でも不思議なくらい、青春っぽい曲がしっくりきたんです。そして、気づいたらあの青春物語が出来上がっていました。
――稽古中に自分の求めているものに気づいたんですね。[破]の担当だった尾島可奈子師範代からはどんな指南がありましたか。
そうそう、
尾島師範代こそ、
■クリエイター夫婦がふたりで編集稽古をしてみたら
「かつての興味」を思いだすイシス編集学校
――今野さんは「家族割」を利用して、ご夫婦でイシス編集学校を受講されているんですよね。アイキャッチもご夫婦がそろったイラストをご用意してくださいましたね。
そうです。もともとぼくが「こんな講座あるけど、どう?」って誘ったんですが、妻のほうがのめりこんでしまって驚いています(笑)。ふたりで、基本コース[守]、応用コース[破]と進み、[遊]の物語講座まで受講しました。ぼく自身は物語講座の受講を迷っていましたが、妻がぐいぐい引っ張っていってくれました。
――家庭のなかに同志がいるのは心強そうです。奥様はどうしてご受講されたんでしょう。
妻はゲームのライターなんです。
――受講中、ご夫婦ではどんな会話がなされていたんですか。
会話はイシスのことばっかりになりましたね(笑)。日常会話で「見立て」とか編集術の用語を使っていますし、うちの子どもへの接し方もずいぶん変わったと思います。夫婦ふたりとも、対話を通じて、いろいろな視点がもてるようになったからでしょうか。
――師範代的なコミュニケーションを、家庭内でも取るようになったんですね。
ぼくが[守]の番ボーで入賞したり、[破]物語AT賞でアリス大賞をとったときなんかは、大いに妻に自慢しましましたが(笑)
――そういえば、今野さんは文章を書くのが苦手だったとうかがいました。
そうそう、ほんとうに文章がへたくそなんです。
――それでもめげずに続けられた理由は。
自分の文章力には絶望してましたけれど、でもやっぱり面白かったんですよね。南ちゃんのような師範代が励ましてくれましたし。それに、ぼくは好きなものにはすごくのめりこむほうで、今は顕微鏡にハマっていて……
――顕微鏡ですか。
いま研究用の顕微鏡が5台あるんですけど、
――……ええと、それはご趣味で?
そうですね、仕事には全く関係ありません。イシスに入って、
――どうやらイシスの経験を経て、好きなもののフタが開いてしまったようですね。
伊丹十三監督の映画「マルサの女」
――「編集は遊びから生まれる」ということをまさに体現しておられるようです。
ぼくにとって、イシス編集学校は「
アイキャッチイラスト、文中イラスト:今野知
アイキャッチデザイン:山内貴暉
シリーズ イシスの推しメン
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梅澤奈央
編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
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