遊刊エディスト:松岡正剛、編集工学、イシス編集学校に関するニューメディア https://edist.ne.jp Tue, 15 Jul 2025 09:27:59 +0000 ja hourly 1 https://wordpress.org/?v=6.8.1 https://edist.ne.jp/wp-content/uploads/2019/09/cropped-icon-512x512-32x32.png 遊刊エディスト:松岡正剛、編集工学、イシス編集学校に関するニューメディア https://edist.ne.jp 32 32 学校説明会オンライン 7月21日(月・祝)に開催します 9月13日(土)は本楼で! https://edist.ne.jp/just/tour20250721/ https://edist.ne.jp/just/tour20250721/#respond Tue, 15 Jul 2025 09:20:15 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87731 イシス編集学校は、世界でたった一つの「方法の学校」です。 小学生から80代までの学衆(生徒)が日本全国から参加し、ネット上の「教室」に入って、「師範代」が出す「お題」に取り組んでいます。15週間で編集術のスキルを身につけ […]

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イシス編集学校は、世界でたった一つの「方法の学校」です。

小学生から80代までの学衆(生徒)が日本全国から参加し、ネット上の「教室」に入って、「師範代」が出す「お題」に取り組んでいます。15週間で編集術のスキルを身につけると、世界と自分についての見方が劇的に変わります!

何を学べるのか、どのように稽古するのか、難易度はどのくらいなのか。学校説明会では、独特な編集用語も解説しながら、体験談を交えて楽しくご案内します。


 

実際に学校説明会オンラインに参加した方から、こんな感想が届きました。

・大変楽しくあっという間に90分が経ちました

・お稽古の流れ、カリキュラム、守破離コースの詳細など

 イメージが湧き、心の準備も整った

・ワークをいくつかやることで稽古の感じがつかめました

・想像と反して楽しく、面白いひと時でした!

・常識に囚われすぎない自由な考え方を身につけるためにも、

 学んでみたいと思いました

・学校の全体像と何をするのかもよく分かりました

・本当に職業、住む場所、年齢がまちまちで刺激的でした

 

あまり本を読んで来なかったのですが大丈夫ですか?という質問も多くいただきます。

読書が好きな方も、これから読書を始めたい方も、きっと本との関わり方もガラリと変わりますよ。

少しでも興味が湧いた方、覗いてみたいなと感じた方、ぜひご参加ください。

 

学校説明会は毎月オンラインで開催していますが、9月13日(土)のみ本楼でリアル開催することになりました。

この日は、13時から本楼共茶会も開催していますので、連続参加も受け付け中です!

 


イシス編集学校 学校説明会

    | ・イシス編集学校でまなべること
    | ・編集稽古、教室でのまなびのしくみ
    | ・Q&Aタイム

■費用:無料
■会場:オンライン(開催前にZoomアドレスをご案内します)
■人数:限定15名様まで
■内容:イシス編集学校で学べる内容をわかりやすくご説明します。
    イシス独自の「編集稽古」を、実際の画面も見ながら、

    ワークショップ形式で体験していただけます。
    個別での細かなご相談もおうかがいします。

 

■日時・申込リンク


2025年7月21日(月・祝)14:00-15:30
2025年8月9日(土)14:00-15:30
2025年8月28日(木)19:30-21:00
2025年9月9日(火)19:30-21:00

2025年9月13日(火)17:00-18:30@本楼開催です 
2025年9月23日(火・祝)10:00-11:30
2025年10月1日(水)19:30-21:00
2025年10月10日(金)19:30-21:00

2025年6月8日(日)14:00-15:30 済

2025年7月11日(金)19:30-21:00 済 

 

学校説明会HPはこちら

 

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こまつ座「父と暮せば」をイシス編集学校の師範が観てみました 第2弾 https://edist.ne.jp/post/chichitokuraseba02/ https://edist.ne.jp/post/chichitokuraseba02/#respond Mon, 14 Jul 2025 23:12:00 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87719  こまつ座「戦後”命”の三部作」の第一弾「父と暮せば」(井上ひさし作/鵜山仁演出)が現在公演中です。時空を超えて言葉を交わし合う父と娘の物語。こまつ座がライフワークとして大切な人をなくしたすべての […]

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 こまつ座「戦後”命”の三部作」の第一弾「父と暮せば」(井上ひさし作/鵜山仁演出)が現在公演中です。時空を超えて言葉を交わし合う父と娘の物語。こまつ座がライフワークとして大切な人をなくしたすべての人に捧げる「父と暮せば」。舞台を観劇したイシス編集学校の師範による感想第2弾をお届けします。

 

 ひとり生き残った娘を案じて、幽霊となって現れる父。父も娘も、つい生きているときの癖でお饅頭やお茶を出したりする。そして飲もうとしてハタと気づく。そうだ、死んでいるから飲み食いできないのだ。一瞬、しんみりするが、温かい笑いに包まれて、物語は進んでいく。悲しみを越えて生きていこうとする人間のたくましさに、救われる思いがする。

 

 娘は度々「幸せになってはいけない」という思いに囚われる。生き残ったことを申し訳なく感じ、恋心を押さえつけようとする。そんな娘を、父は励ます。自分の分まで幸せになれと。

 

 胸が痛い。取り返しのつかない損失を抱えて、それでも人は生きていく。悲惨な目に遭っても、やがて日常は戻ってくる。恋も芽生える。戦争のむごさが語られるのは、回想の言葉。過去は、消えてなくならない。やり切れない思いが募る。

 

 私たちにできることは、これからもう二度と戦争を起こさないという気持ちを強く持つこと。そのために、何があったのかを知ること。せめて知ろうとすること。今なお戦争が続いている地域がある。無力さに苛まれている場合ではない、と思った。


イシス編集学校師範 福澤美穂子

 

“切実”が呼び出す死者に生かされるということ

 舞台に放たれた言葉は言霊だ。井上文学を身体で受信し想いを巡らせ、何度でも揺さぶられる時間がこまつ座だ。なかでも『父と暮せば』は『母と暮せば』とともに井上文学の真骨頂ではないかと思う。


 父は、図書館司書の娘(ミツエ)と、利用者で大学の助手のヤマシタの恋を成就させようとミツエの前に現れるようになった。底抜けに明るい父の台詞に著者のテーマと切実が込められている。

 

 父は「わしが現れるようになったのは先週の金曜日。その日図書館にやってきた山下さんをみて珍しいことにおまえの胸は一瞬ときめいた。そうじゃったな?」と語りだし、「山下さんを一目みたときのおまえのトキメキでわしの胴体ができ、そーっとついたおまえのため息からわしの手足が、自分の窓口へ来るように願がったことでわしの心臓ができておる」と娘に伝える。ここで泣ける。

 

 ミツエが地域の昔話を聞かせるお話会の練習をしているシーンがある。父はその話の結末が面白くないといい、こんな風に変えてはどうかとアイデアを出すが、ミツエは「話の筋を変えてはならない」と反発する。でも聴衆は父のアイデアはすでにミツエのもう一つの心の声と感じる。別のある日、父がミツエが山下さんから預かった原爆の遺留品の包みを開くと、箱には一瞬の爆風で全体が剣山のように棘を帯びた原爆瓦、被爆者の身体に食い込んだガラスの破片、高熱で捻じ曲がった薬瓶が入っていた。父はそれらを使ってミツエに桃太郎の話をしてみせる。見せ場の一つだ。松角洋平のそれは、近頃出色の演技だった。


 井上ひさしは、自身の物語の函に言霊としての “方言”、魂としての “切実” を周到に仕込んでいる。『父と暮せば』は全編にわたって広島弁のセリフだが、本番を共に観た広島の友人は舞台進行のままにさまざまな亡き人とのシーンが思い出されたと言う。これこそが、こまつ座がやり続けている仕掛けだ。

 

ISIS花伝所所長 田中晶子

 

 きのこ雲、焼け爛れた肌、焼失した街。こまつ座「父と暮せば」では、そのような映像は出てこない。ひたすらに茶の間で父と娘、二人だけの会話が繰り広げられる。広島弁で語られるあの時のこと。なぜ娘は助かり、父は助からなかったのか。そのことが、たった一行の父の台詞で強烈に伝わってきて、言葉により見えなかった映像が見えてしまった気がした。井上ひさしの言葉の力に命が吹き込まれて、私も見てしまったと思った。そのあとは泣きたいのを我慢するので精一杯だった。
言葉の力を感じたいなら、生の舞台を観に行くのがいい。私は来週も観に行く。

 

イシス編集学校師範 後藤由加里

 

▼関連記事

こまつ座「父と暮せば」をイシス編集学校の師範が観てみました 第1弾

▼ISIS co-mission こまつ座代表 井上麻矢×学長 田中優子 対談動画
『父と暮せば』を交わす。方言にある「ことばの力」

 

▼公演日程
https://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#more515

こまつ座第154回公演『父と暮せば』
【作】井上ひさし 【演出】鵜山仁
【出演】松角洋平 瀬戸さおり

【公演スケジュール】 
《東京公演》
2025年7月5日(土)〜21日(月・祝) 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

《地方公演》
7月25日(金)15:00開演 茨城公演 つくばカピオホール
8月2日(土)14:30開演 山口公演 シンフォニア岩国

上演時間:約1時間30分 ※休憩なし

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イシス・コミッション DO-SAY 2025年7月 https://edist.ne.jp/list/isis-comission-do-say-202507/ https://edist.ne.jp/list/isis-comission-do-say-202507/#respond Sun, 13 Jul 2025 23:30:19 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87715 イシス編集学校のアドバイザリー・ボード「ISIS co-mission」(イシス・コミッション)に名を連ねる9名のコミッション・メンバーたちが、いつどこで何をするのか、編集的活動、耳寄りニュースなど、予定されている動静を […]

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イシス編集学校のアドバイザリー・ボード「ISIS co-mission」(イシス・コミッション)に名を連ねる9名のコミッション・メンバーたちが、いつどこで何をするのか、編集的活動、耳寄りニュースなど、予定されている動静をお伝えしていきます。 

 

イシス編集学校で学ぶ皆さんが参加できるアクティビティも多数。読んでみたい記事や新刊にまつわる情報も満載。ぜひチェックしてみてください。 

 

今回は2025年6月半ば以降の情報をお届けします。

 


・「ISIS co-mission」とは?  https://es.isis.ne.jp/isis-co-mission 

・校長・松岡正剛とISIS co-missoinの情報をまとめて読むには? https://edist.ne.jp/mast/matsuokaseigo-isis-co-mission-info/ 


 

 

■2025年6月8日(日)  田中優子氏、メディア掲載

<時代を読む>幻を生きる人たち 田中優子・法政大学名誉教授・元総長(東京新聞、有料記事)

 

■2025年6月9日(月)  田中優子氏、メディア掲載

今日の視角 こまつ座(田中優子)(信濃毎日新聞デジタル、有料記事)

 

■2025年6月15日(日)

<大江戸残照トリップ 田中優子さんと歩く>(18)柴又・矢切 にぎわい 「寅さん」以前から(東京新聞、有料記事) 田中優子氏、メディア掲載

 

■2025年6月16日(月) 津田一郎氏、メディア掲載

津田一郎の『千夜千冊エディション』を謎る②『心とトラウマ』に「心の統合」という不思議を謎る(遊刊エディスト)

■2025年6月16日(月)  井上麻矢氏、メディア掲載

こまつ座戦後80年イベント「井上ひさしの魂を次世代へ」イベント詳細発表(ぴあ)

 

■2025年6月16日(月)  田中優子氏、メディア掲載

今日の視角 椿の海の記(田中優子)(信濃毎日新聞デジタル、有料記事)

 

■2025年6月16日(月)  田中優子氏、メディア掲載

江戸文化が「あたらしい専制とAIが支配する社会」を救う?(集英社新書プラス)

 

■2025年6月17日(火)  田中優子氏、メディア掲載

「分断と対立のSNS文化」を終わらせる新技術とは?(集英社新書プラス)

 

■2025年6月18日(水)  田中優子氏、メディア掲載

AIとの共存に必要な「編集能力」とは?(集英社新書プラス)

 

■2025年6月21日(土) 井上麻矢氏、メディア掲載

<土曜訪問>暮らし守る明かりに 父ひさしさんの反戦劇の上演続ける井上麻矢さん(こまつ座代表)(東京新聞、有料記事)

 

■2025年6月21日(土) 大澤真幸氏、登壇

戦争社会学研究会大会にて登壇(osawa-masachi.com)

 

■2025年6月24日(火) 鈴木健氏、登壇

【伊藤穰一×鈴木健×石川裕也】Plurality、なめらかな社会、ファン国家から考える課題と社会実装(https://gaudiy.connpass.com)

 

■2025年6月24日(火) 田中優子氏、イシスチャンネルLIVE配信

田中優子の「酒上夕書斎」第二夕(YouTube)

参考記事:https://edist.ne.jp/mast/yusyosai002/ 

 

■6月26日(木) 大澤真幸氏、登壇

朝日カルチャーセンターで「「世界史」の哲学」の講座を開催(osawa-masachi.com)

 

■2025年6月27日(金)  田中優子氏、メディア掲載

台湾の「デジタル民主主義」と日本の江戸文化の共通点とは…分断と対立を煽る「新たな帝国主義」に対抗する希望の道(集英社オンライン)

 

■2025年6月28日(土)  田中優子氏、メディア掲載

主張は違っても「協調し合えるポイント」を可視化できるソーシャルメディアツール「Pol.is」とは? インプ獲得のために「対立と分断」を煽るSNS文化とは異なる新たなデジタル技術(集英社オンライン)

 

■2025年6月29日(日)  田中優子氏、メディア掲載

AIは蔦屋重三郎になれるか? 「編集」に必要なビジョンとは?「AIで全部解決」という未来は来ない(集英社オンライン)

 

■2025年6月30日(月)  田中優子氏、メディア掲載

今日の視角 ジャーナリズム考(田中優子)(信濃毎日新聞デジタル、有料記事)

 

■2025年7月1日(火) 宇川直宏氏、メディア掲載

セオ・パリッシュ、9月に来日公演が決定(宇川氏による映像演出、nme-jp.com)

 

■2025年7月2日(水) 井上麻矢氏、こまつ座メディア掲載

松角洋平×瀬戸さおり、新たな“父と娘”が紡ぐ井上ひさしの名作『父と暮せば』(ぴあ)

 

■2025年7月2日(水) 田中優子氏、メディア掲載

【田中優子の学長通信】No.06 問→感→応→答→返・その2(遊刊エディスト)

 

■2025年7月7日(月)  田中優子氏、メディア掲載

今日の視角 デジタル民主主義(田中優子)(信濃毎日新聞デジタル、有料記事)

 

■2025年7月9日(水) 大澤真幸氏、登壇

橋爪大三郎 × 大澤真幸 『鎌倉仏教革命』をめぐる対話(サンガ新社 刊行記念オンラインセミナー)(osawa-masachi.com)

 

■2025年7月18日(金) 鈴木健氏、登壇

デジタル民主主義2030 MEETUP #3(peatix.com)

 

■2025年7月20日(日) 田中優子氏、登壇@本楼

ISIS FESTA<田中優子の「江戸の音」>with 西松布咏(遊刊エディスト)

 

■2025年7月26日(土) 田中優子氏、登壇

特別講演「江戸文化をひらく編集の秘密 ―蔦屋重三郎 江戸を編集した男―」(chienamiki.jp)

 

「こまつ座戦後80年イベント「井上ひさしの魂を次世代へ」(ぴあ より)

 

会場:東京・紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

■7月23日(水) 演劇×映画

13:00~ 舞台『木の上の軍隊(2016年版)』上映

〈普天間かおり トークショー+ミニライブ〉

 

■7月24日(木) 上映会

13:00~ 舞台『木の上の軍隊(2016年版)』上映

15:10~ 舞台『母と暮せば(2021年版)』上映

 

■7月25日(金) 上映会

13:00~ 舞台『母と暮せば(2024年版)』上映

14:50~ 舞台『木の上の軍隊(2016年版)』上映

 

■7月26日(土) 演劇×映画

13:00~ 舞台『木の上の軍隊(2016年版)』上映

〈平一紘監督 トークショー〉

 

■7月27日(日) 演劇×映画

13:00~ 舞台『母と暮せば(2024年版)』上映

〈富田靖子 トークショー〉

 

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◆随時 宇川直宏氏、ライブストリーミング

https://www.dommune.com/

 

 

以上、2025年7月「ISIS co-mission DO-SAY」をお届けしました。 

 

 


アーカイブ

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43[花]鐘と撞木と啐啄同時 https://edist.ne.jp/zest/43hana-kanetoshumoku/ https://edist.ne.jp/zest/43hana-kanetoshumoku/#respond Sun, 13 Jul 2025 03:00:45 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87676 Break by itself. 自分の殻を内側から壊す。これが破れだ。破るとは決意するということだ。   6月28日、[花]キャンプでの「ハイパー茶会プラン」のグループワークが始まった。開幕して38分後、道場 […]

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Break by itself. 自分の殻を内側から壊す。これが破れだ。破るとは決意するということだ。

 

6月28日、[花]キャンプでの「ハイパー茶会プラン」のグループワークが始まった。開幕して38分後、道場生のN.Y.がグループの口火を切った。プランナーは総勢28名。キャンプ2日間のGW総発言数は995。締切時刻までの1時間の発言数が129。28秒ごと発言が飛び交うという高速編集が繰り広げられた。N.Y.らが企画したハイパー茶会は「百期夜好(ひゃっきやこう)」。茶室をスナックに見立ててカウンター越しの亭主「ゆみママ」を設計した。同日19時、道場生と師範とがキャンプ地に再び集った。場をキャンプファイヤーに見立て、お互いが問答を通じてのフィードバックを交わす。恒例のキャンプ宵会だ。N.Y.は他組のハイパー茶会を参観し、自分のプランニング編集を省みた。N.Y.の内奥には忸怩たる思いが湧き上がる。進言したけれど見過ごされたプラン、引け目を感じて推し出せなかったプランがあった。N.Yは、心残りを「宵会」に吐き出して、いまの思いを一文に収めた。

●すべて、私自身の力不足なのです。(N.Y)

程なくして古谷奈々花伝師範がこう問いかけた。

●花伝式目の5Mで言うと、どの型がどのように不足しているんですか。FBかけてみて(古谷花伝師範)

師範はFBをかけるための鋏を差し出した。「力不足」という殻が罅割れた。不足では済まされなかった。そう思ったのではないか。N.Y.は反省の言葉ひとつを自分の盾にしていたのだ。この場を収めようとする「私」を真っ二つに裁つかのような鋭利な二枚の刃。一枚は「既知」と分かつため。もう一枚は「未知」に出会うため。自分と世界を接続するための番いの道具。それが「分節化」という鋏だ。「型」が「私」という情報を自由に変えてくれる。「問い」が残りの人生を冒険に向かわせる。「私」の殻を破る。N.Y.の編集方針は定まった。ターゲットの向こう側が見えたのではないだろうか。

 

機は熟した。7月5日は式目演習の最終お題である自己評価レポートの提出締切日だ。N.Y.は師範の問いに答えて決意を言葉にした。

●自分の目の前の日常で精一杯「問い」続ける。この毎日の私の小さな日々こそが、編集を社会することなのではないか。「生きる」ということではないか(N.Y)

破れた。「もっと生きたいんだ」と叫んでいる。「生きる」とまで言い切ったN.Y.の気概を諸手を挙げて讃したい。振り返ってみれば、この「生きる」姿を毎日の教室で示してきたのが、先達の師範と師範代であった。式目演習の学びは、単なる学習ではなく、数々の師範代の「生き様」を継承することにある。43[花]の指導陣が複数の師範像を継承してこの場に立つ。教える者と学ぶ者の啐啄同時は、型の継承の証しなのだ。

 初代の沢村宗十郎は「師匠は釣鐘のごとし、弟子は撞木(しゅもく)のごとし」と言った。本気で鐘をつけば、その音は里から山にまで届く。鐘はそこにあるだけで、音を出すのを仕向けるのは撞木のほうなのだ。ただし、「さあ、ここを突きなさい」と鐘も言う。それを撞木が突いていく。その鐘の音はうんと遠くでも、よくわかる。この宗十郎の言葉、いまでも肝に銘じている。(1252夜 『守破離の思想』 藤原稜三

鐘はいつでも突かれる覚悟にある。撞木を突くとは「決める」を果たすことである。

 

文/齋藤成憲(43[花]錬成師範)

アイキャッチ/大濱朋子(43[花]花伝師範)


【第43期[ISIS花伝所]関連記事】
43[花]習いながら私から出る-花伝所が見た「あやかり編集力」-(179回伝習座)
『つかふ 使用論ノート』×3×REVIEWS ~43[花]SPECIAL~
『芸と道』を継ぐ 〜42[花]から43[花]へ
位置について、カマエ用意─43[花]ガイダンス
フィードバックの螺旋運動――43[花]の問い
<速報>43[花]入伝式:問答条々「イメージの編集工学」
43[花]入伝式、千夜多読という面影再編集

スコアの1989年――43[花]式目談義

43[花]描かれた道場五箇条、宵越しの波紋をよぶ

43[花]特別講義からの描出。他者と場がエディティング・モデルを揺さぶる

松岡校長と探究するコップの乗り換え 43[花]

仮想教室名があるから自由になれる 43[花]

43[花]1ビットから類推する沖縄とネパール

絶対矛盾的相互編集キャンプ!

トランジット・ワークするキャンプ!

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【書評】『世界で一番すばらしい俺』×3×REVIEWS:生きるために歌う https://edist.ne.jp/nest/ore_%ef%bc%93_reviews/ https://edist.ne.jp/nest/ore_%ef%bc%93_reviews/#respond Sat, 12 Jul 2025 22:59:50 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87611 松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、それぞれで読み解く「3×REVIEWS」。 空前の現代短 […]

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松岡正剛いわく《読書はコラボレーション》。読書は著者との対話でもあり、読み手同士で読みを重ねあってもいい。これを具現化する新しい書評スタイル――1冊の本を3分割し、それぞれで読み解く「×REVIEWS」。

空前の現代短歌ブームといわれて久しい昨今、今回は歌集『世界で一番すばらしい俺』を取り上げます。推薦者はチーム渦メンバー・羽根田月香。たやすく死に向かうように見える若者の言葉をどう拒絶し、嫌悪し、偏愛していったのか。ゲストライター含め総勢5人で挑んだ受容の読書の軌跡を、それぞれが選んだ3首とともにご覧ください。


 

 × REVIEWSのルル3条

ツール:『世界で一番すばらしい俺』工藤吉夫歌集(短歌研究社)

ロール:評者 羽根田月香/大濱朋子/長谷川絵里香/吉居奈々/乗峯奈菜絵

ルール:1冊の本を3分割し、それぞれが担当箇所だけを読み解く。

 

1st Review ―羽根田月香

(目次)

校舎・飛び降り

うしろまえ

眠り男

仙台に雪が降る

〈選んだ3首〉

・十七の春に自分の一生に嫌気がさして二十年経つ

・バカにしているのを見やぶられかけて次の細工は丁寧に編む

・3個入りプリンを一人で食べきった強い気持ちが叶えた夢だ

人気女優を配した広告用の表紙カバー、その帯をめくれば暗い河原に遠く灯がにじむ、涙のような夜景が広がっていた。本歌集のすべてはきっと、この表紙に凝縮されている。音楽部に属し、恋して振られ、のっけから校舎を飛び降りた高校時代の「俺」。たぶん虐めや嘲笑の対象となってもいる。2首目に見られる、相手へのふるまいを「細工」と呼ぶ冷えた感性、そして3首目の滑稽味が突き抜けて、俺の物語をつらぬいていた。後ろ前に着ていたTシャツが生きづらさの原因だったと書く俺は、夜の河原を幾度も訪れたのだ。本歌集は短歌研究新人賞を受賞、主演の剛力彩芽の企画提案で2021年に映画化された。できれば彼女のアップの表紙カバーははずして、黒い河原の背表紙のままで、そっと本棚に置いておきたい。

 

〈返歌〉

「きっと好き」と君がえらんだ本であるまんまと好きで好きで笑った(チーム渦・羽根田)

 

 

2nd/3rd Review ―大濱朋子/長谷川絵里香

(目次)

魂の転落

黒い歯

ピンクの壁

車にはねられました

この人を追う

〈選んだ3首〉

・風景を見ているつもりの女生徒と風景である俺の目が合う

・腰を打つ 仰向けで 「アア!」「アア!」と言う 道路の上で産まれたみたい

・遠近感狂いはじめて森林が心の奥にあるようである

帯にある「校舎から飛び降り」に嫌悪さえ抱いた読み始め。31文字がまとう痛ましい余白は、しだいに私の隙間を刺激した。浮遊した眼差しは他者と交わる一瞬を逃さず、予期せぬ痛みは何度でも生まれ変わることを達観するかのよう。いびつな感性は思春期を過ぎてもなお、人へ物事へ自然へ問いかけ続けることで自らの存在を確認する。そんな歌人から吐き出された表象は、生きるために綴った宛名のないラブレターのようだ。

 

〈返歌〉

彼方から此方をみてる眼差しはかつての自分落とした「わたし」(チーム渦・大濱)

 

〈選んだ3首〉

・メガホンを持って応援する者のメガホンの中にある口うごく

・まぶしがる顔といやがっている顔の似ていてオレに向けられたそれ

・うるせえと注意している声だけがオレの耳まで無事たどりつく

早口言葉みたいな句に、思わず音読したくなる。だが声に出した景色からは不思議と音が聞こえてこない。叫ぶ口はさぞ騒がしいだろうに、まるで外界から遮音された透明の部屋の中で世界を見ているようだ。応援の声、目や眉を顰める顔は、誰から誰へ向けられたものだろう。想像で余白を埋めてみれば、オレに気づきもしない声と、オレに向かう視線の中に、繊細で強烈な劣等感と疎外感が滲んで見える。「うるせえ」と注意する声の主が、そんな自己否定に抗うオレなのだとしたら、書名は否定と肯定の間で明滅するオレの良心なのかもしれない。

 

〈返歌〉

逆光に立ったオレが眩いと思い返せど三十路過ぎ(チーム渦・長谷川)

 

 

4th/5th Review ―吉居奈々/乗峯奈菜絵

(目次)

人狼・ぼくは

おもらしクン

まばたき

ぬらっ

すばらしい俺

〈選んだ3首〉

・マーガリンの違いだったら知らねえなマーガリン野郎に訊けばいいだろ!

・この当時オレが笑っていたなんて信じ難いが夏の一枚

・甘口の麻婆豆腐を昼に食い夜に食うただ一度の人生

子どもは社会の宝だとか、何でもない日がすばらしいだとか、社会通念は生活上必要だ。多数が賛成していてむやみに喧嘩にならない。だが歌人はそうした期待がしのび寄る前に裏切っていく。既視感のある、輝かしくなりそうな気配はひたすらみすぼらしくする。世界を足蹴にしつつ、その実とても純粋に世界を切り取ろうとする。「俺」は反語のインターフェイスだ。

 

〈返歌〉

売られてもない喧嘩を買うやつの歌に惚れるの負けな気がする(チーム渦・吉居)

 

〈選んだ3首〉

・がんばろう?それは地震のやつですか今それオレに言ったんすかね

・赤や白や黄色のチューリップがあって近づけばオレの影で真っ黒

・膝蹴りを暗い野原で受けている世界で一番すばらしい俺

ガラスの破片を飲まされているような痛さを感じた。胸を打たれるというより抉られる。でも何かが響く。怒り、拒絶し、不信がり、いたたまれず、無気力で、笑い、泣き、愛し、皮肉り、諦観するオレ。そんな「オレ」が最後に「俺」になった。「暗い野原」が醸す底知れぬ深みで「俺」に見えた世界とは。たくさんのオレが放つ心の通奏低音に浸かっていると、ワタシの何かが剥き出しになる。これほどひりつく歌集は初めてだ。

 

〈返歌〉

立ちすくむ足元に影背に光心の信号どちらが青だ(33花放伝・乗峯)

 

 

『世界で一番すばらしい俺』

工藤吉生/短歌研究社/令和2年7月20日発行/1500円

 

■目次

校舎・飛び降り

うしろまえ

眠り男

仙台に雪が降る

魂の転落

黒い歯

ピンクの壁

車にはねられました

この人を追う

人狼・ぼくは

おもらしクン

まばたき

ぬらっ

すばらしい俺

あとがき

 

 ■著者Profile

工藤 吉生(くどう よしお)

1979年千葉県生まれ。宮城県にある通称「黒高」を卒業。30代前半に枡野浩一編『ドラえもん短歌』(小学館)で短歌に興味を持ち、インターネットを中心に短歌を発表し始める。2017年「うしろまえ」(20 首)未来賞受賞。2018年「この人を追う」(30 首)第61回短歌研究新人賞受賞。2020年第一歌集『世界で一番すばらしい俺』(短歌研究社)刊行。2021年『世界で一番すばらしい俺』が、主演:剛力彩芽/監督:山森正志により映画化。2024年第二歌集『沼の夢』(左右社)刊行。アリスという名の愛猫と共に宮城県在住。

 

出版社情報

 

3×REVIEWS(三分割書評)を終えて

歌集の扉に「表紙写真/著者」と書かれていたのが気になり、版元に問い合わせた。撮影したのは間違いなく著者で、何を撮ったかは「本人でないと分からない」と素気ない返答があった。あぁ、膝蹴りを受けた野原を撮ったのだな、と思った。それも版元にも伝えずに。歌人川野里子は、現代の短歌に見られる生きづらさには〝外がない〟と評したけれど(短歌研究第76巻)、彼らの言葉の外側に置かれてしまうのは、うかうかしていると我々大人のほうなのかもしれない。(羽根田)


 

これまでの× REVIEWS

安藤昭子『問いの編集力』×3× REVIEWS

ブレディみかこ『他者の靴を履く』×3× REVIEWS

福原義春『文化資本の経営』×3×REVIEWS

鷲田清一『つかふ 使用論ノート』×3×REVIEWS(43[花])

前川清治『三枝博音と鎌倉アカデミア』×3×REVIEWS勝手にアカデミア
四方田犬彦編『鈴木清順エッセイコレクション』×3×REVIEWS勝手にアカデミア

ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史(上巻)』
ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史(下巻)』

白石正明『ケアと編集』×3×REVIEWS

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こまつ座「父と暮せば」をイシス編集学校の師範が観てみました https://edist.ne.jp/post/chichitokuraseba/ https://edist.ne.jp/post/chichitokuraseba/#respond Sat, 12 Jul 2025 04:06:48 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87689  こまつ座「戦後”命”の三部作」の第一弾「父と暮せば」(井上ひさし作/鵜山仁演出)が現在公演中です。時空を超えて言葉を交わし合う父と娘の物語。こまつ座がライフワークとして大切な人をなくしたすべての […]

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 こまつ座「戦後”命”の三部作」の第一弾「父と暮せば」(井上ひさし作/鵜山仁演出)が現在公演中です。時空を超えて言葉を交わし合う父と娘の物語。こまつ座がライフワークとして大切な人をなくしたすべての人に捧げる「父と暮せば」。舞台を観劇したイシス編集学校の師範による感想をお届けします。

 

 『父と暮せば』の出演者は、たったの2人。原爆投下から3年後の広島で、家族も友人も亡くし独りぼっちで生きる23歳の娘と、彼女を励ますために幽霊になって出てきた父親の対話劇です。宮沢りえ・原田芳雄主演で映画にもなっています。映画を見ていましたので、内容はわかっていたのですが、それでも後半はもう涙が止まりませんでした。


 広島の原爆のことを教科書的には知っていても、その悲惨を、身をもって知ることはできません。でも、被爆を経験した人になりかわって語り、演じる人のおかげで、ひととき想像することができたのです。父を助けることができず、自分だけが生き残った娘の自責の気持ちは、観る者の心も大波のように揺らします。

 

 井上ひさしさんが想像し、演出家の鵜山仁さん、俳優の松角洋平さん、瀬戸さおりさんが想像し、観客も想像して、普通の人にふりかかった耐えがたい苦しみが、世代を超えて伝わってゆく。太古の時代に民の歴史、神話や伝説が伝えられたのと同じことだと思います。

 

 俳優さんが目の前で演じるお芝居は、お芝居だけれどホンモノです。劇場にひびく父と娘の広島弁は、聞きなれない言葉のはずなのに、すぐに親しいものになりました。考え抜かれた言葉が、全身全霊で語られ、五感を全開にした観客に染みわたってゆく。忘れてはいけないことが、忘れられない物語として心に刻まれました。

 

イシス編集学校[破]学匠 原田淳子

 

 戦後も80年を迎え、戦前・戦中世代が鬼籍に入ってゆく中で直接に戦争体験を聞くことが困難となりつつある今、『父と暮せば』の上演は、あの戦争がもたらした哀切に「触れる」ための、小さくて巨大な回路だと思った。都度反復される演劇が、しかしそのときその舞台かぎりただ一回の迫真性を帯び、そしてその一回の迫真が、うしろに引き連れ象徴し束ね上げているのだろう無数の現実にあった広島の生を想像させ、途方もない原爆の記憶風景のうちに投げ出され口をつぐまざるを得なかった。

 

イシス編集学校師範 バニー蔵之助

 

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こまつ座「父と暮せば」をイシス編集学校の師範が観てみました 第2弾

▼ISIS co-mission こまつ座代表 井上麻矢×学長 田中優子 対談動画
『父と暮せば』を交わす。方言にある「ことばの力」

 

▼公演日程
https://www.komatsuza.co.jp/program/index.html#more515

こまつ座第154回公演『父と暮せば』
【作】井上ひさし 【演出】鵜山仁
【出演】松角洋平 瀬戸さおり

【公演スケジュール】 
《東京公演》
2025年7月5日(土)〜21日(月・祝) 紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA

《地方公演》
7月25日(金)15:00開演 茨城公演 つくばカピオホール
8月2日(土)14:30開演 山口公演 シンフォニア岩国

上演時間:約1時間30分 ※休憩なし

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イシス館書棚見回り「書庫邏隊」いよいよ始動―「2025春の陣」その2 https://edist.ne.jp/list/chocola02/ https://edist.ne.jp/list/chocola02/#respond Fri, 11 Jul 2025 23:12:52 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87651 ゴートクジ・イシス館住人たちが一念発起し結成した書棚見回り隊、その名も「書庫邏隊」(ショコラ隊)が、松岡正剛譲りの書物愛を奮い立たせて選書の腕を競いあう「春の陣」。このたびようやくその第2弾が井寸房にお目見えしました。第 […]

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ゴートクジ・イシス館住人たちが一念発起し結成した書棚見回り隊、その名も「書庫邏隊」(ショコラ隊)が、松岡正剛譲りの書物愛を奮い立たせて選書の腕を競いあう「春の陣」。このたびようやくその第2弾が井寸房にお目見えしました。第1弾同様、今回も、本とともに選者によるレコメンドカードを添えてあります。

 

井寸房のディスプレイ棚は、2~3週間ごとに入れ替え予定。イシス館においでの際は、ぜひ実際に本を手に取り、御覧ください。

 


ショコラ隊「2025春の陣」その2

 *本の順番はイシス館の書棚構成に沿っています


〇『世界文学としての方丈記』プラダン・ゴウランガ・チャラン 法蔵館2022年

・・・『方丈記』がコロナロックダウン下のイギリスで注目されたわけ(選・安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『怪物たちの食卓 物語を食べる』赤坂憲雄 青土社 2024年

・・・「喰う/喰われる」をめぐる赤坂フィールドワークの精華。さて怪物の正体とは(選・安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『奴隷と家畜 物語を食べる』赤坂憲雄 青土社 2023年

・・・生きることは殺すこと。人間存在の深淵をめぐるフィールドワークエッセイ(選・安藤昭子+渡辺敬子)



〇『中世寺院の風景  中世民衆の生活と心性』細川涼一 法蔵館文庫 2024年

・・・民衆生活とともにあった寺院と信仰のあり方を見つめる(選・安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『中世の都市と非人 武家の都鎌倉・寺社の都奈良』松尾剛次 法蔵館文庫 2024年

・・・中世鎌倉・奈良における非人政策とその救済の実態を解く(選・安藤昭子+渡辺敬子)

 

 

〇『江戸という幻景(新装版)』渡辺京二 弦書房 2023年

・・・江戸の人びとの日記や紀行を通してはかる逝きし世の日本人の心性(選・安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『江戸庶民の読書と学び(新装版)』長友千代治 勉誠社 2025年

・・・江戸に開花した多様な出版文化から、日本の教養形成のあり方を描き出す(選・安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『江戸吉原の経営学』日比谷孟俊 笠間書院 2018年

・・・妓楼経営者たちの手腕から、経済文化の両輪をまわすマネジメントを学ぶ(選・安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『見て楽しむ  江戸時代の暮らしと文化の絵事典』安藤優一郎 成美堂出版 2024年

・・・江戸庶民のライフスタイルとともに江戸のシステムを見渡す一冊(選・安藤昭子+渡辺敬子)

 

〇『日々のきのこ』高原英理 河出書房新社 2021年

・・・豊饒なオノマトペと造語によって綴られる虚実皮膜のきのこワールド(選:濱田文香)


 

〇『ブリュメール18日 革命家たちの恐怖と欲望』藤原翔太 慶應義塾大学出版会 2024年

 ・・・“ナポレオンの革命”をもたらした民主主義と権威主義の危うい関係(選:太田香保)

 

〇『中東 世界の中心の歴史 395年から現代まで』ジャンピエール・フィリユ 中央公論新社 2024年

 ・・・イスラムに拠点を置いて、紋切りの東西対立型世界観を痛烈に打破する(選:太田香保)

 

〇『ウクライナ全史 ゲート・オブ・ヨーロッパ』上下巻 セルヒー・プロフィー 明石書店 2024年

 ・・・ロシアによるウクライナ侵攻直前に刊行された本書から、両国関係史を学びなおしたい(選:太田香保)


 

〇『痛み、人間のすべてにつながる 新しい疼痛の科学を知る12章』モンティ・ライマン みすず書房 2024年

 ・・・内なる複雑系としての「疼痛ネットワーク」が科学社会観の変更を促す(選・橋本英人)

 

〇『修道制と中世書物』大貫俊夫編 八坂書房 2024年

 ・・・グーテンベルク以前の書物文化を担った修道士たちの宗教力と創造力(選:太田香保)

 

〇『すばらしい孤独 ルネサンス期における読書の技法』リナ・ボルツォーニ 白水社 2024年

 ・・・書物を「精神の鏡」とみなすことで、知られざるルネッサンス期の読書のあり方を繙く(選:太田香保)

 

〇『書くことのメディア史  AIは人間の言語能力に何をもたらすのか』ナオミ・S・バロン 亜紀書房 2025年

 ・・・紙片からディープラーニングまで、「書くこと」の壮大な変遷史(選:橋本英人)

 

〇『アヴァンギャルドとジェンダー イタリア・ドイツ・ロシアの前衛芸術と文学』西岡あかね 東京外国語大学出版会 2025年7月7日

 ・・・アート界の強固な“保守同盟”に抗った前衛女性アーティストたちの勇姿(選:太田香保)




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イシス館書棚見回り「書庫邏隊」いよいよ始動―「2025春の陣」その2

イシス館書棚見回り「書庫邏隊」いよいよ始動―「2025春の陣」その1

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べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十六 https://edist.ne.jp/nest/taigabakka_026/ https://edist.ne.jp/nest/taigabakka_026/#respond Fri, 11 Jul 2025 12:43:20 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87694  「語ること」が評価され、「沈黙」は無視される。けれど私たちは、ほんとうに語りきれているだろうか。語る資格を問う社会、発信する力に価値が置かれる現代。そのなかで、“語れなさ”が開く物語が、ふたたび私たちに、語りの意味を問 […]

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 「語ること」が評価され、「沈黙」は無視される。けれど私たちは、ほんとうに語りきれているだろうか。語る資格を問う社会、発信する力に価値が置かれる現代。そのなかで、“語れなさ”が開く物語が、ふたたび私たちに、語りの意味を問いかけてくる。

 大河ドラマを遊び尽くそう、歴史が生んだドラマから、さらに新しい物語を生み出そう。そんな心意気の多読アレゴリアのクラブ「大河ばっか!」を率いるナビゲーターの筆司(ひつじ、と読みます)の宮前鉄也と相部礼子がめぇめぇと今週のみどころをお届けします。

 


 

第二十六回「三人の女」

 

語りの政治とパフォーマティヴィティ──許されざる声の倫理

 

 物語において、「語る者」とは主人公、あるいは実際に最も多く発言しているキャラクターを指すわけではありません。もっと深く問うべきなのは、「誰が語ることを許されているのか」ということです。つまり、ある出来事や気持ちについて“語っていい”とされる人と、そうでない人がいるとしたら──その差はどのように決まっているのか、という問題です。

 

 これは、単なる個人の話術や才能ではなく、社会や制度がどのような人の言葉を「信じるに値するもの」とみなすかという構造の問題です。たとえば、肩書のある人の話は重く受け止められ、名前のない人の声はかき消される。これは語りの内容ではなく、「誰が語っているか」によって、その重みや正当性が左右されてしまうという現象です。

 

 このように、語りとはただの表現ではなく、何をどう語れるか、そもそも語る権利が与えられるかという〈見えないルール〉に支配されているのです。これを「語りの政治」と呼ぶことができます。

 

 大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』は、まさにこの「語りの政治」を根底から問い直す試みとして構築された物語です。とくに第二十六回では、制度的な語りの外側に位置づけられてきた三人の女──つよ・唐丸(歌麿)・てい──が、それぞれの〈語れなさ〉を抱えたままに発する周縁の語りによって、蔦屋重三郎という「語りをつなぐ者」に新たな中心性を与えていくプロセスが描かれました。

 

 ここで言う「女」とは、生物学的な性別ではなく、〈制度〉が規定する語りの枠組みに対する〈逸脱〉としての立場を意味します。換言すれば、「男=制度=語れるもの」とされてきた構造の外に置かれた存在としての「女」です(※本稿での「女」という言葉は、社会的に語ることを許されにくかった立場を象徴的に指すものであり、性差に基づく価値判断とは一線を画しています。実際、近代文学における語りの変革は、しばしば女性の筆によってもたらされたことを忘れてはなりません)。この構造的な位置づけは、哲学者ジュディス・バトラーが提唱する「パフォーマティヴィティ」──つまり性別や主体性が社会の中で繰り返し演じられ、制度的に形づくられるという考え方とも通じています。

 

つよ──制度の外部に棲む「身体知」としての語り

 

 蔦重の母・つよは、江戸という制度都市の〈外部〉から流れ込んできた、語りの野生とも言える存在です。飢饉と貧困に喘ぐ下野で髪結いとして生き延びてきた彼女は、戸籍にも、問屋制度にも記されることのない「名を持たぬ者」として、社会の網の目からこぼれ落ちた場所に身を置いてきました。理屈ではなく勢いで、計画ではなく嗅覚で、人と場を読み取り動かすその身ぶりには、制度が語りを整序する以前の、より根源的な力が宿っているように見えます。

 

 例えば、人の家に居候するやいなや、勝手にお客を呼び込んで髪結いを始め、そのついでに新刊の本を宣伝してしまう。この行動は、言葉で説得するのではなく、その場の空気を瞬時に読んで状況を自分のペースに塗り替える「生きる知恵(身体知)」の発露です。そして、息子・蔦重の「編集者」としての才覚も、この母の「身体知」がルーツになっていると考えられます。ルールに全面的に従うわけでもなく、ほんの少しだけ“ズラして”面白くするという彼の手法は、つよの「身体知」を出版の世界で応用したものと言えるでしょう。


 ここで重要なのは、つよが社会に反抗して、意図的にルールを壊そうとしているわけではない点です。彼女はただ、自分らしくパワフルに生きているだけ。しかし、その生き方自体が社会の「当たり前」とズレているため、結果的に制度のルールを揺さぶってしまうのです。

 

 こうした「ズレが社会を動かす」という考え方は、ジュディス・バトラーの「パフォーマティヴィティ」とも重なります。これは、「男らしさ」や「女らしさ」といったものは生まれつきではなく、社会のルールに従って皆が演じることで作られる。しかし、誰もその役を完璧には演じられないため、必ずそこに“ズレ”が生じる。そして、その“ズレ”の積み重ねが社会を変えていくきっかけになる、という考え方です。

 

 つよはまさに、この“ズレ”を体現する存在です。彼女は制度の中心にいるわけではありませんが、その周縁から、静かに、しかし確実に社会のバランスを揺さぶっています。このパワフルで逸脱的な生き方は、目には見えない形で、息子・蔦重の中に確かに受け継がれているのです。


唐丸──自己なき模倣者の創造性とズレの倫理


  唐丸(歌麿)は、絵師として並外れた模倣の技術を持ちながら、「自分の絵がない」「固有の様式を確立していない」と評されてきた人物です。しかし、まさにこの「自分を持たない」ことこそが、彼の創造の中核にあるとも言えるのです。

 

 制度はしばしば「自分らしさ」や「唯一性」を価値の基準とします。語りの制度においても同様に、特異な文体や独自の視点といったオリジナリティが、承認や評価の前提とされます。けれども唐丸(歌麿)は、その軸を意図的に、或いは無意識に、するりとすり抜けて生きてきました。彼は自己を内面に確保するよりも、他者の語りや形式を写し取り、自らを媒介の場として構成していきます。

 

 唐丸(歌麿)の語りは、「私が語る」のではなく、「語りが私を通過する」に近い。それは、ジュディス・バトラーが論じる〈パフォーマティヴィティ〉──制度的規範を反復しつつ、そこに生じるズレや逸脱を通して制度を内側から撹乱する行為──のもうひとつの変奏でもあります。唐丸は「語る主体」になることを拒みながら、むしろ「ズレとして語られる身体」そのものへと変貌していくのです。

 

 このような唐丸(歌麿)の在り方は、現代のデジタル文化にも接続可能です。たとえば、SNSのなりきりアカウント、Vチューバー、ボーカロイド、ミーム──いずれも「自己なき模倣」「オリジナルの不在」を前提にした表現です。そこでは、「誰が語ったか」よりも、「どのようにズレて再演されたか」が創造の鍵となる。唐丸(歌麿)は、まさにそうした〈再演の回路〉として作動しているのです。

 

 蔦重にとって唐丸(歌麿)は、語りの自我を持たないが故に、他者性を無限に引き受けられる存在でした。媒介であることを引き受け、自己を主張せずに通過させる──それは、編集者にとって扱いやすいだけでなく、制度を内側から変容させるラディカルな可能性を秘めています。蔦重は唐丸(歌麿)を通じて、制度の形式を壊さずにすり抜け、逸脱の種を蒔くことができる。だからこそ蔦重は、唐丸(歌麿)を弟と呼び、語りの制度を更新する存在としての可能性に賭けているのです。

 

てい──語らないことの倫理、逸脱の力としての沈黙

 

 蔦重の妻・ていは、自らを「つまらぬ女」と称し、「華やかさも商才もない」として、蔦屋の女将に相応しくないと語ります。その語りは、反抗でも戦略でもなく、ただ誠実な自信のなさと、率直な劣等感の表出にすぎません。しかし、この“語れなさ”の身ぶりこそが、制度の語りを揺るがす倫理的な逸脱として機能していくのです。

 

 ていは語ります。

「江戸一の利き者の妻は、私では務まらぬと存じます。私は、石頭のつまらぬ女です。母上様のような客あしらいもできず、歌さんや、集まる方たちのような才があるわけでもなく、できるのは帳簿をつけることくらい。今をときめく作者や絵師や狂歌師、さらにはご立派なお武家様まで集まる蔦屋でございます。そこの女将には、もっと華やかで才長けた、例えば、吉原一の花魁をはれるような、そういうお方が相応しいと存じます」

 

 この語りは、自分を「語るに値しない」とみなす感情に動かされています。けれども、ていがその理由として挙げる「華やかさ」「社交性」「目立つ才能」こそが、語りの制度が無意識のうちに語り手に課している条件なのです。つまり、ていの沈黙や引き下がりのふるまいは、そのまま制度が規定する「語れる者/語れぬ者」の境界線を露呈させる行為であり、結果として制度そのものを批評する力を帯びていきます。

 

 このような「語らなさ」が制度批評として立ち上がる構造は、ジュディス・バトラーの「パフォーマティヴィティ」──語りやジェンダーの役割は社会制度の反復的演技によって形づくられ、常にズレや破綻を含みながら再生産されるという思想──とも通じます。バトラーは、語ることの不可能性や沈黙そのものが、制度の裂け目を指し示すことがあると論じています。ていの「語れない語り」は、まさにこの沈黙のパフォーマティヴィティに他なりません。

 

 ここで重要なのは、ていが「黙ること」で物語から消えていくわけではないという点です。彼女は、ただ「語らない」のではなく、「語れないということを語る」存在なのです。そのパラドクスにこそ、語りの倫理の原点があります。

 

 その語りを受けた蔦重の応答は、彼女の“語らなさ”を、別の角度から肯定します。蔦重の十八番である“ズラし”の語りです。

 

「そりゃあ、随分な言い草ですね。あんたは江戸一の利き者だ。けど、てめえの女房の目利きだけはしくじった。おていさんはそう言ってんですよね」

 

 さらに、蔦重は続けます。

 

「おれは、おていさんのこと、つまんねぇって思ったことねえですぜ。説教じみた話は面白えし。陶朱公のように生きろって。この人、まともな顔してめちゃくちゃ面白れぇって思いましたぜ」

 

 ここで蔦重は、ていの「逸脱の語り」を読み取り、その面白さを認めています。すでに彼女には「語りの形式」を変える力が備わっていると断言しているのです。そして最後に、蔦重はこう言葉を重ねます。

 

「出会っちまったって思ったんです。俺と同じ考えで、同じ辛さを味わってきた人がいたって。この人なら、この先、山があって谷があってもいっしょに歩いてくれんじゃねえか。いや、いっしょに歩きてえって」

 

 この言葉には、語りの“能力”ではなく、語りをめぐる“経験”を共有する者としての、深い共振が宿っています。制度にうまく適応できなかった記憶、語ることを許されないと感じた時間──そうした〈語れなさの記憶〉こそが、語りの倫理の出発点たり得る。蔦重は、かつての自らの漂泊と挫折のなかで、痛みとともにそのことを体得しました。そして今、目の前に、同じ痛みを知る女性がいる。だからこそ彼はていに語ります。あなたこそが、語りの倫理を共に歩める存在だ、と。

 

 ていは、自らを「つまらぬ女」と呼びながらも、その沈黙と語れなさのうちに、物語を組み替える力をひそかに宿していました。彼女の語りは、制度を声高に告発するものではありません。むしろ、語りの片隅で微かにずれていくことで、その輪郭を静かに揺るがせていく。その身ぶりは、語りの資格を〈声〉ではなく〈経験〉に、〈中心〉ではなく〈周縁〉に見出そうとする蔦重の編集倫理と深く響き合っています。

 

 このシーンが描くのは、「語られなさ」にこそ語りの未来が宿るという逆説です。編集工学における「地と図」の型に照らせば、語れなかった者が語りに触れようとする──その祈りにも似た運動こそが「図」となり、それを支える蔦重とていの契りが、沈黙の深みに根ざした「地」として提示されているのです。

 

中心に触れる涙──唐丸の「語られなさ」への祈り


 夜、蔦重とていがようやく本当の夫婦として関係を結ぶその傍らで、唐丸(歌麿)がそっと涙を流しながら「よかったな、蔦重」とつぶやくシーンがあります。このささやかな挿話は、『べらぼう』という物語の深部にひそむ〈語りの政治性〉が最も繊細に浮かび上がった瞬間です。

 

 唐丸(歌麿)は、自分には語る資格がない──そう感じるあまり、蔦重のもとを離れようとしていました。画才はあっても自我はなく、制度に名を持って参入することができない。そんな彼にとって、蔦重とていの契りは特別な光景でした。「耕書堂にふさわしくない」とされていたていが、語れなさごと包み込まれて承認された。そして同時に、吉原者として軽んじられてきた蔦重が、日本橋の格を象徴する女性に受け入れられた。その瞬間、唐丸(歌麿)は、他者の語りを通して“代わりに救われた”ような感覚に満たされたのです。

 

 語られなかった者が、他者の語りによって、間接的にではあれ制度の中心に一瞬触れることができた──この構造は、ジュディス・バトラーが論じた「言語化されない存在が、他者の承認によって可視性を得る」という倫理的契機とも重なります。

 

 ていの「語れないということ」をめぐる語りは、唐丸(歌麿)の孤独を濯ぎました。唐丸(歌麿)の涙は、制度の周縁から放たれた、ささやかで深い祝福であり、語りの未来への祈りにほかなりません。


語りたくなさの文学──現代、そして文学史への接続


 『べらぼう』が提示する批評性は、あからさまな制度批判ではありません。むしろ、「語れなさ」や「語りたくなさ」「自信のなさ」といった素直な感情のなかに、語りの制度を内部から照らし出す力が宿っているのです。語れない者がいる、語りたくない者がいる──その事実が、誰に語る資格があるのかという前提を揺るがし、制度そのものの輪郭をあらわにしていきます。

 

 この問いかけは、現代においてとりわけ切実な響きを持ちます。SNSに代表される表現の時代において、「語らない」ことは、単なる沈黙や発信の失敗として切り捨てられがちです。しかし、ほんとうにそうでしょうか。語らないという選択そのものが、むしろ語りの構造への異議申し立てとなりうるのではないか──『べらぼう』は、こうした逆説に私たちの視線を向けさせます。

 

 このような「語らなさ」の倫理は、現代文学の核心的テーマであり、歴史的にも深い表現の源泉でした。その傑出した実践が、トニ・モリスンの『ビラヴド』に見ることができます。

 

 この作品は、アメリカ奴隷制という国家的トラウマを背景に、「語りえなさ」と共に生きる者たちの沈黙を描き出します。主人公のセテが、奴隷から逃れるために自らの娘を手にかけた──その痛ましい出来事は、誰も語ることができず、物語の中心にぽっかりと穴を開けています。作中の登場人物たちは、沈黙し、断片的に回想し、忘却しようとします。しかしその不在こそが、逆説的に圧倒的な存在感を放ち、制度が押し隠してきた歴史を浮かび上がらせるのです。

 

 特筆すべきは、「ビラヴド」として現れる亡霊の娘が、自らの素性を語らず、ただその“いる”という存在の重みで過去を侵入させてくること。語られぬままの記憶が沈黙を媒介に現在へと押し寄せる──モリスンはこれを「リメモリー(再記憶)」と呼び、語れないことの文学的、歴史的意義を深く掘り下げました。

 

 このようなビラヴドの構造に照らせば、『べらぼう』における「てい」や「唐丸」たちの語らなさ──語る資格がないとされた者の沈黙──もまた、単なる抑圧ではなく、語りの刷新を導く潜勢力として浮かび上がってきます。制度の外部から語られる声なき声。それがもっとも深く、制度の構造に亀裂を入れる力を持っているのです。


逸脱が中心を立ち上げる──蔦重という〈場=トポス〉の生成

 

 『べらぼう』における蔦重は、語りの中心として物語を牽引する人物でありながら、その成立のあり方は決して自己完結的なものではありません。むしろ彼は、制度の外側にいた者たち──つよ、唐丸、てい──という周縁的な存在を媒介することによって、〈中心=トポス〉として構成されていったのです。

 

 中心とは、制度における権威や発信力を象徴する「主語」ではなく、語り得ぬものたちのズレや逸脱を編み込み、位置づけ直すための「交差点」として立ち現れる。蔦重はまさにそのような〈場〉=編集的中心として構築された存在でした。

 

 言うまでもなく、蔦重が語りの〈中心〉となったのは、彼自身が力強く語ったからではありません。語られぬ声を聞き、逸脱を受け止め、形式をズラすことを可能にした「トポスとしての編集性」に、その本質があったのです。この「場としての中心」は、まさに制度の語りが無視し続けてきた「語れなさ」から生まれました。語りとは、語れる者が主導するものではなく、語れないものたちとの関係性の中で編まれていく。その構造を体現しているのが、蔦重というキャラクターなのです。

 

「語れなさ」からひらかれる編集の倫理
 

 ていは自分を「華やかさに欠ける」「蔦重の女房にはふさわしくない」と評し、語る資格などないと身を引こうとします。ところが、その自己否定の言葉こそが、〈吉原一の花魁のような女将が相応しい〉という語りの制度が抱える虚構を静かに揺さぶりました。ていが口にしたのは主張ではなく、語れなさそのものを正直に差し出す言葉です。だからこそ、それは制度を外から攻撃する叫びではなく、制度の内側に亀裂を入れる“沈黙の編集”となりました。

 

 ここで蔦重に突き付けられたのは、「何を語らせるか」ではなく、「どのような語りを語りとして迎え入れるか」という、編集者としての倫理的選択でした。制度の中で機能する“巧みなレトリック”ではなく、制度に居場所を持たなかった声に耳を澄ませること──それが蔦重の語りを支えた基盤でもあります。

 

 ていの言葉は、新たな正統性を掲げるのではありません。むしろ「語ることが怖い」「自分には価値がない」という揺らぎを、そのまま語りの場へ持ち込む。ここに、制度が当然視してきた前提――語る者は才気と自信を備えているべきだ――が内側からほつれ始めます。確信ではなくためらいが、語りの入口になり得ると示した瞬間、制度的語りに小さな裂け目が開き、物語の空気が入れ替わるのです。

 

 こうして『べらぼう』が提示する語りの力学は、強い主語や華やかな才気に支えられるのではなく、語れない/語らない当事者が周縁からじわじわと中心を組み替えるプロセスに貫かれています。この構造は、ジェンダー批評が扱う〈語られなさ〉の政治性や、SNSで「発信しない」態度が孕む批評性、さらには文学・人類学が問い続けてきた「語る資格」の問題とも響き合います。

 

 語られなかったこと、語りたくなかったこと、語る資格がないとされた声――それらが制度の語りに裂け目を穿ち、新たな倫理と関係性を浮上させる。『べらぼう』が私たちに示すのは、語る者の力を称賛する物語ではありません。「語られなかった者が語られる」ことの重みと、その声を受け止め形式を編み直す〈編集の倫理〉こそが、語りの未来を開く鍵である――その静かで力強いメッセージなのです。

 


べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十六

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十五

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十四

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十三

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十二

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十一

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十(番外編)

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その二十

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十九

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十八

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十七
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十六

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十五

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十四
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十三

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十二(番外編)

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十二

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十一
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その十
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その九

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その八(番外編)
べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その八

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その七

べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その六
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べらぼう絢華帳 ~江戸を編む蔦重の夢~ その一

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選挙前夜のイシス館で「すずかんゼミ」を体験する〜【『情報の歴史21』を読む ISIS FESTA SP】鈴木寛編 https://edist.ne.jp/post/isisfesta_20250620_suzukan/ https://edist.ne.jp/post/isisfesta_20250620_suzukan/#respond Thu, 10 Jul 2025 23:00:35 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87485  週末に東京都議会議員選挙が控え、全国で参議院議員選挙が始まろうとしている6月20日金曜日の夜、豪徳寺のイシス編集学校で情報の歴史を読むイシスフェスタSPが開催された。16回目を迎えたイシスフェスタに登壇したのは、鈴木寛 […]

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 週末に東京都議会議員選挙が控え、全国で参議院議員選挙が始まろうとしている6月20日金曜日の夜、豪徳寺のイシス編集学校で情報の歴史を読むイシスフェスタSPが開催された。16回目を迎えたイシスフェスタに登壇したのは、鈴木寛さん。満を辞して、否、待ちに待ったと言うべき、通称”すずかん”さんの来場だ。松岡校長も千夜千冊449夜 の『アナーキー・国家・ユートピア』ロバート・ノージック)で何度も「鈴木くん」と呼びかけていた。

 

 

 鈴木寛(すずき かん)さんは、参議院議員時代に文部科学副大臣を二期務め、文部科学大臣補佐官としても四期働き、日本を教育の面から豊かにしてきた。現在は、自身が直接、大学で教鞭を取る。その傍らで、卒近代のソーシャル・プロデューサーを育成するための「すずかんゼミ」を1995年に立ち上げ、30年が経つ。今や、教え子達はIT、ソーシャル、生命科学分野のベンチャー、起業家や官僚、政治家となり、新たな時代を作るエポック・メーカーとして、様々な分野で活躍している。

 

 鈴木さんの詳細なプロフィールはこちらの記事を参照されたい。

【6/20開催】鈴木寛、登壇!!! 東大生も学んだこれからの時代を読み通す方法【『情報の歴史21』を読む ISIS FESTA SP】

ご本人の手で丁寧にまとめられた自分史のクロニクルは、編集工学研究所や松岡正剛と交差している。ソーシャル・プロデューサー養成法も、編集工学がベースにあるようだ。

 

 では、鈴木さんは『情報の歴史21』を如何に読むのだろう。ISIS FESTAで明かされた「すずかんゼミ」でも使われるという方法を紹介しよう。

 

  • ◆「情報の歴史」からインプットする歴象に学ぶ

 鈴木さんは、研究室や家など、普段過ごす場所の全てに『情報の歴史』を備えているという。自宅にも3冊。そのうちの1冊は寝室の枕元で、いつでも手に取ってペラペラと見られるようにと。まさに情報の歴史にまみれているのだ。この日に使った投影資料は、多くのページが年表で、歴象を年代ごとに「科学的発見・発明」、「産業ビジネス」、「国際政治の動向」の3分野に分けて並べたものだった。

 

 「すずかんゼミ」には年表ワークという学習メソッドがある。関心のある時代のできごとを拾い、年表を作ってみるというものだ。もうひとつ、大切にしているのは、PCCP(フィロソフィー、コンセプト、コンテンツ、プログラム)と呼ばれるメソッド。プロジェクトを立ち上げようとする際は、これをひとつずつ埋めていくのだが、そのためのインプットに必要なのが年表だという。ソーシャル・プロデュース手法の肝は、類似の時代、参照する時代を振り返って年表にすることなのだそうだ。

  

 高校生でも”年表ワーク”はできる。ディズニーが好きな生徒は、ディズニープリンセスの歴史を追ってみたそうだ。すると、白雪姫やシンデレラのようなお姫様から、アナやモアナへと、キャラクターの変遷が見えてくる。日々の辛さに耐えながら王子様を待つ昔の『シンデレラ』と、『アナと雪の女王』や『モアナと伝説の海』に現れる、自立して勇敢に生きる女性像の違いに気づけば、フェミニズムやジェンダーの考え方につながる。それは、「大学院の社会学くらいの学びになる」と、鈴木さんはいう。歴史を紐解くことは学びそのものなのだ。

 

 「情報の歴史」からバタフライ・エフェクトを探す

 「科学技術が国際政治を変える」と、投影される膨大な歴象が拾い出された年表を繰りながら、鈴木さんは歴史を振り返り、「面白い話はいくらでもあるんです」、と話し始めた。

 

 イタリアの物理学者であるエンリコ・フェルミは、1934年に発見した中性子による原子核破壊技術で1938年にノーベル賞受賞をすると、その足で、アメリカへ亡命した。妻がユダヤ人であったため、ムッソリーニ政権下のイタリアを逃れたのだ。その後、フェルミはアメリカで、原子爆弾開発プロジェクトであるマンハッタン計画に参加し、原子爆弾を完成させた。科学技術の進歩が核兵器の開発や拡散をもたらしたとはいえ、もしも、フェルミがユダヤ人に恋をしなければ、1945年までに原子爆弾が完成し、日本に投下されることはなかったかもしれない。とも考えられる。鈴木さんは、そんな歴史のバタフライ・エフェクトを見つけるのも「情報の歴史」の面白さだという。


 さて、科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、数学(Mathematics)の4つの領域を総合的に学ぶ教育をSTEM教育と呼ぶ。アメリカを始めとする各国で科学技術立国を目指して叫ばれる教育理念でもある。子どもの頃から音楽を志し、大学時代には演劇にも携わった鈴木さんは、この4分野にアート(Art)を+1した、STEAM教育を提唱する。アートは、総合探究であって、これからのAI時代には特に、を持つアートが重要になるというのだ。そして、歴史を読む時にも、アートは重要な意味を持つ。

 

 ベルリンの壁が崩壊した時の革命の主人公に挙げられる、ロックボーカリストのデビット・ボウイは、ベルリンに住み、西側でコンサートしながら、東ドイツの人々に声を届けた。その声が重なって、ベルリン革命が起こった。また、1971年の第三次インドパキスタン戦争の際は、ビートルズのジョージハリソンが、ニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで『バングラデシュ難民救済コンサート』を開催し、「バングラデシュ」歌う。その翌年、1972年にバングラデシュは独立を勝ち取った。これらは、軍事ではなく、アーティストが国際世論を動かし、国際政治に大きな影響を与えた例である。

 

 「情報の歴史」から引っ張り出したデータで、「この時、これがあったから、こうなったのだ」と気づく時、色々な仕組や装置が同時多発的に共同編集的に動き、立体的に見えてくる。鈴木さんは情報の歴史」を眺めながら過ごす時に至福を覚えるのだと笑みを浮かべる。

 

 「情報の歴史」からスパイラルに未来を語る

  • 『「熟議」で日本の教育を変える: 現役文部科学副大臣の学校改革私論 (教育/2010)『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』 (リアリティ・プラス/2019)『ボランタリー経済の誕生 自発する経済とコミュニティ』(実業之日本社/1998)

 

 実際に鈴木寛さん自身が年表を使ったソーシャル・プロデュースの例が、著書の『熟議で日本の教育を変える』(2010)にある。副題を「現役文部科学副大臣の学校改革私論」とする本書に、明治2年頃から立て続けに起こった明治初期の教育改革を「学制百年史」から参照し、平成の教育政策へと引き直した『明治・平成の教育改革対象年表』を作って載せているのだ。2010年発行の書籍なので、2011年以降についてはプランでしかないのだが、2025年の今、答え合わせをすると、ほぼ年表通りに進んできていることに感嘆する。

 

 対照年表には、明治2年の「京都の小学校創立」、「大学の管制を定め、府藩県の学校統括」に対応して、2010年に「全国コミュニティスクール協議会立ち上げ630校」、2011年に国・地方・大学・実業界・NPOが対話・連携・協働による人材育成政策立案・実施」とある。実際に今、コミュニティスクールは2万校あり、学校のボランティアが1000万人を超えた。花壇の手入れや子どもの送迎も含め、多くの人が良い学校を作るために関わっている。

 

 また、明治3年、「東京・横浜間に電信開通」した年には、2011年〜「ICT活用による個別教育、協働教育実践校」を並べている。実際は、2017年に文部科学省の教育の大方針として、公正な個別最適化と協働学習が示された。それを維持するためのギガスクール構想により、今では全ての小中学校に情報端末が普及するようにもなった。対照年表に描かれたことが、数年以内には実現していることになる。

 

 鈴木寛さん曰く、「歴史はスパイラルアップに進む」。全く同じことが起こるとは言えないが、あるパターンを繰り返しているというのだ。縦軸には科学技術の進化というベクトルがあるが、何かを生むパターンはスパイラルの上から見ると似ている。VUCAの時代、混沌の時代だからこそ、改めて歴史を振り返り、次に何が起こるのかを考えたい。

 

◆「情報の歴史」をAIに読ませると・・

 

 この日、鈴木さんは、参加者にお題を出していた。まさに、「情報の歴史」からスパイラルにこの後を占う方法の実践だ。

 今日の動乱する世界情勢(ウクライナ戦争、中東問題、トランプ、米中衝突、民主主義の揺らぎ、科学技術の発展がもたらす明暗など)の行方を占い、我々がよりよい決断や行動をしていく際に、特に参照すべき「時代(〇〇〇〇年から〇〇〇〇年まで)」や「歴史的事象(単数または複数)」を『情報の歴史21』から選ぶとともに、そうした歴史から我々が学ぶべきインサイトについて、説明してください。様式は自由だが、スライド、PPTが望ましい。枚数は自由だが、2枚から4枚が望ましい。

 

 いくつかの回答に加えて、最後に参加者のひとりが質問を投じた。

「イスラエルとイランの関係など、第三次世界が勃発しても不思議はないと思える今、二国の暴走をどのように考えたらよいでしょう」。

 

 鈴木さんは、「難しい」としつつ、「すぐに答えを出せない問題にAIはどう答えるか、聞いてみましょう」と、NotebookLMというGoogleのシステムを開く。『情報の歴史21』のPDF 版を、他の様々な情報と共に読ませる「すずかんゼミ」の資産ともいえるもので、本邦初公開だという。参加者の視線は、目の前で答えを出そうとする画面に釘づけられた。

 「イスラエルと中東のこれまでの歴史を概括し、今後の展開に重要な要素を教えてください」

と質問を入れると、AIは、イスラエルと中東の過去の歴史を遡った上で、以下の3点を重要な要素として挙げた。

    •  ・二項対立的思考の超克
    •  ・共創への転換と共感性の重視
    •  ・複雑系の理解と「大きな物語」の失墜

なるほど、AIから、誰もが納得しそうな回答を得ることはできる。しかし、実際にはさらなる知の編集が必要になりそうだ。

 

 鈴木さんは、コミュニケーションと情報プロセスが民主化され、AIによって知の相対化が加速する今、同時にインテリジェンスの非知性至上主義化が起きて、人類の歴史が新しく作られようとしている、と言う。知のありようが大きく変わる中で、人間はどう生きていくのかをゼロベースで編集し直す時でもある。そのためにも、この本楼は、多様な背景を持つ世界の人々と共に、松岡正剛のミームを受け継いだ我々が、世代を超えて創発を起こすための大事な場になるのだ。鈴木さんは、「共に頑張りましょう」と、イシス館とオンラインの参加者に向けて決意を促した。

 

 この日、イシスフェスタの本会場に集まった参加者の平均年齢はいつもより10歳以上若かったのではなかろうか。講演を終えた鈴木寛さんを囲む輪から漏れ出すエネルギーは眩しいほどだった。これが身体性を説く鈴木寛さんによる「すずかんマジック」の源なのだろう。そう遠くない未来、次世代のエポック・メーカーがここから誕生するはずだ。松岡校長が千夜千冊449夜 で何度も呼びかけた「鈴木くん」が、ココから羽ばたいたように。

 

【映像で楽しみたい方へ朗報! 『情報の歴史21』を読む 第16回 鈴木寛篇 アーカイブ動画 販売中!

こちら のリンクから、イベントの録画映像をご購入いただけます。

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儀式にはどんなパワーがある!?ディミトリス・クシガラタス『RITUAL』&ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分』 https://edist.ne.jp/list/honnoren_matsuri_2/ https://edist.ne.jp/list/honnoren_matsuri_2/#respond Wed, 09 Jul 2025 21:00:43 +0000 https://edist.ne.jp/?p=87682 ほんのれんラジオの最新エピソードが公開されました! イシス編集学校で世界読書奥義伝[離]まで了えた4名(ニレヨーコ、おじー、はるにゃ、ウメコ)がお送りするほんのれんラジオ。   ほんのれんvol.28は、“祭り […]

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ほんのれんラジオの最新エピソードが公開されました!

イシス編集学校で世界読書奥義伝[離]まで了えた4名(ニレヨーコ、おじー、はるにゃ、ウメコ)がお送りするほんのれんラジオ。

 

ほんのれんvol.28は、“祭り、足りてる?特別な時間の作り方。2本目のエピソードです。
成人式、入社式、盆踊り、お中元..儀式や祭りがなくならないには、ワケがある!?

 

儀式にはどんなパワーがある!?ディミトリス・クシガラタス『RITUAL』&ジョルジュ・バタイユ『呪われた部分』

 

▼お品書き

祭り、ホントに減ってる?/人類を幸福に導く最古の科学=儀式/『RITUAL』登場/どうして人々は血まみれでマリア像を礼拝するのか/儀式の力3つ/”靴を買ったらトイレの神様に見せる/スペインの激アツ火渡り/鼓動が他人と同期する/痛い儀式をすると寛容になるっぽい/バタイユ登場!『呪われた部分」/投資と消費/ ぜんぶ太陽のせいだ

 

▼今月の旬感本

(1) 『RITUAL一人類を幸福に導く「最古の科学」』ディミトリス・クシガラタス(著) 田中恵理香(訳)晶文社2024
(2) 『呪われた部分一全般経済学試論・蕩尽』ジョルジュ・バタイユ(著) 酒井健(訳)筑摩書房2018
(3) 『最高の集い方一記憶に残る体験をデザインする」プリヤ・パーカー(著)関美和(訳)プレジデント社 2019
(4)『日本の祭り 解剖図鑑 <最新版>』久保田裕道(著)X-Knowledge 2023
(5) 『うたげと孤心」大岡信(著)岩波書店2017

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