新書を股裂き!目次読書の公開WS開催@大阪

2019/11/19(火)14:56
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 図書館スタッフは悲鳴をあげた。「まずは、本をバキバキに割ります」帯を剥がし、表紙を脱がし、両の手でページを掴みぐりぐりと背を開く。「180度開脚できます?あれですあれ」と、福田容子師範はまっさらな新書を手込めにする。参加者は食い入るように見つめた。

 

 本を読むには作法がある。11月4日、大阪・枚方市立さだ図書館で編集ワークショップが開催された。昨年11月に続き2度目の今回は、目次読書がテーマ。「わかる!読める!楽しい!~編集術で鍛える『読む力』」と銘打たれ、11名が参加した。

 

 

 ナビゲーターの福田は、京都在住、書籍の編集経験も豊富なプロのライターだ。多読ジムの開発メンバーでもあり、松岡正剛の読書術を1年半以上研究。「校長の目の動きまで知りたい」と直々に手ほどきを受けた、読みのエキスパートでもある。

 

 対する参加者も、枚方市内在住の図書館ヘビーユーザーたち。着席するなり配布資料に目を落とし、全員が黙々と『知の編集術』を読んでいる。月5~6冊の読書量には飽き足らず、もっと速く、もっと多くの本を読みたいとの切望が、紙を繰る音となって開始前の会場に満ちていた。

 

 

 「『読む』と『書く』には共通のコツがあります」福田は、冴えきった関西弁で目次読書のレクチャーを始めた。ポイントは、構造を理解すること。目次は、書き手にとっての設計図。だから、読む場合は、それを見取り図として全体構造を把握すべし。

 

 参加者はペンを走らせ、基本を頭に叩き込む。いよいよ目次読書の実践だ。さだ図書館司書が厳選した新書100冊から、気になる1冊を手に取りスタンバイ。福田のガイドに従って、いざ表紙をめくる。

 

 本の柱である目次を音読、付箋とペンで、キーワードにマーキング。表紙・帯・裏表紙、前書き・後書き・奥付けまで眺めてから、ようやく本文へ。全ページを3分でめくったら、ふたたび目次へ。

 

 本文を1文字ずつ追う従来の読書が一筆書きなら、目次読書はデッサンだ。「2回めに目次を読むと、内容の奥行き、感じますよね」表紙から奥付けまですべてを軽くなぞり、イメージの層を重ね、本の輪郭を立ち上げる。

 

 アタマからお行儀よく読むだけが読書ではない。自分の手に馴染みやすいよう、本をたわめ、ペンで汚し、行きつ戻りつ踊るように本と付き合えばいい。参加者は、たったの20分で初対面の新書と打ち解けた。

 

 

 

 ワークの仕上げは、ポップづくり。読み手として仕入れた情報をもとに、今度は書き手となってキャッチコピーへと仕立てる。息を吸ったら吐くように、読んだら書く。書いたら読む。その往還が編集だ。参加者めいめいにA5の色画用紙が配られた。200ページの新書をこの1枚へ。参加者は、互いにその本のアピールポイントを語り、簡潔な言葉に要約してゆく。15分後、ポスカとマッキーでスケッチされた本の横顔が並んだ。

 

完成した11人11色のポップは、さだ図書館で展示される。参加者が読んで書いた足跡が、まだ見ぬ誰かの道しるべとなる。


  • 梅澤奈央

    編集的先達:平松洋子。ライティングよし、コミュニケーションよし、そして勇み足気味の突破力よし。イシスでも一二を争う負けん気の強さとしつこさで、講座のプロセスをメディア化するという開校以来20年手つかずだった難行を果たす。校長松岡正剛に「イシス初のジャーナリスト」と評された。
    イシス編集学校メルマガ「編集ウメ子」配信中。

コメント

1~3件/3件

川邊透

2025-07-01

発声の先達、赤ん坊や虫や鳥に憑依してボイトレしたくなりました。
写真は、お尻フリフリしながら演奏する全身楽器のミンミンゼミ。思いがけず季節に先を越されたセミの幼虫たちも、そろそろ地表に出てくる頃ですね。

川邊透

2025-06-30

エディストの検索窓に「イモムシ」と打ってみたら、サムネイルにイモムシが登場しているこちらの記事に行き当たりました。
家庭菜園の野菜に引き寄せられてやって来る「マレビト」害虫たちとの攻防を、確かな観察眼で描いておられます。
せっかくなので登場しているイモムシたちの素性をご紹介しますと、アイキャッチ画像のサトイモにとまる「夜行列車」はセスジスズメ(スズメガ科)中齢幼虫、「少し枯れたナガイモの葉にそっくり」なのは、きっと、キイロスズメ(同科)の褐色型終齢幼虫です。
 
添付写真は、文中で目の敵にされているヨトウムシ(種名ヨトウガ(ヤガ科)の幼虫の俗称)ですが、エンドウ、ネギどころか、有毒のクンシラン(キョウチクトウ科)の分厚い葉をもりもり食べていて驚きました。なんと逞しいことでしょう。そして・・・ 何と可愛らしいことでしょう!
イモムシでもゴキブリでもヌスビトハギでもパンにはえた青カビでも何でもいいのですが、ヴィランなものたちのどれかに、一度、スマホレンズを向けてみてください。「この癪に触る生き物をなるべく魅力的に撮ってやろう」と企みながら。すると、不思議なことに、たちまち心の軸が傾き始めて、スキもキライも混沌としてしまいますよ。
 
エディスト・アーカイブは、未知のお宝が無限に眠る別銀河。ワードさばきひとつでお宝候補をプレゼンしてくれる検索窓は、エディスト界の「どこでもドア」的存在ですね。

堀江純一

2025-06-28

ものづくりにからめて、最近刊行されたマンガ作品を一つご紹介。
山本棗『透鏡の先、きみが笑った』(秋田書店)
この作品の中で語られるのは眼鏡職人と音楽家。ともに制作(ボイエーシス)にかかわる人々だ。制作には技術(テクネ―)が伴う。それは自分との対話であると同時に、外部との対話でもある。
お客様はわがままだ。どんな矢が飛んでくるかわからない。ほんの小さな一言が大きな打撃になることもある。
深く傷ついた人の心を結果的に救ったのは、同じく技術に裏打ちされた信念を持つ者のみが発せられる言葉だった。たとえ分野は違えども、テクネ―に信を置く者だけが通じ合える世界があるのだ。