39[花] 入伝式「物学条々」-世界に向かうカマエをつくる

2023/05/20(土)19:35
img

 2023年のG7広島サミットも2日目を迎えた。ロシアとウクライナの戦争の終結が見えず、核の脅威に対する危機感が広がり続けているなか、被爆地・広島での開催である。人類は二度と同じ過ちを繰り返してはならないと訴えることを止めず、祈り続ける地で、首脳たちが集う意味は大きい。国家を背負ったリーダーたちも、広島だからこそ交わし合える言葉を紡ぐと信じたい。G7に必要なのは、議論や主張ではなく、方法である。

 

一座建立
 2023年5月13日、世界で一つの方法の学校、イシス編集学校では39[花]の入伝式が行われていた。豪徳寺にある編集工学研究所の本楼に集まったのは、編集学校の師範代を目指す入伝生と、その指導陣である。今期も、社会や仕事における課題や、自身の切実を抱えながら24名が日本全国、そしてスイスから入伝した。

 編集学校の講座で唯一、開講初日から集って始めるのがこの花伝所だ。編集コーチになっていくために、高速で変化する7週間の最初の「渡」が入伝式なのである。この日を境にロールが変わり、学衆は入伝生となる。

 ネット上の学校であるからこそ、リアルも大切にするイシスでも、パンデミック中は入伝式をZOOMにせざるを得なかった。だが今回は、3年半ぶりのリアル開催である。いつものキリリとした緊張感以上に、一期一会の喜びが溢れ、格別な一座建立となった。
 「全くメモが追いつかない」「師範講義に圧倒されてしまった」「もう頭がパンパン」と言いながらも、入伝生の目はまるで子どものように輝いている。人が再び戻ってきた本楼はエネルギーで満ちていて、部屋ごと膨らんでいるように感じられた。そのエネルギーは師範講義を更に熱くさせ、仲間との交わし合いをよりいきいきとさせた。本楼という場も、「師範代のわたし」へと越境する覚悟を問い、後押ししてくれているのだ。

 

物学条々(ものまねじょうじょう)
 入伝式の目玉の一つでもある「物学条々」のグループワークは、1か月前から取り組んできたプレワークがベースとなっている。花伝師範陣が選んだ千夜千冊10夜の共読をもとに、これから演習を共にする仲間と、道場の「五箇条」を編集せよ、というお題である。千夜千冊の編集的先達と、メンバーたちと相互編集しながら、師範代になっていくためのカマエを自分たちで作っていくのだ。

 39[花 ] 花伝エディション

 

1 1730夜『見えないものを集める蜜蜂』ジャン=ミシェル・モルポワ 
2 1694夜 『トポフィリア』イーフー・トゥアン
3 258夜『重力と恩寵』シモーヌ・ヴェイユ
4 443夜『五輪書』宮本武蔵
5 1571夜『源氏物語』その3 紫式部 
6 1815夜『思考と言語』レフ・セミョノヴィチ・ヴィゴツキー
7 1731夜『自己組織化する宇宙』エリッヒ・ヤンツ
8 10夜『内なる神』ルネ・デュボス
9 1509夜『ユーザーイリュージョン』トール・ノーレットランダーシュ
10 1811夜『ダブル・ヴィジョン』ノースロップ・フライ
   

39[花]のために選ばれた10夜も、「生命に学ぶ、歴史を展く、文化と遊ぶ」イシスらしい、多様なジャンルの千夜であった。これらの千夜が「物学条々」に選ばれた意味についても、考え続けたい。

 

 グループワークの制限時間は20分。自分たちで進行、書記、発表者のロールを決め、共読してきた千夜を手すりに、交わし合いはスタートした。「幼心は入れたい」「やっぱり『五輪書』でしょう」「エディティング・モデルの交換を意識していきたい」と次々に意見を出し合う。どの千夜にも思い入れが強く、絞るのは難しいと頭を抱えながらも、師範講義に刺激を受け、プレワークの回答とはまったく別の発見を伝え合う場面も見られた。数時間のうちに、すでに入伝生に変化が訪れ始めているのを、師範たちが見守る。必死の時間だからこそ、焦りが集中力に変わり、そのときにしかできない編集が生まれていくのだ。不足を抱えながらも、その場を引き受ける勇気も、師範代のカマエに繋がってくる。

 

 以下が、発表時の五箇条である。

 

2023.5.13時点の五箇条。道場の色は花の色を表している。式目演習がスタートしても、道場では並行して五箇条の編集が続く。

 

 それぞれの道場の発表後、スジ・カマエ・ハコビというメトリックで、錬成師範の大濱朋子、山本ユキ、嶋本昌子から講評は返された。3師範から、笑顔でたくさんの不足を手渡された入伝生からは、「もっと型を使えたはずなのに悔しい」「編集方針が足りなかった」「ツールを忘れていた」などという声が漏れた。わかりやすさの罠にかかって一般的な言葉使いに寄ったり、千夜のエッセンスが薄まったり、「用意と卒意」がうまくかみ合わなかった道場もあった。だが道場ごとの振り返りで「一緒に考えられてよかった」「もっと磨きたい」という前向きな発言に見られたように、実際に式目演習がスタートしても五箇条編集は続いている。反省もリバース・エンジニアリングし、不足をを起点に共に編集を始める姿は、すでに師範代のカマエに通じている。
 次に39[花]が本楼に集うのは、すべての演習を終えた後の「敢談儀」。これからは道場別に共読と指導とフィードバックが続く日々だが、自学自習中も入伝式のエネルギーの面影を感じて進むべきである。千夜を通して出会った、イマジネーションのリプレゼンテーションに挑戦し続けてきた著者のエネルギーも、千夜を通して松岡正剛校長が手渡しているエネルギーも、編集学校のエネルギーもすべてつながっているからだ。五箇条をつくることは、「師範代になる」というターゲットに向かって、プロフィールを描いていくことだけではない。イシスに流れるエネルギーを継承した師範代になり、その方法で世界に向かい、自由をつくっていくためのスタートなのである。

 

文:嶋本昌子
アイキャッチ:山内貴暉

 

【第39期[ISIS花伝所]関連記事】

師範代にすることに責任を持ちたい:麻人の意気込み【39[花]入伝式】
◎速報◎マスクをはずして「式部」をまとう【39[花]入伝式・深谷もと佳メッセージ】
◎速報◎日本イシス化計画へ花咲かす【39[花]入伝式・田中所長メッセージ】
ステージングを駆け抜けろ!キワで交わる、律動の39[花]ガイダンス。


  • イシス編集学校 [花伝]チーム

    編集的先達:世阿弥。花伝所の指導陣は更新し続ける編集的挑戦者。方法日本をベースに「師範代(編集コーチ)になる」へと入伝生を導く。指導はすこぶる手厚く、行きつ戻りつ重層的に編集をかけ合う。さしかかりすべては花伝の奥義となる。所長、花目付、花伝師範、錬成師範で構成されるコレクティブブレインのチーム。

  • 40[花]入伝式「物学条々」~塗師の入伝生・漆椀の道場五箇条

    京セラドームでプロ野球の日本シリーズが開幕した10月28日、豪徳寺では40期花伝所の入伝式が行われた。25名の入伝生は師範代になる道に向かって、原郷から旅立った。旅にはお供が欠かせない。入伝式では、頼れるお供の一つ「道場 […]

  • 【花伝SPエディットツアー】「編集指南」の秘伝、あります!

    フルタイムで仕事して、自宅では家事に子育て、加えて3度のご飯より指南が好き。師範代のポリロール的編集稽古日常は、仕事や生活シーンとも“地続き”だ。遊びから生まれるもの、対話から生まれるもの、不足から生まれるものを逃さずフ […]

  • 孵化して次を掴む

    39[花]孵化し冒険に旅立つ

    昨年の今頃、花伝敢談儀に出席できるかと私は悩んでいた。妻が臨月だったのだ。そのとき産まれた娘がもう1歳になる。 少し前まで寝ているだけだったが、いまはもう「ずりばい」をする。まだしっかり四つん這いになれないので、ずりずり […]

  • 39[花]「代」の可能性

    ■モンスターの躍動 大谷翔平と天気予報は毎朝のニュースに欠かせない。WBC決勝戦も二刀流。MLB の歴史を覆すヒーローの躍動は注目せずにはいられない。モンスターの生みの親はWBC2023チームジャパンの栗山監督だ。既存の […]

  • 39[花]学びの場に注がれる光

    13歳の時、ゴッホの『星月夜』を観て世界が揺らぐ音を聞いた。澄んだ夜空を照らす月明かりは、縺れながら消え、消えながら縺れ通過する風に陰影を投じる。その刹那、ゆらめく光は瞼の奥に息を吹きかけ笑う。「こっちもあるよ」。そこ […]