私の28[花]キャンプは、吉阪隆正の建築思想【不連続統一体】の体験だった。場面ごとに異なる空間が次々と立ち現われてくる。よく分からないままに一周すると、ようやく建物を貫く原理のようなものが見えてくる。この「遅れて」やってくる全体性がたまらなかった。

昨年の今頃、花伝敢談儀に出席できるかと私は悩んでいた。妻が臨月だったのだ。そのとき産まれた娘がもう1歳になる。
少し前まで寝ているだけだったが、いまはもう「ずりばい」をする。まだしっかり四つん這いになれないので、ずりずりとはいはいするのである。動き始めた彼女は好奇心の塊だ。縦横無尽に注意のカーソルを動かし、後先考えず突進していく。そして、いつの間にか周りがものに囲まれたり何かに嵌ったりして動けなくなっている。
おや、林立するテーブルとイスの脚に突っ込んで嵌ったようだ。窮地にいるようにもみえるが、彼女はやすやすと編集して状況を打開する。
まず泣く。とはいっても少々大きめの声での泣き真似だ。これまで動けなくなった既知の状況からアナロジーを働かせ、この未知も対応できるとカマエているのだ。ほら、誰かが近くにやってきた。お次は、じっとみつめる。相手の注意のカーソルをまんまるボディに向けさせるのである。そして、仕上げに手を差し出す。ずりばいの状態から背筋するように思いっきり腕を上げてはアフォーダンスが動かない。脇をあけるだけ、ほんの少し上げるように出す。すると、相手の両手が4本の指を揃え親指を立ててやって来る。手が差し入れにくそうなのでもう少し体をそらしてやる。いい感じに手が丸みを帯びて近づいてきた。微調整、差し込まれたらしっかり脇を絞めておく。視界が上がった。無事抜け出したのだ。ここで終わらせてはいけない。最後に、ニコニコきゃっきゃっとフィードバックしておくのが重要だ。
こうして編集している様子をみると、非言語かつリアルタイムではあるが、乳児が出題をして相手のモデルをリバースし、モデル交換をしながら、抱っこという南に向かって指南しているようである。さらには状況をメタに捉えたときに、抱っこというターゲットに対して直接的に親の足を掴んでねだるというアケではなく、フセて相手に気づいてもらうように庇護欲を刺激しつつ問いかけたような気すらしてくる。あ、だから、林立する脚に毎回嵌っているのか・・・。
そもそも窮地に陥らなければ、好奇心に任せて冒険をしなければ、こんなことは発生しない。親としては何も起きない籠の中に入れておけば平穏が保たれる。だが、柵(ベビーガード)があれば超えていく、危ういところに飛び込むから、学びがあるのだ。動き始めた彼女にとって匍匐前進した先にある世界は常に有事で、日々編集力が磨かれている。自らの足で立つ日もそう遠くはない。一抹の寂しさはあるが、かわいい子には旅をさせよ、である。
花伝所にも自ら立ち歩み始めに差し掛かっている者たちがいる。演習をしてきた師範代のたまごたちだ。錬成・キャンプで殻を破り、師範代認定という孵化を果たした。最後のプログラム敢談儀に向けて、各道場でプレ敢談(守破で言う汁講)が行われ、苦楽をともにした仲間たちと来し方を振り返りつつ、師範代登板という行く末に向けて用意が進められている。
揺籃期も仕舞いである。もう乗り越えるまでもなくそこに柵はない。放伝生となり、幼な心の、好奇心の趣くままに冒険の旅へ向かう。
文 蒔田俊介(花伝師範)
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