近場のコンビニ気分で編集稽古【51守汁講】

2023/07/09(日)09:56
img

 6月下旬、ロシアにおける民間軍事会社の突然の反乱により世界情勢が緊迫化していた。有事のときこそ、編集力が必要だ。ほぼ同時期に51[守]近場のダイモーン教室でオンライン汁講が行われた。神と人の間を繋ぎ、何かの機会で隠れた力をあらわす精霊が教室名に含まれる。汁講では学衆5名と、師範代の畑本ヒロノブ、師範の相部礼子、番匠の渡辺恒久の合計8名で編集ゲームと歓談を行った。

 

 チャット機能を使って、用法3の略図的原型の稽古から「社長はそもそも、会社の●●●です」がアップされる。文化や文脈の奥に秘められたアーキタイプ(原型)を辿るお題。学衆たちは稽古モードとなり、真剣な表情で回答を挙げる。
 「ゴリラ」。突然の投稿によって、周りが思わず笑い崩れる。学衆Yからの回答だった。一般的な社長のスマート(理知的)なイメージとは対照的なワイルド(野生)感。意表を突くギャップが場の感情を揺らしたのだ。相部から「大地感があって良い」との評価が手渡された。学衆Hの「ドン」にも注意のカーソルが向く。畏敬の念を感じるワード。新田たつおのマンガ『静かなるドン』を連想する。学衆Yの「心臓」からは、会社の発展を願う熱いエネルギー源である社長の「らしさ」が伝わってくる。「鏡、旗振り役、はしら、地面、ライオン、足、錨」などの回答が続く。部屋の中にあるモノ、建物の地盤、動物、船の要素などのメタファーを使って、学衆たちは社長のアーキタイプに迫っていた。

 

 次のお題「SNSはそもそも、●●●です」では、学衆Yの「ポケモンバトル、全方位射撃」に対して注意のカーソルが向いた。中学生のころに初代ポケモンを遊んだとき、ゲームボーイの通信ケーブルを使った友人や兄弟とのポケモン交換を思い出す。電子空間上の生物っぽいモノの交換はSNSの持つ機能へと継承されている。
 渡辺が学衆Yに対して回答の理由を問う。特定の相手との論戦だけでなく、外野の人々へもコトバを放っている「らしさ」をYは捉えていた。渡辺は「アーキタイプのお題では元の元が何だったのかを探す」と前置きしつつ、「ポケモンバトルを選んだのはSNSと似ていることに気づきアップした」と、回答で使われた方法を明らかにした。さらに「洗い忘れた水槽、出会いの場、火花、スーパーボール、飲み会、田んぼの中の無数の微生物」もアップされた。SNSの「地」を見つめなおしたり、「らしさ」を捉えたりと、稽古で学んだ方法が生きているゲームになった。

 

 歓談では学衆Fが「仲間の回答を見ると影響を受けてしまうので、提出前は見ないようにする」と話す。渡辺が稽古の心構えとして「ほかの仲間の回答を先に見て、方法の型を使って見つけたことを少し乗せるくらいでよい」と述べる。それに呼応して、学衆Hが過去に感銘を受けて印刷した千夜千冊1318夜『模倣の法則』を紹介した。この千夜の冒頭では「世の中で一番つまらない信仰はオリジナリティ信仰である」の一文がある。アーキタイプのお題を回答したアタマに対して渡辺のコトバ「学ぶことの語源が『真似ぶ』である」が響いた。
 学衆Yの発言「コンビニに行く感覚で回答する」に対して、聞いた人がすぐにイメージを共有できる略図的原型の活用を渡辺は評価した。私たちダイモンズは教室名の「近場」に含まれるすぐ傍の感覚をEditCafeの教室に対して持ちつつ、これからの稽古を進んでゆけばよいのだ。


(文:畑本ヒロノブ)


  • イシス編集学校 [守]チーム

    編集学校の原風景であり稽古の原郷となる[守]。初めてイシス編集学校と出会う学衆と歩みつづける学匠、番匠、師範、ときどき師範代のチーム。鯉は竜になるか。

  • 子どもと膜でアメーバに――52[守]師範、数寄を好きに語る

    数寄のない人生などつまらない。その対象が何であれ、数寄を愛でる、語るという行為は、周囲を巻き込んでいく――。 開講直後の52期[守]師範が、「数寄を好きに語る」エッセイ。第2弾は、総合診療医でもある遠藤健史師範が語る。遠 […]

  • 月に見守られ18教室が躍り出す―52[守]開講

    満月が欠けていき、連続して三晩の闇がくる、そこで月は「死」を迎えたかに見えるのだが、それから細い新月が「再生」し、また偉大な活力を発揮しはじめる。古代人はそこに月が生きているという実相を見たのだった。―――『ルナティッ […]

  • フライヤー=旗を掲げよ――52[守]開講前レポート

    「旗」は古来、何かを指し示すものとしてあった。日本では旗(幡)は神を招き入れるものであり、古代イスラエルでは人々の集まる中心地に旗が掲げられた。古代ギリシャは都市ごとに旗にしるしを描き、戦国武将も海賊も、おのれの旗をあ […]

  • 器と共に育つ――52[守]師範、数寄を好きに語る

    数寄のない人生などつまらない。その対象が何であれ、数寄を愛でる、語るという行為は、周囲を巻き込んでいく――。 開講間近の52期[守]師範が、「数寄を好きに語る」エッセイ。「器数寄が昂じて生活道具を扱うギャラリーを運営して […]

  • 10/9 本楼エディットツアー

    ◇[守]師範陣のエディットツアー◇発想力も表現力も劇的に変わるとっておきのEdit game!

    編集とは何か? 仕事をしている中で、「最近、新しいアイデアが出てこないなぁ」と悩むことはありませんか。 街を歩いていて、刺激的なポスターや、キャッチコピーにはっとして立ち止まり、「私もこんなことを考えつけたら…」と思うこ […]